第25話「全国大会本番! 舞台に立つその日が来た」
会場は、都心にある大規模ホール「クラフト・アリーナ」。
全国から集った強豪校たちが、自信作を携えてその場に集っていた。
手芸部は控室で最後の準備を進めていた。
「……ついに、この日が来たんだね」
志乃が静かにつぶやく。
「うん、ドキドキがすごい……心臓が“フリル”になりそう……」
こよみが半泣き気味に言って、みんなの緊張が少し緩む。
「行こう。あの日縫った“手”たちを、見せに行こう」
つばきの声は落ち着いていて、まるでリーダーのようだった。
【プレゼンステージ:発表のとき】
手芸部の出番は午後の部、ステージプレゼン形式。
作品をモデルが着て歩き、代表者がそのデザインと想いを語る。
スポットライトの下――
ワンピースを着た志乃が、ランウェイを歩く。
淡い桜ピンクと生成りを基調にした布、
そこに重ねられた“刺繍の手”たちが、光を受けてやさしく浮かび上がる。
【志乃のスピーチ】
「私たちは、この服に“つながる手”を縫いました」
声は震えていなかった。はっきりと、観客の方を見据えて。
「それぞれ違う不器用な手、怖がっていた手、信じることに慣れていなかった手……
でも、そのすべてが、ひと針ひと針で重なって、ぬくもりになったんです」
会場が静まり返る。
「かわいいは、飾りじゃない。
誰かを想って、手を動かすこと――それ自体が、私たちにとっての戦いであり、願いでした」
【審査員の反応】
会場の一番奥、審査員席。
著名な服飾デザイナーや専門家たちが無言で見つめる中――ひとりの審査員が、ぽつりとつぶやく。
「……これは、“手芸”の原点だ」
「技巧ではなく、感情で縫い上げた服。
だからこそ、見る者の心に“触れる”んだな」
【控室にて】
「……やれることは、やったよね」
詩織が言うと、真宵がこっくりとうなずく。
「うん。あとは“かわいい”を信じよう」
こよみは大きく深呼吸し、志乃の手をぎゅっと握る。
その手は、あの日よりも確かで、やさしく、強かった。




