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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十二章 夜明け
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七十話 怒り


 その光は、魔剣の形を大きく変えてしまった。


「アザーはその剣を刀と呼んでいた。

斬撃に特化したこの形状は、空を飛べるようになった君にとって、より戦いやすいものになるはずだ」


「刀……師匠の武器と同じ形……」


 ブリーズソードは、灰色の刀身を持つ刀に姿を変えた。スィンザは、魔剣の形状が大きく変化したことで、重心の位置が変化したのを感じ取った。


「さあ、ここからが本番だよ。その刀には君の魂が宿った。

元々持っていた風の力も強くなり、さらに自ら炎を作り出すこともできる。

だけど注意して。

その強烈な炎は、風の力と合わさって暴走を引き起こし、最後は君の体さえも焼き尽くしてしまうから」


「暴走……」

 スィンザはそう呟くと同時に、魔剣の力だけで炎を起こして見せた。


「……ソウル・ゲート。バード・オブ・スカイ」

 ソウル・ゲートを開いたその瞬間に、炎の翼が発現した。


「……もっと……もっとだ! もっと強い炎じゃないとあいつは倒せない!」


 魔剣から放出された風が竜巻となり、炎を際限なく巨大化させた。


「もっと、もっと! 私の怒りはこんなもんじゃない! 

あいつに殺された人たちの無念は、この程度の苦しみじゃ追いつけない! 

もっと熱くなれ! 私に命をかけさせろ! 

もっと燃えろ! 炎よ、私の怒りそのものになれ!」


 スィンザの怒りに感化されるように灰色の刀身が熔けた鉄のように発光した。その変化はスィンザの灰色の翼や、髪にも起こった。


 やがて発光した場所からは、ガスに引火したかのように、絶え間なく炎が噴き出ていた。


「なんだ、あの火柱は……」


 スィンザの起こした火柱は、巨大城壁を超えるほどの高さになっていた。

 城壁やその周囲にいた人々にとって、それは攻撃の手を止めざるを得ない異常事態になっていた。


「……スィンザ、それ大丈夫なの?」


 離れた場所からスィンザを見守っていたテリルとタリナは、その激変に驚きを隠せなかった。


「あの炎、なんだか怖い……スィンザの炎は優しかったのに……」


 怒りの感情に満ちたその荒々しい炎は、見る者を威圧した。


「……スィンザ、ごめんね……」


「それが……あなたの……」


 突然、姿を見せた〈存在を失った者〉の姿を見て、スィンザは驚いた。


 スィンザは、存在を失った者の正体をミモレスの魔法の産物のようなものだと思い込んでいた。


「今の私にできる精一杯の誠意だよ。本当にごめんね」


 そこにいたのは、胸に達するほどの長い白髪が特徴的な女性だった。

 青い長袖のワンピースを着ていて、顔のなどはミモレスに似ているが、そのやつれた雰囲気は別人のように見える。左目を髪で隠しているのも、ミモレスとの雰囲気の違いを感じさせた。

 さらに両足がなく、宙に浮いていて、左腕の袖には腕が通っていなかった。


 それとソウル・ゲートを有していないように見えた。


「……謝らないでください。あなたは約束を守ってくれただけです。

だから私もあなたとの約束を守ります。

待っていてください。私が必ず、九腕大蛇を倒します」


「スィンザ……」


 スィンザは、白髪の女性に会釈をしたあと、火柱の上昇気流に乗って空に飛び上がった。


「私が必ずこの街の平和を取り戻す。

失ったものは取り戻せないし、取り戻した平和の中に、私はいないと思う。

でも、それでも私が守りたいものは、まだたくさんある。

まだ私が守れる。いや、守ってみせる!」


 スィンザは鳥のように羽ばたくことはなく、爆炎の推進力だけで夜空を切り裂いて進んだ。


「スィンザ……行かないで……。

ボクは、何をやっているんだろう。

人の命を犠牲にして、自分の望みをかなえようとしている。

これじゃあ、『あの男』と何も変わらないじゃないか……。

ボクは、いつの間にか、人の心まで、代償にしてしまったんだ」


 存在を失った者は、誰にも知られることなくこの世界から消え去った。


 ♢♢♢


「鬱陶しいな。往生際が悪すぎるぞ」

「黙れ。まだおれは戦いを諦めていないぞ」


 アザーと九腕大蛇は、戦いを続けていた。

 しかしその戦いはかなり一方的な状況だった。


(体が思い通りに動かない。

魔法も何故か、ろくな魔法が使えない。

なぜだ? 

こいつが来るまで思い通りに戦えていたというのに!)


 九腕大蛇はアザーの攻撃を避けること重点を置き、ダバロの姿で戦っていた。


「ほう。無様に逃げ回るのは、何かの作戦か?」


「あはは。ああそうだ。精々用心するといい」

(奴が持つ闇の女神の遺骸……あれさえ手に入れば……)


 広めの間合いを維持したままにらみ合った両者の耳に、聞いたことのない爆音が届いた。


「なんだ?」

「……?」


「――九腕大蛇!」

 空から飛来した巨大な火の玉が、九腕大蛇の胴体を一刀両断した。


「なにぃぃぃ⁉」


「お前を消し去るために帰って来たぞ! 九腕大蛇ッ!」


 爆発と共に地面に着地したスィンザは、鬼のような形相で金色の液体化した九腕大蛇を睨みつけた。


「スィンザか⁉ なんだ、その姿は⁉」


 アザーは、スィンザの別人のような姿に驚いた。


「師匠! こいつは私に譲ってください。

トライホーンの戦いは……私の大切な人たちの戦いは、私が決着をつけます!」


「いや……だが……」

 普段冷静沈着なアザーでさえ、この急展開にはついていけなかった。


 戸惑いを見せるアザーの目の前で、スィンザは弾丸のような速度で再び九腕大蛇に斬りかかった。


「小娘が! 調子に乗るなよ!」


 九腕大蛇は、再び若かりし頃のダバロの姿となり、金色の剣でスィンザの攻撃を受け止めようとした。


 しかしスィンザの炎の斬撃は、金色の剣もろとも、再び九腕大蛇の体を両断した。


「斬られた⁉ いや違う。熔かしたのか⁉ 私の金色の体を⁉」


 九腕大蛇は、斬られた断面を見てそう確信した。

 だが、それを容易に信じることもできなかった。


「なぜそんな力を扱える⁉ これほどの高温、お前の体ももたないはず」


「私の心と魂を燃やす怒りの炎が尽きない限り、私は死なない。

私の怒りの炎は、お前を消し去るまで消えたりしない!」


 スィンザは、右腕を伸ばし、刀を体から遠ざけるかのような独特な構えを見せた。

 先ほどまで刀を握っていた左手からは、煙が上がり、その皮膚は赤く爛れていた。


「く、狂ってる……焼身自殺に付き合っていられるか!」


 多数の人間の記憶を持つ九腕大蛇は、スィンザのその姿、その思考を異常と判断した。

 自分を倒す力のある英雄将軍に加えて、気が狂った炎の怪物の相手はできないと言わんばかりに、九腕大蛇は黒い森の方向へと逃走した。


「逃がさない。渦炎(かえん)……」

 スィンザを中心に炎の竜巻が巻き起こる。


「……爆風穿ち!」

 スィンザは逃げ出した九腕大蛇の背中をめがけて、熱線のような見た目の風穿ちを放った。炎の竜巻から供給された爆炎が、黒い砂さえも焼き払う。


「ばッ、馬鹿なぁああ!」


 爆風穿ちをギリギリで回避した九腕大蛇は、その技の威力に恐怖を覚えた。


「ひ、一人の人間が出せる魔法の威力じゃないぞ……それどころか金色の力を使っても、こんな威力の魔法は……」


 爆風穿ちが着弾した場所では、城壁から放たれる魔弾砲とは比較にもならないほどの大爆発が巻き起こった。


「あの小娘が……バーモハンターになることさえも危ぶまれていた、あいつがこんな力を隠し持っていたというのか⁉」


(勝てない、我の選択肢の全てを、あの炎が焼き尽くしてしまう)


 九腕大蛇はダバロの姿で、鹿跳動、神速を使った本気の逃走を始めた。


「逃がさない。黒い森に逃げ込むのなら、黒い森を焼き払ってでも殺してやる」


「スィンザ! そのままだと死ぬぞ⁉ もう十分だ!」


 飛び上がろうとするスィンザをアザーが呼び止めた。

 アザーの目から見ても、今のスィンザの状態は危険に見えた。


「師匠。私は……必ず街の平和を取り戻します。だから、あいつだけは絶対に逃がさない!」


 スィンザはアザーの制止を振り切って、空へと飛び上がった。

 城壁から放たれる魔弾砲の弾幕にも恐れを見せず、それを突き抜けて上昇した。


 間もなく夜が終わろうとしている空の色さえも、スィンザの目には留まらなかった。


「どこだ、九腕大蛇……お前だけは、絶対に逃がさない!」



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