表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十二章 夜明け
69/72

六十九話 灰の下の烈火


「スィンザ、アザーを助けて……」

 それは夢か幻か判別もできなかった。


「あなたは誰?」


「……私は、禁術の代償で〈存在〉を失った者。だから今の私は、何者でもない」


 その声は、ミモレスに似ている気がした。


「師匠を助けるって、どうすれば……?」


「君が九腕大蛇を倒して欲しい。

アザーが、あれを倒すよりも先に。そのための力なら、私が用意するから。

だからどうかアザーを助けてほしい。

私はもう払える代償がない。

たぶんこれが最後なんだ。どうか……助けてほしい」


 その声からは、疲れと焦燥感を感じた。


「……あいつを倒せる力をくれるのなら、あなたにどんな思惑があっても構わない。

私はあいつを許せない。

あいつを倒せるのなら、そしてそれがあなたの望みなら、私は喜んで受け入れる!」


「ありがとう。スィンザ。君に全てをかける……」


 その言葉は、光の中に消えていった。

 それは夢か幻か。


  ♢♢♢


 スィンザは、温かい光の中で目を覚ました。

 全身の緊張がほぐされて、重たい体から解き放たれたかのような感覚になっていた。


「……タリナ?」


 スィンザの目には桃色の優しい光と、タリナの姿が映った。


「スィンザ、まだ痛いところある? 

とりあえずだけどケガしてる場所は全部治しておいたよ」


「え⁉ ああ……本当だ。どこも痛くない……」


 スィンザは驚くように体を擦った。


「でもなんでタリナがここに⁉」


「飛んできたのはスィンザの方だよ。

私は、城門の入り口を守る人たちのお手伝いをしてたの。

そうしたら凄い勢いで、ケガをしたスィンザが飛んできたんだよ」


 スィンザは上体を起こして周囲を確認した。


 そこは、城壁とそれを守るためのバリケードの間にできた、前線の待避所のような場所だった。

 さらに、半透明なドーム状の魔法の天蓋の中にいることもわかった。


「これ、タリナの魔法?」


 スィンザは天蓋に顔を向けながらそう言った。


「そうだよ。砂や雨を防ぐくらいの強度しかないけど、この中にいると自己回復力を高めることができるよ」


「すごい……すごいよ、タリナ。

本当にありがとう。これでまた戦える」


 そう言って立ち上がろうとしたスィンザの手を、タリナが両手で握りしめた。


「ダメだよ。行っちゃダメ! 

スィンザのチーム……もう無いんでしょう? 

前線から死にかけて戻って来た人が、そう言ってたよ。

お願い。行かないでスィンザ。

私は、スィンザを死なせるために回復したわけじゃないよ……」


「ごめんね。タリナ。私は、もう逃げられない。

目の前で大切な人たちを殺されて、馬鹿にされて……

それでも、私には何もできなくて。

私はもう許せない。弱い自分も、大切な人たちの命を奪った、あいつの存在そのものさえも!」


 スィンザの怒りに燃える瞳を見たタリナは、思わず手が震えた。


「だ、ダメだよ。回復魔法も万能じゃない。

体は何不自由なく動くようになっても、疲労した生命力は回復しないんだよ。

次に大ケガをしたら、急速回復魔法でも傷を治せなくなる。

そんな状態の人をこんな過酷な戦場に送りだせないよ!」


「……ごめんね、タリナ」


 スィンザはタリナの必死の説得を聞き入れることなく立ち上がり、側にあった魔剣を手にして魔法の天蓋の外に出た。


「うっ!」


 魔法の天蓋の外は、城壁から放たれる砲撃音や、その振動で凄まじい騒音がした。

 それに加えて周囲の人々の喧騒も合わさり、スィンザは思わず耳を塞いだ。


 どうやら魔法の天蓋は、高度な防音機能も兼ね備えていたようだった。


「まってよ、スィンザ! まだ話、終わってない!」


 タリナは、スィンザを引き留めるために彼女の左手首を掴んだ。


「タリナ……」

「何? 聞こえない!」


 スィンザの言葉は騒音にかき消され、タリナには届かなかった。


 スィンザは自身の左手首を掴むタリナの右手に手を添えて、何度も首を横に振った。

 優しい対応をしていても、それはこれ以上の会話の拒絶に他ならなかった。


「……後悔させないでよ! 私が、スィンザを治したしたことを、後悔させないでよ!」


 そんなスィンザに対して、タリナは大粒の涙を流しながらそう叫んだ。


「どーしたのー⁉」


 二人の間にやって来たのは、スィンザの回復を待っていたテリルだった。

 彼女は、街の中のフィフスランクが消滅したあと、壊された大扉からバーモの侵入を防ぐ一団の中に加わっていた。


 その後、スィンザの回復を行うタリナの護衛を担っていた。


「テリルも止めて! スィンザが、また最前線に行っちゃう!」


 タリナは、泣きながらも大声を出して必死にそう説明した。


「ええ⁉」


 約数時間ぶりにスィンザと再会したテリルは、煤や埃で髪や、服が汚れていた。


 タリナの服もよく見ると、血が付いたり、裾が破けていたりしていた。


(テリルも、タリナも、ずっと戦ってたんだ。

場所もやり方も違うけど、一緒に戦ってくれていたんだ)


 スィンザは、そんな二人の姿を見て、覚悟を決めた。

 今のスィンザには、それを行う力がない。

 正当性もない。

 成し遂げられる根拠もない。

 ――あるのは怒りと、望みと、あいまいな約束だけ。

 人は、彼女を愚かだと言うだろう。


「テリル、タリナ、そこに並んで」


「え?」

「……これでいい?」


 タリナは困惑し、テリルは何かを察して素直に従った。


 スィンザは二人を横並びにさせると、そのまま二人に抱き着いた。


「スィンザ⁉」

「…………」


「待ってて。私が、必ずこの街の平和を取り戻すから」


 スィンザの声は、喧騒の中でもはっきりと聞こえた。


 テリルは、その言葉の重さを知っていた。だからこそ、スィンザの背中を何度も優しく叩いた。親友の夢を応援すると、ずっと前から約束をしていたから。


「じゃあ、行ってくるね」


 スィンザは二人から離れたあと、素早く背を向けて黒い森の方へ歩き出した。


「ま、待ってよ、え⁉ ……て、テリル⁉ どうして?」


 スィンザを追いかけようとしたタリナを、テリルが引き留めた。


「…………」

 テリルに言葉はなく、ただ涙を流しながら、激しく首を振るだけだった。


 ♢♢♢


「……ここでいい?」


 スィンザはバリケードを超えて、周囲にバーモ残骸だけが残る場所へとやって来た。


「そうだね。ここなら人の気配がないから巻き込むこともないよ」


 その声は、スィンザの背後から聞こえてきた。


「あなたの声、私にしか聞こえないんだね」


「私は存在を失った者。

だけど私が魔法を使っている間だけ、君と会話ができるんだ。

まぁ今はそんなことは、どうでもいいか。

さあ、ブリーズソードを横向きで持って見せて」


「わかった」

 スィンザは指示に従い、ブリーズソードを寝かせた状態で差し出した。


「最後に聞くよ。

この変化は、私と君の目的を果たした後、君の命を奪うかもしれない。

それでもいい? 

それが嫌なら、ここで考えを変えてもいいよ……」


「覚悟はできてるよ。

あなたの言葉をすべて信じたわけじゃないけど、それでもあなたの言葉が真実だった時、私にとってこの戦いは、命をかける理由になる」


 スィンザは、覚悟と怒りを込めて剣の柄を握り締めた。


「……では今からこの魔剣を進化させる。

進化したこの魔剣の炎と風は、形ある物を全て灰塵に変えてしまうほどの力を得る。

その力で、君は……あのシックスランクを倒すんだ」


 何もない空間から伸びてきた青白い手が、ブリーズソードに触れた。


「形も変わってしまうけど、許してほしい。

全てが上手くいった時、君にとっていい影響を及ぼすはずだから」


「それは――」

 スィンザの言葉を遮るように、魔剣の刃に刻まれたヤモリの刻印が、夜闇を照らす爆撃の閃光よりも眩い光を放った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ