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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十二章 夜明け
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六十八話 暗黒海嘯最終決戦【開幕】

 

 九腕大蛇は九腕半蛇の姿で、何かを貪っていた。


「――まだ戦うつもりか? ラゼラス」


 トライホーンのメンバーの遺骸を貪っていた九腕大蛇は、立ち上がったラゼラスに向かってそう訊ねた。


「お前だけは許すわけにはいかない。

……たとえ、ここで死ぬことになったとしても!」


 ラゼラスは地面を蹴って飛び上がり勢いをつけて、九腕大蛇に殴りかかった。


「……トライホーンは、バカな、死にたがりばかりだなぁ」


 殴りかかって来たラゼラスを、九腕大蛇は金色の大蛇の尾で払いのけた。


「今さらお前に何ができる? 元奴隷風情が。

バルターカやトライホーンのメンバーたちは、お前のことを心の中でバカにしていたんだぞ? 

そんな奴らのためにお前は、ここで死んでいくのだ! 哀れだなぁ」


「くだらない。

心の中で何を思っていたとしても、それを俺に直接言わなかったこと。

俺の戦いの邪魔をしなかったこと。

それが、俺たちの間にあった揺るぎない信頼関係だ。

今さらお前の戯言で乱されたりしない! 

この街は……俺たちが、命をかけて守る価値のある場所だ!」


 ラゼラスは、不屈の闘志で再び立ち上がると九腕大蛇の精神攻撃を撥ね除けた。


「今の俺ならお前を砕ける! この怒りと共に!」


「あははは! やってみろ! 迎え撃ってやる!」


 ラゼラスは駆け出しながら右手に魔力を纏わせた。


 それを見た九腕大蛇は、ラゼラスと同じ技を放つために自身の拳に魔力を纏わせる。


「「獣戦、闘角爆心拳!」」


 両者の爆心拳が炸裂し、周囲に凄まじい衝撃波を発生させた。


「……喜べ、ラゼラス! 

お前の拳は、確かに我が金色を打ち砕いたぞ! 

だがこの程度のことは、老いたバルターカでもできたがなぁ」


 九腕の内の一本を失った九腕大蛇は、ラゼラスを嘲笑うかのように笑った。


「ぐ……あぁぁぁぁ!」


 ラゼラスはその場に跪いて、右腕を失った痛みで絶叫した。


 彼の右腕の肘から下は、爆発によって粉々に砕け散ったのだ。


「未熟者が。お前にこの技はまだ早かったようだな」


 九腕大蛇は、失った腕を再生させた。


 そして巨大な金色の尾を使って何かを運び、ラゼラスの見える位置へと持ってきた。


「ラゼラス。お前の望みは、結局何一つ叶わなかったなぁ」


「ヨ、ヨナ! お前、何を⁉」

 九腕大蛇は、ヨナの遺体をラゼラスに見せつけたのだ。


「最後まで生き残ったお前は、特別な方法で殺してやろう。

愛した女に殺されるというのは、どんな気持ちなんだろうな」


 九腕大蛇は、大きな口を開けてヨナの頭を丸飲みにしようとした。


「やめろ! やめてくれ!」


 ラゼラスが痛みも忘れて駆け出そうとしたその瞬間、九腕大蛇はヨナの遺体を残して粉々に崩れ落ちた。


 ラゼラスの隣には、いつの間にか、ヨナの遺体を抱きかかえた紫髪の男性が立っていた。


「な、何が起こったんだ?」


「……遅くなってすまなかった。ここから先は、俺に任せてほしい」


 戸惑うラゼラスにそう伝えた紫髪の男は、ヨナの遺体を丁寧に、地面に降ろした。


「止血をしたら急いで城壁に向かって逃げろ。

俺はこいつを倒すために、ここに来た」


 武器とは思えない骨剣を握るその男は、金色の瓦礫と化した九腕大蛇から目を離すことはなかった。


 ラゼラスは、人の影が起き上がったかのような異様な妖精を連れたその男の姿に、安堵と恐怖を抱いた。


「……やはり奴では荷が重かったか」


 金色の瓦礫は液体のように変化して、再び九腕半蛇の怪物の姿に戻った。


「相変わらず用心深いな。だが今回は、油断はしないぞ」


 アザーは、神器を魔法の鞘に納め、その代わりに別の刀を引き抜いた。


「ソウル・ゲート。フェアリー・エフェクト」


 開錠語と共に影の妖精は人の姿に変身して、アザーの鞘から自発的に刀を引き抜いた。


「俺はさらに強くなったぞ。

人の記憶をさらに取り入れて、あの頃よりもさらに強く!」


 九腕大蛇は、アザーの変化に対抗するかのように、若き日のバルターカの姿に体を作り替えた。


「そうは見えないが」


「そうか。ではわからせてやろう! 

最強となった私の強さを!」


 九腕大蛇は、凄まじい速度でアザーに急接近してその剛腕を叩き込んだ。


「魔伝一刀流、金色斬魔」


 凄まじい量の魔力を纏った刀の斬撃が、九腕大蛇の剛腕を容易く両断した。


「なんだと⁉」

 九腕大蛇は思わず驚愕した。


 無敵を誇る金色の外皮に加えて、バルターカの魔力武装も重ね合わせた世界最強の魔力の鎧が、いとも容易く両断されてしまったのだ。


「……的を小さくしてよかったのか?」

 アザーは拍子抜けしたかのように、そう言った。


 影の妖精の金色斬魔が、容赦なく九腕大蛇の首を刎ねた。


「くっ! ろ、鹿跳動!」


 九腕大蛇は、切り落とされた頭と腕を捨てて、残った体を必死に退避させた。


「神器の一撃を魔法で防いだまではよかったが……

お前、明らかに弱くなってるぞ」


「ありえない。

バーモの体と無尽蔵の魔力、人の熟練された戦闘技術と洗練された魔法の数々……

これほどのものを持つこの私が! 弱いはずがないだろう!」


 九腕大蛇は、老いたハルビリッツの姿に形を変えてそう叫んだ。


「そうか。禁術記憶喰いか。

人でなければ人格の崩壊という、重い代償を踏み倒すことができたが、人を喰いすぎた今のお前は、その代償を受けることになった。

人の記憶を貪欲に取り入れた結果、お前は限りなく人間に近づいて、弱くなったんだ。

皮肉な話だな」


「人格の崩壊だと? ありえない、ありえない……」


 アザーの言葉を受けて、九腕大蛇は、思わず頭を抱えた。


「お前に禁術を与えた人間は、最初からこうなることが、分かっていたのかもな。

自分の強さも理解できていない今のお前からは、脅威を一切感じない」


 アザーは、そう言いながらも気を緩めることなく、慎重に距離を詰めた。


 この凄惨な戦いを着実に終わらせるために。


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