表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十二章 夜明け
67/72

六十七話 ラパン市街戦【終結】

「あの翼は、やがて伝説になるだろう」

 誰が遺したのかもわからないその言葉は、風になって、ただその時を待つ。



「うおおおお!」

 ジスタは、鋭い爪で巨大な敵の体を掘り進んだ。


「あはははは! まるで虫のようね!」


「なんだとぉ⁉」


 巨大球根型バーモは、その巨体を高速回転させてジスタを振り払った。


「ぐああああッ!」


 ジスタは、街の中の建造物に叩き付けられ、倒壊した建物の下敷きになった。


「まいったなぁ。凄まじい質量だ。まるで要塞を相手にしているかのようだ」


「あ、あの、ジスタさんは大丈夫なんですか⁉」


 テリルは、建物の下敷きになったジスタに、目もくれないゴハにそう問いかけた。


「老いても元英雄。あの程度じゃ怪我もしない。

しかし相性が悪いなぁ。

もっと細長くなったりしてくれないだろうか……」


「はゎ……」


 球根型のフィフスランクとの戦いに、元英雄のジスタとゴハが加わっても、戦況は好転しなかった。


 相手の圧倒的な質量、堅牢な防御力、そして物体修復魔法による完全修復になすすべがなくなりつつあった。


 タナハナ村の魔導武装船からの砲撃でも、相手に致命傷は与えられなかった。


「唯一の救いは、相手の攻撃手段の少なさか」


「そうですね。

今のところ脅威はあの高速回転と、それによって巻き起こるこの凄まじい突風だけ。

でもこのままじゃ、街も城壁も持たない」


 バリゼとテリルの言う通り、球根バーモの行動パターンは少ないように見えた。

 だが、球根型バーモの高速回転による突風によって、街は瓦礫の山になりつつある。


「そうだなぁ。

壁になっている建造物がなくなれば、あの突風はさらに威力を増す。

逃げるための体力を残しておきたかったが、そうも言っていられないか」


 ゴハは、覚悟を決めて突風の中立ち上がった。


「ソウル・ゲート、ビースト・アビリティ……」


 ゴハはソウル・ゲートを開き、額の角を巨大化させた。


「つ、角っていうより剣⁉」


 テリルは、ゴハの角を見て思わずそう口にした。


 その角は、角というより折れた剣そのもののように見えた。


「ソウル・ゲートとは、光の女神が、我ら人間に与えた武器。

その姿は研鑽の末に、進化するのだ」


 ゴハは球根型バーモに狙いを定めると、上体を大きく逸らすように頭角を振りかぶった。


「獣戦奥義、一剣石斬角」


 かつてシックスランクを両断したゴハの剣技は、突風や障害物もろとも球根型バーモの巨体を斬り裂いた。


「くぅぅぅ、あぁぁぁぁ!」

 自身の体を斬り裂かれた球根型バーモは、高速回転をやめて悲鳴を上げた。


「届かなかったか……」


 ゴハは、ソウル・ゲートを解除してその場に膝をついた。


「あっ! でも見えた! 魔力製石!」

「よし! この距離なら!」


 テリルとバリゼは、素早く魔弾銃の照準を合わせた。


 そしてこの好機に反応したのは、テリルたちだけではなかった。


「ここで決めます! 我ら墓守の一族に伝わりし継承魔法〈王墓の鍵〉」


 飛行魔法で宙に浮んだパステナは、空に両手を掲げた。


 その両手から放たれる赤と青の魔法が入り交じり、パステナの身長の何十倍もの大きさの魔法のドリルが形作られた。


「な、なによそれ……」


「これは王墓の鍵穴の無い門を開けるための鍵! 

またの名を大穿孔魔法〈キング・スパイラル〉!」


 パステナは、球根型バーモの切断面に巨大な魔法のドリルをねじ込んだ。


「ぎぃぃあぁぁぁぁ!」

 球根型バーモは、魔法の防壁でドリルに抗った。


「よし! テリル、私たちも続くぞ!」

「はい!」


 バリゼとテリルは、バーモの魔法防壁の耐久力を削るために魔弾銃を連射した。


「行けるぞ、パステナ!」


「おうおう! やっちまえ!」


 レクエスと、ジスタはほぼ勝利を確信していた。


「はぁあああ!」

「うおおおお!」

「うりゃああああ!」


 パステナたちの猛攻は続く。


 しかし、魔法のドリルで直接敵の防壁と接しているパステナには、嫌な感覚があった。


「……ハァ、ハァ……」

 ほぼ限界まで魔力を使ったパステナは確信した。


「あはは……あはははは……」


 魔法のドリルが消えて、煙幕のように立ち込める土埃の中から、その笑い声は聞こえてきた。


「おいおい、マジかよ」


「あの魔法でも仕留められねぇのか⁉」


 パステナの魔法が、派手なだけの見せかけの魔法などではないと、わかっていたレクエスとジスタはその事実に驚愕した。


「わたしたちの魔弾も……」


「そうか。この街一番の防御魔法の使い手、ファトレの防御魔法か」


 球根型バーモが持つ人間の記憶は、少数精鋭の魔導士チームの防御の要を担う人物のものだった。


「あははは! 〈七重防壁〉、いい魔法じゃない。

バーモハントでは一回限りしか使えない無用の長物でも、私の膨大な魔力があれば、最強の盾になるわ!」


 球根型バーモは、高笑いしながら損傷部位を完全修復した。


「……打つ手なしか」

 テリルの横で、バリゼが思わずそう呟いた。


「――防御特化型で、さらに魔法を使うバーモか。とても興味深いね」


 その声の主は、いつの間にかテリルの隣に立っていた。


「ミモレスさん!」


「時間の感覚さえも狂わされていたなんてね。こんなに遅くなってごめんね。テリルたちが無事でよかった」


 そこには認識阻害魔法を解除し、爬人魔導士の姿に戻ったミモレスがいた。彼女は、球根型バーモを見つめたままテリルにそう謝罪した。


「み、ミモレスさん、それは?」


ミモレスの手には、釣竿型の魔導器が握られていた。


「これ? これは〈魔導器、フィッシング・テレポート・ロッド〉だよ。

釣り上げた対象を強制転移させる魔導器なんだ」


 ミモレスはそう説明しながら、見事なキャスティングで球根型バーモに釣り針を引っかけた。


「かかった! そりゃあ!」


「あっ! 消えた⁉」


 ミモレスが獲物を引き上げる動作を見せたと同時に、球根型バーモの姿が街の中から消えてなくなった。


「いや! 上空だ!」

「え⁉」


 バリゼの言葉通り、球根型バーモは遥か上空から地上に向かって落下していた。


「み、みみみ、ミモレスさんッ⁉」


「まぁまぁ、見ていてよ。……目覚めよ〈ゴールド・ペンタグラム〉」


 ミモレスは、いつの間にか釣り竿を手放し、それの代わりに金色一色の立派な魔法杖を手にしていた。


 その杖の先端には、五芒星のシンボルが強烈な存在感を放っている。


「ゴールド・ペンタグラム・エックス・バースト(金色五芒星の未知なる爆発)」


 金色の魔法杖から放たれたバツ印型の魔弾が、空から落下してくる球根型バーモに直撃して、その体を貫通した。


「この魔法の欠点は、魔力製石さえも消滅させてしまうことと、魔法反動性影響力の値の大きさ……」


 そう語ったミモレスの言葉通り、ミモレスの魔法が直撃した球根型バーモは、塵すら残さずこの世から完全に消滅してしまった。


「お嬢さん。あなたのその杖……シックスランクか?」


「ええ。そうです。この魔法杖は、私が女傑である証明なのです」


 ゴハの指摘に、ミモレスはよそ行き口調、通称「女傑将軍モード」でそう説明した。


「ミモレスさん、アザーさんは……」

「アザーなら、城壁の外へ向かったよ」


 テリルの問いかけに、ミモレスは城壁を指差した。


「遅かったなぁ、ミモレス。こっちはマジで大変だったぜ」

「失礼ですよ! なんてことを言うんですか⁉ あなたは!」


 上空からレクエスと、パステナのチェイサーコンビがやって来た。


「ごめんなさい。こんな大惨事から、人々を守るためにボクたちがここにいたのに、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」


「――いえ! それは違います!」


 ミモレスの言葉に反論したのは、幼い少女をつれた若い男性だった。


「セブンアローズのリヴァンツじゃねぇか」


 彼の姿を見たレクエスが、驚いた表情を見せた。


「私がお二人の足止めをしてしまったことが、結果としてラパンをこんな姿に変えてしまった原因です! これは……私の……罪です」


 リヴァンツはそう言って、土下座するように頭を下げた。


「それも違うよ」


 ミモレスは、そう言ってリヴァンツの土下座をやめさせた。


「もう一度、何が悪かったか考えてみて。

君は、本当に自分が悪かったと思ったことだけを、反省したらいいんだよ」


「…………」

「お兄ちゃん」

 嗚咽しながら泣き崩れた兄を、幼い妹が支えた。


 一同は、その兄妹の姿を見て、二人に不幸があったことを察した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ