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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十一章 金色邪王
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六十五話 最後の言葉


「――ふざけんじゃねぇ! 大した力もねぇ癖に今さらリーダー気取りか!」


 屈強な大男が、グラゼルターカに詰め寄った。


「テオルド……」

「親父さんの指名だか、なんだか知らねぇが、俺はお前をリーダーとはまだ認めてねぇぞ」


 トライホーンは、約十二組の独立した探索チームの連合組織である。


 そのため各探索チームには、明確な独立意識を持っている。


 それらを今までまとめることができていたのは、バルターカとダバロがいたという理由がとても大きかった。


「待ってくれ、テオルド! 今そんな事を言っている場合じゃないだろう」


 グラゼルターカに詰め寄ったテオルドを、ラゼラスが諌めようとした。


「バカ野郎! 今だからこそだろうが!」


 テオルドは、力任せにラゼラスを突き飛ばした。


「今さら俺たちだけが逃げてどうなる⁉ 

今も城壁の中から、魔力切れになりかけながら、大砲撃って戦ってる街の仲間はどうする⁉ 

どうせもう、今さら逃げることなんてできやしねぇんだよ! 

だったら俺は! 親父さんたちと一緒に戦って死にてぇ。

死ぬことなんてわかりきって、ここに立ってんだよ! 

お前らだってそうじゃねぇのか⁉ なぁ⁉」


 テオルドの問いかけに、賛同するように声をあげる者や、首を縦に振った者が複数いた。


「バカはテメェだ、テオルド。

お前は、何で親父と師匠が、チームの方針を人命優先にしたのか、何でトライホーンを立ち上げたのか、何もわかってねぇ……」


 グラゼルターカは、仲間たちの態度に我慢の限界を迎えたのか、説得を放棄してテオルドたちを睨み付けた。


「……リーダー。私たち、もう街の中には帰れないみたいだよ。

バルカナを城壁に連れてったウチの仲間が、さっきこっちに戻って来たんだ。

今街の中は、巨大なフィフスランクが大暴れしてて、めちゃくちゃになってるって……。

だからもう……私たちは、撤退もできない」


 トライホーンの女性メンバーの一人が、街の中の現状を伝えた。


「わかったか、グラゼル。

俺たちはもう、この戦いに参加した時点で、死んだも同然なんだよ。

テメェもバーモハンターだろッ! 覚悟決めろよ!」


 テオルドは、街の中の現状を聞いて俯いたグラゼルターカの肩を突いた。


「リーダー!」

 テオルドに突き飛ばされて力無く倒れたグラゼルターカに、ルモーンとスィンザが駆け寄った。


「――待って! みんな上を見て! 何か来る。備えて!」


 チームの険悪な空気を斬り裂くように、ヨナが声を上げた。


 バーモの探索や、魔力の感知能力に優れた魔導士であるヨナは、誰よりも早く、上空から襲い来る殺意の塊に気がついた。


「「金色の……砲撃?」」

 夜空から星々が落下してきたかのような数え切れない金色の光に、トライホーンのメンバーたちは思わず声を失った。


「――っ!」


 その中でただ一人スィンザだけが、ブリーズソードの力で空に飛び上がった。


「スィンザ!」


 ルモーンの呼び止める声に反応することもなく、スィンザはフレイムボールから炎を吸収した。


 そして炎の翼でさらに上昇し、向かい来る金色の砲撃に立ち向かった。


「九腕大蛇! お前の思い通りにはさせない! 

風よ! 炎よ! 

巨大な渦になって、みんなを守って!」


 スィンザは自分の周囲に巨大な炎の渦を作り出し、金色の砲撃の迎撃を試みた。


「え⁉」

 だが、スィンザにとって、想定外のことが起きた。


 金色の砲撃は、スィンザの炎の渦を避けるように軌道を変えて、地上に降り注いだのである。


 その動き方は、金色の光の砲弾の一つ一つに、意思が宿っているかのようだった。


「「うわああああ!」」


 金色の光は、明確な殺意を宿して人々を襲った。


「「きゃああああ!」」


 その動きは、小さな飛行型バーモ大群のようにも見えた。


「ト、トライホーンが……」


 スィンザは、仲間たちの悲鳴と断末魔の叫びで溢れかえる地上に向かって、全速力で降下した。


「そ、そんな……」

 スィンザが地上に着地した時、その場に立っている者はもう一人もいなかった。


 金色の光の砲弾も、もうそこには存在していなかった。


「う……あ、あ……」

 スィンザが地面に降りた場所の側には、地面に倒れたテオルドがいた。


「テオルドさん……」


 見てわかるほどの致命傷を負ったテオルドは、スィンザの目の前で事切れた。


 周囲を見渡すと、倒れている人たちのほとんどが、即死か息絶える寸前のように見えた。


「ヨナ……すまない」


 そんな地獄の中で、弱弱しいが、確かに人の言葉が聞こえた。


「ラゼラス……どーしよう。お母さん……一人になっちゃう……」


 スィンザは、その声の主たちの方に顔を向けた。


「お前のお母さんなら、きっと大丈夫だ。きっと……ラパンギルドの人たちが良くしてくれるはずだ」


 ラゼラスは、瀕死のヨナを抱き抱えながらひざまずいていた。


「ギルドが、優秀なバーモハンターの母親に感謝しないはずがない。

だから……いや、すまない。

ヨナ……俺は、お前を守りきれなかった……」


「……ラゼラス……一緒になってあげられなくて……ごめんね……」


 涙を流すラゼラスに、ヨナは最後にそう告げて、動かなくなった。


「…………」

 スィンザは、ラゼラスに声をかけようとしたがそれをやめた。


 そして胸の中に沸き起こる悲しみの感情を断ち切るように、ラゼラスたちから顔を背けて、思考を無理やり切り替えた。


(まだ生きている人がいるかもしれない。

そうだ。ルモーンさんを探そう。

ルモーンさんならきっと大丈夫。

それにルモーンさんの回復魔法なら、もしかしたらまだ……)


 スィンザは溢れ出る涙を拭い、生存者がいないかを探しながら、希望を信じた。


「ルモーンさん! ル、ルモーンさん……」

 ルモーンはすぐに見つかった。


「スィンザか?」


 黒い砂の上に仰向けに倒れたルモーンは、ゆっくりと目を開けた。


 彼の腹部からは、服の色を変えるほどの致命的な出血があり、左手は完全に欠損していた。


 自身の体に回復魔法をかけている様子もなかった。


「ルモーンさん。お願い! 回復魔法を使って! 生きることを諦めないで」


「…………」

 ルモーンは、涙を流しながら自身の側に座り込んだスィンザの頬に、右手で触れた。


「こんなところに、傷を作るなよ。……かわいい顔、してんだからさ……」


 ルモーンはスィンザの頬にできた掠り傷を、最後の回復魔法で治療した。


「こんな傷どうでもいいよ! お願い! 生きてよ……ルモーンさん……」


 スィンザは、ルモーンの右手を強引に剥がして、彼の腹部にその手を持って行った。


「……スィンザ、おれに、踏み出す……勇気をくれて……ありがとう」


「ルモーンさん! お願い! 生きて……生きてよ……」


 ルモーンの右手の緑色の光は、消えて無くなり、彼の側にいた緑色の妖精は空気に溶けて消え去った。


「……こんなお別れ……嫌だよ、ルモーンさん……」


 スィンザにとってルモーンは、紛れもない恩人の内の一人だった。


 当時テリル以外のチームメンバーに避けられがちだったスィンザのために、自ら後方支援チームを抜けてまで、探索チームを立ち上げてくれたのがルモーンだった。


 そこに城壁防衛銃士隊だったバリゼを加えて、スィンザとテリルにバーモハンターとしての居場所を与えてくれた人物だった。


「私まだ……ルモーンさんに何も返せてないのに……どうして……」


 スィンザは、まだ温かさが残るルモーンの遺体に縋り付くように泣いた。


「――ほう。スィンザ。お前どうやって生き残った?」


 背筋が寒くなるようなその声に、スィンザの心臓が高鳴った。


「九腕……大蛇……」


「あははは! 仲間を見捨てて空に逃げたのか? 所詮よそ者か。薄情だな」


 高笑いする九腕大蛇を睨みつけたスィンザは、怒りの感情に身を任せてブリーズソードを鞘から引き抜いた。



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