表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十一章 金色邪王
64/72

六十四話 繋いでいくことを選んだ者たち


「バル、最後に謝っておきたいことがある」

「こんな時にか?」


 ダバロとバルターカは、目の前の死神(シックスランク)に向かって並んで歩いていた。


「もう三十年近く前の話になるか。

カルシャに現れたシックスランクの討伐に、チームで加勢しに行くことをおれが止めた日のことだ。

おれがお前を止めなければ、お前はあの戦いで英雄になっていたはずだ」


「おいおい、ずいぶん昔の話だなぁ。何で今さら?」


 二人は確実な死を目前にして、異様なほど落ち着いていた。


「お前と組んでいた中で、唯一の後悔であり、心残りだった」


「そうかよ。だがあの日死んでいたら、今日のこの瞬間も、今のトライホーンも無くなっていたかもしれねぇ。

俺は最善だったと思うぜ。

……若けぇ頃には考えもしなかったことを考えるようになって、なおさらそう思うぜ。相棒」


 バルターカは、拳に魔力を纏わせた。


 それに呼応するようにダバロが、剣に魔力を纏わせて構えた。


「あはははは。二人だけで戦うのか? トライホーンよ」


 九腕大蛇は、ハルビリッツの姿のまま二人と対峙した。


 そしてハルビリッツであることを装うかのように、二人のかつての異名をあえて口に出した。


「俺たちはバルカナほど優しくはねぇぞ」

「そうだ。一瞬でも侮ったことを後悔させてやろう」


 ダバロは、一瞬で九腕大蛇の視界から消え去った。


「なにっ⁉」

 九腕大蛇は、首を刎ねられながら驚愕した。


 ダバロは神速の鹿跳動で、九腕大蛇の背後をとり、そのまま首を斬り落としたのだ。


 トライホーンの行動はまだ終わっていない。


「細せぇ老人に化けたことを後悔しな! 獣戦、闘角爆砕拳(とうかくばくさいけん)!」


 巨大な闘牛が突進したかのような威力のバルターカの拳が、頭を失った老人の体に直撃した。


 その拳は、爆弾のように炸裂し、老人の体を爆散させた。


 黒い砂になって飛び散った体の中に、光る物が飛び出て来た。


「見えたぞ! おおおっ!」


 宙を舞う九腕大蛇の魔力製石に、ダバロが渾身の斬撃を放った。


 しかしその斬撃は、幻を斬ったかのようにすり抜けてしまった。


「しまった! ハルビリッツの透過性魔法か!」


 ダバロの斬撃を避けて黒い砂の地面に落ちた魔力製石は、流砂にのまれるかのように黒い砂の中に姿を消してしまった。


「魔法とは実に便利なものだなぁ。

しかし、『奴』と再戦する時のために用意しておいた仕掛けに到達するとは、なかなかやるじゃないか。歴戦の狩人よ」


 黒い砂の中から生えるように現れた、金色の繭のような何かは、ダバロたちを称賛した。


「……それにバルカナほど、このハルビリッツの姿に効果は無いのか。

お前たちを盟友だと思っていたのは、この男だけだったということか。

つくづく哀れな人間だったのだな。ハルビリッツよ」


「勘違いするなよ。お前とハルビリッツは似ても似つかねぇ。

たとえ同じ顔をしていようが、ハルビリッツの記憶があろうが、お前は敵で、ハルビリッツの仇だ。

バカな俺でもよくわかる」


「そういうことだ。

今さらお前がどんな顔、形になったところで、おれの剣は鈍らない。

相棒の拳も緩むことはない」


「そうか。では、我が一番気に入っている姿で相手をしてやろう」


 九腕大蛇は、蛹から羽化するかのように金色の何かの中から九本の人の腕と、大蛇の下半身を生やした。


「なるほど。それで九腕大蛇なのか」


 ダバロは、その恐ろしい姿を見て、その名前に納得した。


「我が名は九腕大蛇。平伏せ人間よ。我は神にも等しい存在だ」


「バカかテメェは。

人が、神に何かを捧げるのは、感謝があるからだ。

俺たちは、テメェに恨みしかねぇんだよ!」


 バルターカは、闘角爆砕拳を九腕大蛇に叩き込んだ。


「お前も老いたなぁ。バルターカよ」

「なんだと⁉」


 九腕大蛇は、たった一本の腕で闘角爆砕拳を受け止めてみせた。


「かつて〈虎にも勝る暴れ牛〉と呼ばれたお前も、平穏な暮らしに体は衰え、小賢しい相棒に毒されて闘志と向上心を失った」


 技を受け止められて、その場から飛び退いたバルターカを、九腕大蛇はただ見送った。


「今のお前たちでは、我が金色に傷一つ付けることも叶わない」


 神を自称する金色の怪物は、ただ九本の腕を広げてみせた。


 その行動は、防御姿勢でもなければ、反撃の構えでもない。


 ただただ、自らの優位を見せつけただけの行動であった。


「……言っただろう。侮ったことを後悔させてやると」


 ダバロは、余裕を見せつける九腕大蛇の胸部に剣を突き刺した。


「ほう。覚悟だけは本物だったようだな」


「当たり前だ!」


 ダバロは、九腕大蛇の反撃を躱すように鹿跳動でその場を離れた。


「〈生命力の魔刃〉か。

生命維持に必要な力を全て、魔力に変換して高密度の魔力の刃を生み出す捨て身の技……

老い先短いお前が、あと何分それを維持できるんだ?」


「さあな。残り時間など知らないが、それでもおれは、死ぬまでお前を斬り刻む。

それに我ながら上等な最後だ。

『剣聖に届かなかった凡才の到達点』として、これ以上はない!」


 ダバロはそう言い終えると、その場から消え去ったかのような速さで九腕大蛇に斬りかかった。


「そうだ。お前は凡才だ。だから最後の最後まで天才に道を阻まれて、無様に死んで一生を終える」


 ダバロの命を乗せた斬撃は、九腕大蛇の手から放たれた帯状のスカーレット・レーザーに撥ね返された。


 斬撃を撥ね返されて体勢を崩したダバロに、九腕大蛇の手刀突きが迫る。


「相棒!」

 その野太い声と共に放たれた爆発を伴った拳が、九腕大蛇の巨体を弾き飛ばした。


 それにより、ダバロに敵の攻撃が当たることを防いだ。


「バル……」

「どうせ死ぬならよぉ。『最高』のまま死のうぜ!」


 バルターカの右の拳は、爆発で焼け爛れて激しく損傷していた。


 彼が放った〈闘角爆心拳(とうかくばくしんけん)〉は、凄まじい破壊力を有した技である。

 爆発性の魔法と共に剛腕の一撃を相手に叩き込む。


 それ故に自身の肉体への反動も凄まじく、この技に体が耐えられなくなったことをきっかけに、バルターカは現役を引退した。


 彼が若い頃は、高度な魔力制御能力により、反動や爆破による自傷をほぼ無効化できていた。


「老いた人間に、あと何回それが撃てる? 

老い先短い人間が、あと何分持ちこたえられる? 

お前たちでは、もはや足止めにもならないなぁ」


 二人の限界を見定めた九腕大蛇は、鎌首をもたげる毒蛇のように体を起こした。


「死はいつもおれたちの側にある。それがおれたちバーモハンターの宿命だ」


「そうだ。だからこそ俺たちは『繋いでいく』ことを選んだ。

街に一人でも残っている限り、俺たちはここを退かねぇ。

俺たちが境界の守り手だ! 

本当に足止めにもならねぇかどうか、確かめてみやがれ!」


 ダバロとバルターカは、再び九腕大蛇に立ち向かった。


「うおおおお!」

 ダバロは、敵の腕に胸を貫かれながらも、九腕大蛇の顔面に剣を突き刺した。


「おぉおおお!」

 バルターカは、自身の右腕と共に敵の腕一本を闘角爆心拳で粉砕した。


「あはははは! 人の言葉がわかるようになって本当によかった。

人の言葉や気持ちがわかるようになったからこそ、こんな気持ちを楽しめるようになった」


 突然大笑いし始めた九腕大蛇に、バルターカは困惑した。


「なんだと?」


「人の記憶を持たない我であったなら、尾で薙ぎ払うだけでお前たちとの戦いは終わっていた。

あれを見みるといい、バルターカ、ダバロ。

ん? そうか。

ダバロはもう死んだか。残念だ」


 九腕大蛇は、巨大城壁の方角を指差しながら、空いている手で顔面に突き刺さったダバロの剣を抜き捨てた。


 地面には、仰向けに倒れたまま動かなくなったダバロの姿があった。


「相棒……」

 バルターカは動かなくなった相棒の姿を見たあと、九腕大蛇が指差す方向に目を向けた。


「な、なんであいつらまだあんな所に⁉」


 そこには城壁まで退避しろと言ったにも関わらず、まだ黒い砂の上にいるチームトライホーンの姿があった。


 しかも何やら、仲間内で言い争いをしているようにも見えた。


「なぁ、バルターカ。

お前たちが守りたかった者たちを先に失ってみないか? 

絶望に満ちたその記憶を我に見せてくれ」


「や、やめろ……」


 バルターカは、九腕大蛇にそう言ったあと、考える間も無く体の向きを変えて全力で仲間たちに叫んだ。


「逃げろー! 早く逃げろ!」


「もう遅い。見ていろ、バルターカ。これが我の本来の力! 金色(こんじき)百蛇行(ひゃくじゃこう)!」


 九腕大蛇の全身から、数え切れないほどの金色の光弾が上空に向かって放たれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ