六十二話 紫色の矢、盾巨剣ファトレ・アルマシア
「……クソ! 何なんだ⁉ こいつの魔法は!」
ラパンの上空では、レクエスたちとファトレの姿をしたフィフスランクの戦いが繰り広げられていた。
「この人間の魔法、当たりだったみたい。
最初は地味だと思ったけど、私たちとこんなに相性のいい魔法があるとは思わなかったわ!」
ファトレの姿をしたバーモは、手に持っている破損した大剣を魔法で完全修復した。
「物体修復魔法、それに加えて多彩な防御魔法。
記憶を奪われたのは、サポートメインの魔導士か?」
レクエスは、相手が使用している魔法を推測した。
そして、このバーモが修復できるのは大剣だけではなかった。
「人間だったらとっくに死んでいるはずのダメージを負っているはずなのに、瞬時に完全再生……。
ミモレスさんが言っていた通り、バーモの体は疑似生命体。
だから物体修復魔法で体を直せるんだ。
……でもこのままじゃ、向こうより先にこっちの魔力が尽きちゃう」
街の中に飛んで来た飛行型バーモを殲滅したテリルは、レクエスと共闘していた。
「向こうの攻撃が雑な大剣ブンブンしかねぇから、何の脅威でもねぇが、さすがに時間稼ぎされているみたいで頭にくるな」
「頭に来ているのは、お互いさまでしょう?
『あいつ』も、もうやられちゃったみたいだし、このままあなたたちの相手をしていても、結果的に不利な状況にあるのは、私ということくらい理解しているわ。
支援に特化したこの魔導士の記憶では、あなたたちを倒す術はないし、めんどくさいからもう元に戻っちゃおうかなー」
「させるかよ! ラプタークロー!」
レクエスは滑空するように敵に高速接近して、魔力を纏わせた鋭い鉤爪で、バーモを斬りつけた。
「あははは! 短気は損気よ! 鳥さん」
バーモは魔法の盾でレクエスの攻撃を防いだ。
「そして! この盾の魔法を応用すれば……」
「テメェ!」
バーモは、レクエスの周囲を複数の紫色の魔法壁で取り囲み、魔法の牢獄を作り出した。
「簡易隔離界魔法って感じかしらね。
鋭い爪での急襲戦法があなたの戦い方。
それなら動きを封じてしまえば、あなたはもう何もできない」
「クソ女! 結局時間稼ぎじゃねぇか!」
レクエスは、紫色の魔法の牢獄の中に閉じこめられてしまった。
「いいこと思いついたの。
動けなくなったあなたの目の前で、この街の人間たちを弄り殺して見せるの。
あなたの心が折れて降伏するのが先か、この街から人間がいなくなるのが先か、どっちでしょーね?
あははは! あは――」
レクエスの目の前で笑うバーモの頭部が、何者かによって粉砕された。
「…………」
頭部を失ったバーモは、無言で紫色の魔法盾を生成し、追撃で飛んで来た魔弾を防いだ。
「……まずはお前からだ。チビ女!」
粉砕された頭部を高速再生させたバーモは、鬼のような形相でテリルを睨み付けた。
「あなたの攻撃は、わたしには届かない。
でもわたしの魔弾は、あなたの魔力製石を撃ち抜ける!」
「私のことをなめないでもらいたいわね」
バーモは空中で力を貯めるような動きを見せたあと、大砲で射出されたような驚異的な速度でテリルに急接近した。
「なっ⁉」
テリルは、優れた動体視力と空中姿勢制御能力で、高速接近してきた大剣の刃を紙一重で回避した。
「あら、残念。そうだわ。
人間を殺すのにこんな大きな武器は必要ないじゃない。
何で今まで気がつかなかったのかしら」
「めちゃくちゃ過ぎる」
バーモの体は、明らかに複数の箇所を骨折していた。
バーモがテリルに行ったのは、自分の体を犠牲にした超高速突進だったのだ。
「そう? すぐに元通りにできるのだから、なんてことないわよ」
バーモは自分の体を瞬時に完全修復した。
そのついでに持っていた大剣を、不格好で短い片刃剣に変えてしまった。
「これなら、もっと早く動けるわ」
「あなたの動きじゃ、わたしには届かない!」
テリルは力強く羽ばたき、上昇しながらバーモに魔弾を放った。
「……本当にそうかしら?
あなたたちと遊べたおかげで、ようやくこの小さくて脆い体にも慣れてきたのよ」
「直撃したのに!」
テリルの魔弾はバーモに直撃したが、敵は無傷だった。
「今度こそ、捕らえる! これが、私本来の硬さ!」
「ろ、ロールアヴォイド!」
再び高速突進してきたバーモを、テリルは翼をたたんで横回転する回避技をみせた。
ロールアヴォイドは、猛禽族などの空中接近戦を行う者たちの間で開発された〈鳥人空戦術、ラプター〉の主要回避技である。
「まだ速度が足らないのね!」
強度が増したバーモの体は、自滅的高速突進のデメリットを完全に打ち消していた。
「――テリル! いつも以上に魔弾に魔力を込めるんだ!」
空中で力を貯めていたバーモの右肩を、何者かが撃ち抜いた。
「次から次へと……だから人間は嫌いなのよ」
「バリゼさん!」
「テリル。君の高火力高反動魔弾銃なら、奴を貫くことができるはずだ!
狩人たちが自らの武器に魔力を纏わせて戦うように、我々の魔弾も弾丸生成魔法の圧縮率を増やせば、同様に威力を強化できる!」
狙撃手兼砲撃手として城壁内に残っていたバリゼは、愛用している狙撃用魔弾銃を手にテリルの危機に駆け付けた。
「鳥人ごときが何人集まろうとも――えっ⁉」
バーモは、突然背後から鋭い鉤爪に、胸を貫かれて言葉を失った。
「いつまでも即席の牢獄に、閉じこめておけると思うなよ?」
「まぁ、出してあげたのは私ですけどね」
簡易牢獄に閉じこめられていたレクエスを、パステナが救い出していた。
バーモの胸部に風穴を開けたレクエスは、腕を引き抜いて敵と距離を取った。
「チッ! ほとんどのバーモの魔力製石は胸部にあるのによお」
「あのバーモの魔力製石の位置は、下腹部ですよ」
「先に言えよ!」
「私の話を聞く前に、勝手に飛び出して行ったのはあなたじゃないですか」
レクエスと、パステナは空中でいつものような掛け合いをみせた。
「テリル、あの二人は……」
「チェイサーです。でも今は、わたしたちと一緒にこの街を守ってくれています」
事情を知らないバリゼに対して、テリルは二人が味方であることを簡潔に説明した。
「はぁ……もういいか。めんどくさいな」
バーモは力無くそう呟くと、変身魔法を解除して真の姿を見せた。
「な、なんだこりゃ……巨大なタマネギ⁉」
レクエスの言う通り、そのフィフスランクの真の姿は、巨大な黒一色の球根のような見た目をしていた。
その巨大な球根は、自然落下するように街の中に降り立った。
超重量のバーモの体は、真下の建物を押しつぶし、落下の衝撃と爆風で街を破壊した。
「なんかよくわからねぇが、ぶち抜いてやるよ!」
レクエスは、巨大な球根に向かって攻撃を仕掛けた。
「あなたの攻撃、届くかしら?」
「な、なんだ、こいつ! 中身までタマネギか⁉」
球根の外層に穴を開けたレクエスは、その層の厚さに驚愕した。
レクエスの攻撃では、核となる魔力製石にたどり着くことは出来そうになかった。
「お前たち人間ごときに勝ち目はない」
「うぉっ⁉」
球根型バーモは、その場で回転をし始め、レクエスを振り払った。
回転はさらに加速する。
巻き起こる突風が瓦礫を巻き上げ、更に街を破壊し始めた。
「この攻撃、どうにかしないと街が持たないぞ!」
「それにこのままだと城壁も……」
バリゼとテリルは、嵐のような暴風から退避するように、眼下にあった頑丈そうな建物の影に逃げ込んだ。
「どうしよう。わたしたちの攻撃力じゃ、あいつを倒せない」
「街の東側に配備された魔弾砲で、地道に削っていくのが賢明か」
「バリゼさん。あいつは魔法で自己修復ができるから、魔弾砲でもたぶん倒せない。
一撃で魔力製石まで届く超高火力攻撃か、あの外層を無視できる魔法攻撃じゃないと、たぶんあのバーモは……倒せないと思う」
「どちらにしても、英雄級の何かが必要というわけだな。これがフィフスランクか」
テリルとバリゼは、敵の回転攻撃が終わるまで建物の影で身を潜めていることしかできなかった。
評価とブックマークをくださった方、誠にありがとうございます。
作品情報を見た時に、とても嬉しくなりました笑
どこにお礼を書こうかと悩んだ末、こちらに書かせていただきました。
第一部は終盤ですが、英雄を目指す少女の闘い結末を見届けていただけたら……
いえ、見届けてください(笑) よろしくお願いします!
読んでいただけることをありがたく思います。いつもありがとうございます。




