六十話 激昂と黒い爆炎
「跡形もなく、破壊してやる!」
激しい怒りにのまれたバルカナは、地面を掘り進むかのように爆炎の連撃を放ち続けていた。
「ブラック・ゼロ・シックス・エイト・ジェノサイド・ゴースト」
バルカナは、巨大な黒炎の幽霊で敵に止めを刺した。
「……戦闘能力、勤勉さ、そして敵への容赦のなさ。
どれをとってもお前は一流の魔導狩人だ。
ラパンに六人しかいない現役の白銀等級の内の一人なだけある。
だが、お前の魔法では我を倒すことはできない」
爆心地となった抉れた地面から、その声は聞こえた。
「お前の破壊的な魔法は凄まじいが、格上には通用しない」
九腕大蛇はハルビリッツの姿のまま、浮遊魔法で空中に浮かび上がった。
「そう。よかった。こんなもんじゃ私の怒りは収まりそうになかったから!」
バルカナは、地面や空中を爆破して高速移動した。
「くたばれッ!」
「あははは!」
バルカナは凄まじい規模の爆炎を九腕大蛇に放った。
「……凄まじいな。これじゃ近づけねぇ」
グラゼルターカたちは、バルカナの苛烈な爆炎に阻まれて加勢出来ずにいた。
「完全にブチギレてんな。あんな戦い方をするバルカナ、初めて見た」
普段のバルカナは、不機嫌な態度をとることはあっても、激しい感情を人前で露わにすることはほとんどなかった。
「そりゃそうだろう。俺だって、はらわたが煮えくり返るほどあいつを許せねぇ!」
命と記憶を奪われた上に、名誉まで汚された盟友のことを想うバルターカは、血走った目で爆炎の中にいる九腕大蛇を睨み付けていた。
「バルカナさん……」
(私もあの戦いの中には入れない。
炎を吸収すれば、戦いの邪魔をしてしまう。
でも炎を吸収しなければ、私は飛び続けることができない。
遠距離攻撃で援護したいけど、バルカナさんの不規則な爆破移動がどう動くのか予測できない)
スィンザもまた、バルカナの戦いをもどかしい気持ちを抱えながら見守るしかなかった。
「全員落ち着け。観察こそが、狩りの基本だ。そこから勝機を見出せ」
ダバロは、九腕大蛇とバルカナから目を離すことなく、チーム全員にそう伝えた。
歴戦の狩人は、シックスランクを討伐する方法を冷静に模索し続けていた。
「うらぁぁああぁぁ!」
バルカナの爆破攻撃が、九腕大蛇の胴体に直撃した。
「どうした? お前らしくないな。
爆発を『撥ね返されている』ことにも気づけないか?」
「先生の魔法を! お前が使うな!」
バルカナの猛攻を九腕大蛇は、あえてハルビリッツの魔法だけでいなし続けていた。
「ブラック・ゼロ・ナイン・エイト・クイック・ゴースト」
バルカナは、高速の爆破移動で距離をとると、おびただしい数の黒炎の幽霊を放った。
「撥ね返せるのは一方向だけ。それなら全方位から燃やし尽くしてやる!」
「確かに。ハルビリッツならそうだったろうな」
九腕大蛇は、全方位から襲いかかって来た黒炎の幽霊を受け止めたように見えた。
無数の黒炎の幽霊たちの連鎖爆破は、城壁を破壊した爆発よりも凄まじかった。
「……我が生み出したこの魔法を〈スカーレット・バリア〉とでも呼ぼうか」
黒い爆炎の中から現れた九腕大蛇は、緋色の球体の中で、平然とそう言った。
老魔導士の魔法の仕組みを理解したシックスランクは、その無尽蔵の魔力で人間には真似できない魔法を披露してみせたのだ。
「全身を包む反撥性魔法⁉ 有り得ない!
消費魔力の多い概念系魔法でそんなことをしたら、人間なら一瞬で魔力が空になってしまうのに」
「だから言っただろう?
お前では我を倒すことはできない。
お前の魔法は格上には通用しないと」
バルカナは、手に持っていた短剣を力強く握った。
『……ゼロ・ワンがアローなんだ。君にも意外と可愛らしいところがあるんだね』
『なにそれ。別にいいでしょ? 一番好きな魔法なんだから。それにこの魔法は……』
戦いの最中に、その記憶は不意に蘇った。
あの時は、イーゼマスに対するただの強がりだったが、今は違った。
「……ブラック・ゼロ・ワン……ブラック・アロー!」
「まだやるのか」
バルカナが放った黒色の矢は、九腕大蛇のスカーレット・バリアを透過した。
「なに⁉ 透過性魔法だと⁉」
黒色の矢は、九腕大蛇の胴体に直撃して爆発した。
「バカなぁ!」
「この魔法は……『私と共に成長する魔法』なのよ!」
バルカナは透過性魔法の成功に手ごたえを感じた。
だがその喜びは、不愉快な拍手の音でかき消された。
「素晴らしいじゃないか、バルカナ。
ハルビリッツの記憶の中に、透過性魔法の仕組みを教えた場面はなかったはずだ。
それでも独学でたどり着くとは、じつに素晴らしいじゃなか」
九腕大蛇は、何ごともなかったかのように拍手をしながら、バルカナを称賛した。
「撥ね返されていないはずなのに……無傷……」
「落ち込むことはない。人間の中では強い方だ。我には遠く及ばないが」
九腕大蛇は、バルカナを煽るかのように無機質な拍手を続けた。




