五十八話 ラパンギルド最高のハンター集団
「心なしか、敵の数が減った気がしねぇか?」
ルモーンとラゼラスは、大扉の前で敵の侵入を防ぎ続けていた。
「そうだな。ペース配分が楽になった。
そう言えば砲撃音が途切れなくなった。城壁の中で何かあったのかもな」
ラゼラスは、周囲の情報を取り入れながら戦う余裕ができていた。
そんなラゼラスが、砲撃の衝撃とは違う地響きのようなものを感じ取った。
「ルモーン。どうやらここからが暗黒海嘯の本番のようだ」
「あ、あいつら、バーモ停止弾が効いてないのか⁉」
二人の目線の先には、バーモ停止弾の毒煙の中を突き進んできたと思われる三体の巨大なバーモの姿があった。
「フォースランク……それも一気に三体か。だが動きは鈍い。停止弾の効果がまったくないわけではないようだな」
「おい! あれと戦う気か⁉」
ルモーンは後ろに下がるどころか、敵に向かって歩み出したラゼラスの正気を疑った。
「動きを止められない。
砲弾でも倒しきれない。
それなら俺たちが奴らを倒すしかないだろう。
幸いなことに奴らは、通常の個体よりも弱体化している上に、砲弾による損傷もある。
俺たちでも十分に勝機はある」
「ラゼラス、お前は、あいつらの体を破壊する術はあるのか?」
ラゼラスは、ルモーンの言葉を肯定するかのように拳を強く握って見せた。
「奴らを倒す。そのためにこの拳を鍛え続けてきた。
いくぞ! ルモーン! ここからが正念場だ!」
「――おーい! 待てよ! ラゼラス!」
敵に向かって進もうとしたラゼラスを、呼び止める声が聞こえた。
「遅れてすまねぇ。爆速で戻って来たぜ!」
数人の人間たちが、ラゼラスたちの側に駆け寄ってきた。
最初に声をかけた若い男は、ラゼラスよりも長身で、両足が強靭な馬の脚に変化している黒馬の獣人だった。
その手には、大きな三又の銛のような武器を持っていた。
「ヴィノズ!」
ラゼラスはその黒馬の獣人の名を呼んだ。
「――時には報酬よりも大事なものもある!」
続いてそう発言したのは、巨大な斧を担いだ髭面の大男だった。
彼は腕が黒い毛に覆われているが、何の魂を宿しているのかは見ただけでは判別できなかった。
「トルド……。元賞金狩りのあんたがなぜ……」
賞金狩りとは、報酬の高い仕事しか受けない流れ者のハンターのことをいう。
賞金狩りは特定のチームには加わらず、金で雇われるスタイルでバーモハントを行う。
「ラゼラス。お前は、この老いぼれた元賞金狩りに居場所を与えてくれた。お前の優しさに今応えさせてくれ」
「――そうよ! あなたの頑張りは、私たち〈ブラックスケイルズ〉が一番よくわかってるんだから!」
トルドに続くように発言をしたのは、黒髪のロングヘアーと、昆虫的な羽の生えた黒い発光体が特徴的な魔人の少女だった。
「ヨナ! お前、家族は?」
「無事に街の外に避難できたよ。ありがとう、ラゼラス。
それにルモーンや、残ってくれたトライホーンの人たちや、他のチームの人たち……みんなのおかげで、私たちの家族は、みんな無事に避難することができたよ!
だから、これからは私もあなたたちと一緒に戦うから!」
ヴィノズ、トルド、ヨナ、そしてラゼラスの四人は、トライホーンの探索チームの一つであるブラックスケイルズという名のチームを組んでいた。
ブラックスケイルズは、バーモハントで好成績を残し、ラゼラスを白銀等級に押し上げた新進気鋭の探索チームである。
「伝説の暗黒海嘯に、フォースランク三体か! 腕が鳴るな!」
「いいね! いつもみたいに爆速で狩ろうぜ! 俺たちならできるよなぁ⁉」
「準備はいい? 強化魔法いくよ!」
ブラックスケイルズは、いつも通りラゼラスを中心とした陣形で、向かって来るフォースランク三体を待ち構えた。
「いいチームだなぁ。ラゼラス」
「ああ。強がりじゃなく、負ける気がしない」
ルモーンの言葉に、ラゼラスは震える声で答えた。
「ガッヴィヴィヴィヴィ!」
フォースランクの一体が、四足歩行の状態から立ち上がり、前足を振り上げてラゼラスたちを威嚇した。
「――お前ら! 下がってろ!」
その声は、ルモーンたちの上空から聞こえた。
「リーダー!」
「ラゼラス、ルモーン。任せっきりにして悪かった。よく大扉を守りきってくれた!」
トライホーンのチームリーダーであるグラゼルターカは、ルモーンたちをその超人的な脚力で飛び越えて、地面に着地した。
グラゼルターカの角は、大きく変化しており、それは頭部を守る兜のようにも見えた。
「獣戦、鹿跳動、神速!」
グラゼルターカは、瞬間移動のような速さでその場から姿を消した。
「獣戦、断頭角!」
一瞬でフォースランクの前に移動したグラゼルターカは、手に持っていた剣で敵の首を一刀両断した。
「――ハハハッ! お前ら! 俺の技に当たるなよ!」
豪快で野太い声が、戦場に響き渡った。
「獣戦、飛斬魔爪刃!」
その声の主が放った魔力の塊のような複数の斬撃が、残り二体となったフォースランクを襲った。
その巨大な斬撃は、動きが鈍いフォースランクたちを斬り伏せてしまった。
「フィズド、副リーダー!」
ルモーンが野太い声の主の名を呼んだ。
「俺だけじゃねぇぜ⁉ なあ⁉ そうだろう⁉」
両手が巨大な爪に変化した男は、自分の後ろに集った仲間たちにそう声をかけた。
「「二本角でも最強だが!」」
その掛け声と共に、チームの旗が掲げられた。
「「一本角加われば最高の証!」」
掲げられたその旗には、二本角の闘牛と、一本角の鹿の横顔が描かれていた。
「「俺たちは、ラパンギルド最高のハンター集団!」」
大扉の前には、数十人の男女のバーモハンターたちが集まっていた。
「「チーム、トライホーンだ!」」
そこには、チームのほぼ全員がいた。
「……うちのチームの方針は『人命優先』。誰一人犠牲にはしないぜ⁉ なぁラゼラス、ルモーン!」
グラゼルターカは、いつの間にかラゼラスたちの側に戻って来ていた。
「城壁は⁉ 誰が砲弾を撃ってるんだ⁉」
「戻って来てくれたんだよ。
街の仲間たちが。物体生成魔法で、ハリボテだが壊れた城壁も修復できたぜ。
宝の持ち腐れだった魔弾砲もフル稼働だ。
あとは俺たちが、大扉を守り抜けば街は守れる!
よく今まで耐えてくれた。助かったぜ、二人とも」
グラゼルターカは、ラゼラスたちに向かって親指を立てた。
「っていうか……リーダーたち一撃で、フォースランク倒せるのかよ……」
フォースランクの対応は、チーム単位が前提だと信じていたルモーンにとって、それは衝撃的な事実だった。
「……強くなったんだ。いや、強くならなくちゃいけなかった」
グラゼルターカは、そう言って仲間たちに背を向けた。
「次がくるぞ! 戦闘で負傷した奴は全力で下がれ!
後方支援チームは、大扉の側に簡易防壁の建設を急げ!
頼むぜ! 最高の仲間たちよ!」
グラゼルターカのその声に、仲間たちは全力で呼応した。
先頭を立つグラゼルターカの剣先には、数え切れないほどのフォースランクの大群の姿があった。
「――ブラック・ゼロ・ナイン・クイック・フレイム!」
「――鳥人剣! 三連、爆炎回転爆風刃!」
チームトライホーンの遥か上空から、黒炎の連続爆撃と、爆炎を纏った三つの炎の輪がフォースランクの大群に向かって飛んで行った。
「黒炎……バルカナか⁉ あっちの黒炎じゃない炎の魔法は誰のだ⁉」
ルモーンは使われた魔法の特徴から、使用者の一人を特定した。
「……スィンザ。あなたも来てたのね」
「バルカナさん! 無事でよかった。……イーゼマスさんは……」
空中に魔法で浮遊するバルカナと、炎の翼で空に飛ぶスィンザ。
二人は、数時間ぶりに再会した。
「……お墓、作ってあげたいの。フェルテーゼ先生のお墓の隣に……だから、この街は絶対にまもらなくちゃ……」
二人の眼下で炸裂する砲撃の閃光に照らされたバルカナの両目は、赤く腫れ上がっていた。
恐らく、ついさっきまで泣いていたのだろう。
「バルカナさん」
スィンザは、大切な人を失った悲しみを乗り越えて、この戦場にやって来たバルカナの強さを知った。




