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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十章 バーモハンター
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五十六話 咆哮

 

 ラゼラスは破壊された大扉の前で、バーモ停止弾をくぐり抜けて来たバーモの侵入を防ぎ続けていた。


 爬人は保有魔力が多い種族だが、それを出力する術が乏しいという特徴がある。


 ラゼラスは典型的な爬人の特徴を有していた。


 魔法の才能には恵まれなかったが、日常的に魔法を使っている魔人よりも豊富な魔力を有していた。


「うおぉぉぉぉ!」


 彼は両手の拳に魔力を纏わせ、襲い来るバーモの体を砕き続けた。


 普段のバーモハントであれば、ラゼラスがバーモと肉弾戦を行っている間に、仲間の攻撃が敵を仕留めた。


 仲間に最後の一撃を譲るのは、ラゼラスに決定打がないからではない。


 仲間の攻撃の方が、遺骸の状態が良くなるからである。


 バーモハンターは、バーモの遺骸を売って生活している。


 彼らにとって、バーモは敵であり、商品なのである。


 ――だが、今は違う。


「砕け散れ! バーモども! 俺はこの街を守り続けると、友の墓標に誓いを立てた!」


 ラゼラスの親友、〈デステルターカ・マスト〉は、六年前に死亡した。


 彼は黒い森の中から現れたフォースランクに戦いを挑み、そして殺された。


(俺たちは、お前が英雄になると信じて疑っていなかった。ライオンの魂に選ばれ、トライホーンの血を継ぐお前が……)


 デステルターカは、現トライホーンリーダーのグラゼルターカの息子であり、初代リーダーのバルターカの孫であった。


 彼の戦闘能力は、ソウル・ゲートを得た十歳の頃から突出しており、将来を嘱望されていた。


 そして何より、彼には高潔さがあった。


 将来バーモハンターになることが定まっているにも関わらず、戦闘訓練よりも学問に力を入れていた。


 それ故に彼は、思慮深く、若くして己の哲学を有していた。


「なぜだろうな、デステル。

こんな状況の中で、お前との思い出ばかりを振り返ってしまうのは。

あの頃、奴隷として売られて来た厄介なガキを友と呼んでくれたのは、変人のルモーンとお前だけだった」


 ラゼラスは、何年経っても収まらない怒りをぶつけるように、目の前のバーモを叩き潰した。


「……英雄になると宣言したお前の友であり続けるために、俺たちは強くなろうとした。

俺は親父さんとの厳しい修行に耐えた。

ルモーンは、大人たちに後ろ指を指されながらも、他のチームであるセブンアローズから魔法を学んだ。

魔導の高みを目指すために。

俺たちは、お前が友でいてくれたから前を向いて歩くことができたんだ」


「ぐなでひぇぇい!」


 前を向いていたラゼラスの上空から、飛行型のサードランクが襲いかかり、彼に覆いかぶさった。


「…………」

 ラゼラスは覆いかぶさって来たバーモの胴体に、無言で闘角突砕拳を放った。


「だが、俺たちは知らなかった。お前の本当の夢を……」


 ラゼラスは、動かなくなった飛行型バーモの遺骸を投げ捨てた。


「デステル……お前はギルドの代表になろうとしていたんだな。

かつて無法者の街と呼ばれていた、ラパンを変えるために、その道を選んだんだな。

お前がいなくなった後に、リーダーが教えてくれたよ。

そしてその夢を叶えるために、英雄になろうとしていたことも、その時知った」


 ラゼラスの前に、複数のサードランクバーモが迫ってきていた。


 しかしその目に映っているのは、目の前にいるバーモたちではなかった。


「六年前、俺たちが白色等級として初めて黒い森に入ったあの日、お前はあの強大な敵から逃げなかった。

俺は……恐怖に呑まれて、必死に走って逃げることしかできなかったのに。

逃げ出した先で、お前が敵から逃げなかったと聞いた時、俺は、お前ならきっと大丈夫だと高を括っていた。

お前の強さなら、フォースランクなど敵じゃないと……愚かな妄想をしていた」


 ラゼラスは、狂った獣のように荒々しく敵を屠った。


 怒りで余計な力が入った拳が、彼の体力を削っていた。


「デステル……お前を殺したのは、俺たちなんじゃないのか? 

お前の死を知った俺は、俺も含めた周囲からの過度な重圧に……

英雄になれという過度な期待に、お前が殺されたとしか思えなかった。

お前に強者であれと強いたのは、俺たちの……いや、俺の愚かさだったんだ!」


 ラゼラスは、無邪気に笑っていた頃の愚かな自分自身を殴り続けていた。


 デステルターカの隣を歩けるだけで、満足していたあの頃の自分を。


 彼が将来、英雄になることを信じて疑わなかった愚かな自分を。


 その夢が叶えばいいのにと、彼の負担も考えずに願っていた幼い自分自身を。


 息を切らしたラゼラスは、高まっていく怒りを抑えきれなくなり咆哮した。


「――おい! 一人でカッコつけてんじゃねぇよ!」


 若い男性の声が、ラゼラスの耳に届いた。


 それとほぼ同時に飛んで来た緑色の魔法弾が、ラゼラスの体に着弾した。


「ルモーンか」


 ラゼラスは緑色の魔弾の効果によって、乱れていた呼吸が整った。


「疲労回復の魔弾だ。

一日三回くらいしか効果発揮しねぇから、ペース配分を間違えんなよ。

頑丈さが取り柄のお前でも、動けなくなりゃ終わりだろうが」


「回復魔導士が最前線に来るな。足手まといだ」


 ラゼラスはいつもの調子で、ルモーンを遠ざけようとした。


「ふざけんな。クソトカゲ。それに……退くならお前も退けよ。

うちのチームの方針『人命優先』を白銀等級のお前が破ってんじゃねぇよ」


「これはいつものバーモハントじゃない。

ここを守るのは……俺以外に適任はいない。

それよりお前、何でこんな所にいるんだ? 

お前の持ち場はここじゃないだろう?」


 ラゼラスは、意地でもルモーンに顔を向けようとはしなかった。


「怪我人を回復して周ってたら、バカなウロコトカゲを見つけちまったんだよ。

目を離すと、なぜかいつも一人で戦ってるバカなやつをよぉ。

デステルも、お前にはうんざりしてると思うぜ」


「……ああ。そうだろうな。俺だってそうだ」


 ラゼラスは大きく息を吐いて、襲って来たバーモを叩き潰した。


「デステルはいつも、お前と一緒に戦いたがってたぜ。

いつかお前と一緒に英雄になるって、あいつはいつもそう言ってたんだ」


「いや……デステルは、ギルドの代表になりたかったんじゃないのか?」


「それは、お前と一緒に英雄になったあとの夢だ。

英雄になったお前にトライホーンを任せたあとの……ずっとずっと先の夢だったんだよ」


「……作り話か?」


 ルモーンはいつの間にか、ラゼラスの隣に立っていた。


「くだらねぇ。今さらこんな嘘ついて何になる? 

冥途の土産か? 

お前を見殺しにしたら、おれがあの世でデステルに殴られそうだな……」


 ルモーンも高速の魔弾を放ち、向かって来るバーモの体を貫いた。


「……なぁ、おれたち三人で、トライホーンの新しい三本角になろうっていうガキの頃の約束を忘れちまったか? 

お前も、おれも、あいつの夢の一部だったんだよ。

現実知って、全部の夢を叶えられそうにねぇけど……

それでも、忘れられねぇし、捨てられねぇだろうがよ! 

おれは、あいつの友達だから! お前は、違うのかよ」


「忘れてなどいない……ただ、信じられなかっただけだ。

自分自身を。

肝心な所で、デステルの隣に立てなかった弱い自分を。

俺は、あいつの隣に立つ資格を永遠に失ったんだ。

今でも俺は、俺自身を許せないでいる」


 ラゼラスは、三人で仲良く笑っていた頃のことを思い出した。


 そしてその思い出を塗りつぶすように、自分への怒りと失望が心にこびりついていた。


「くだらねぇ! ほんとにくだらねぇぜ!」


「なんだと!」


「デステルなら、おれたちの隣に立ってるよ! 

あいつならきっとそうしてくれる! 

隣に立つ資格ってなんだよ⁉ 

お前ならわかるだろ、デステルがそんな器の小さい奴じゃないってことくらい!」


「……お前のそういう所が……他人の気持ちを理解した気になっている所が、俺は嫌いなんだよ。

……でも、そうだな、今のお前の言葉の方が……正しいような気がした」


 ラゼラスは、心にこびりついたものを弾き飛ばすかのように、空に向かって全力で闘角突砕拳を放った。


「ルモーン、サポートを頼む。

俺はこの街を守りたいんだ。デステルなら必ず、俺と同じことを考えてくれるはずだと……信じている」


「任せとけ。三本角なら最高の証だ!」


 この二人にだけ届いたライオンの咆哮が、その心に更なる勇気を与えた。



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