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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
十章 バーモハンター
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五十五話 境界線の守護者たち

 境界の守り手よ。その胸に誇りを宿せ。

 その戦いが、終わりなきものであると知りながらも。

 その戦いが、いずれ仲間たちの命を終わらせるものであると知りながらも。

 それでも、この戦いが誇り高きものであると、我らが証明してみせよう。

 旗を掲げよう。

 仲間たちと築き上げたチームの旗を。



(〈デステル〉お前がここにいたら……お前ならどうしていた?)


 破壊された城壁の大扉から、一人で暗黒海嘯に立ち向かう男が現れた。


「ソウル・ゲート。レプタイル・オブ・アース」


 その男はソウル・ゲートを開き、その身に黒鉄の鱗を纏った。


「ぐでぃああああ!」


 その男に、狼と虫を混ぜ合わせたような見た目のサードランクバーモが襲いかかる。


「獣戦……闘角突砕拳(とうかくとつさいけん)!」


 黒い鱗の爬人は、魔力を纏わせた拳でサードランクバーモを粉砕した。


「さあ来い! バーモ共! 俺の名はラゼラス! セカンドランク一体さえも、この門を超えさせはしない!」


 境界の地を照らす、絶え間ない砲撃の閃光の中で、その孤独な戦いは始まった。


  ♢♢♢


「補給班! 〈バーモ停止弾〉は、全ての魔弾砲に行き渡ったか⁉」


 トライホーンのチームリーダー、グラゼルターカは声伝魔法で仲間たちとやり取りをしていた。


「ああ。ちょうど全ての砲台に変換装置の設置が完了した所だ。

ただ、砲撃手の数が足らねぇ。

今のままじゃ、街が暗黒海嘯に飲み込まれるのも時間の問題だ!」


 そう答えたのは、補給班のリーダーを務める〈ハイマンス・ガンリーゼ〉であった。


 彼は初代リーダーのダバロの息子である。


「そうだよなぁ。

本来なら砲撃手はシックスランク討伐軍に任せるはずだったが、肝心の討伐軍が来ねぇ……

バーモの動きを一定時間停止させる特殊魔法弾の設置だけは完了していたが、その弾を撃ち出せる人間がいねぇなら宝の持ち腐れだ。

周辺の街や国から買いあさった、旧式の魔弾砲も活用しきれているとは言えねぇ」


 グラゼルターカは、仲間たちの意向を聞き入れ暗黒海嘯に立ち向かうことを決めた。


 しかし彼らが成功したのは、バーモの大群の「一時的な足止め」でしかなかった。


「――バーモ停止弾で敵の動きを止めつつ、そのまま砲撃で倒す。

暗黒海嘯の直撃を防いで、城壁と街を守ることには成功したが、この戦い方じゃ長期戦はできない。

それに飛行型バーモの侵入を許している時点で、いつ後ろから攻撃されてもおかしくない状態だ。

だが、対空魔弾砲の砲撃手が少ないのになぜか、飛行型の襲撃はまだ無い。

しかしいつまでも無いとは言い切れない」


 バリゼは、城壁の狭間から長距離狙撃用の魔弾銃で、停止弾を潜り抜けてきたバーモを撃ち殺しながら、遅れてやって来たルモーンに状況を説明した。


「敗戦濃厚ってか⁉ ていうか〈バーモ停止弾〉ってなんだ? 今までもそんな便利なもの使ってたのか?」


「最近、ナーゼットファル王国で作られた最新魔導器の一種だ。

着弾地点に、バーモの体を硬直させる特殊な煙を広範囲撒き散らす。

今までずっと求められていたものが、ようやく現実のものになった革命的兵器だ。

これからのバーモハントには、バーモ停止弾が搭載された魔弾銃が標準装備になるかもしれない」


「魔導器だと⁉ それを魔弾砲や魔弾銃に組み込むってことか?」


「そうだ。まず使用者の魔力を均一かつ、最適な形状にした上で、火の魔法で威力と飛距離を大幅に向上させた魔弾を放つのが従来の魔弾砲や、魔弾銃の基本的な仕組みだ。

その魔弾砲に最新の魔導器を接続することで、発射される魔弾に特殊効果を追加できるようになったんだ。

主に魔人たちが使う特殊効果魔弾と、我々鳥人などが使っていた火力向上と魔力の省力化に重点を置いた魔弾銃との差が、大きく縮まったと言っても過言ではないだろう」


 バリゼは饒舌(じょうぜつ)に語りながらも、淡々とバーモを狙撃していた。


「……そんな強力なもんを導入しておきながら、おれたちは負けるのか?」


「相手の数があまりにも多いのに、味方の数が少なすぎる。

それにすでに大扉が何者かによって破壊されたようだ。

偵察班の確認待ちではあるが、破壊された大扉からバーモ停止弾をくぐり抜けたバーモの群れが街の中に侵入した時点で、城壁に残っている私たちは脱出さえも困難になる。

恐らくリーダーは間もなく撤退を選択するだろう……」


 バリゼがそう言い終えたその瞬間に、凄まじい爆発音と共に城壁そのものが大きく揺れた。


「なんだ⁉」


「今度は、城壁そのものを狙って来たか!」


 バリゼは、それが大扉を爆破したものと同一のものであると推察した。


「――リーダー! こちら四十番砲台! 

さっきの爆発で四十一から、四十七番砲台が城壁の崩壊と共に壊滅! 

城壁に穴が開いた!」


 声伝魔法によって、砲撃手から被害の報告が届いた。


 その報告のあと、さらに爆発音は続いて、再度城壁を揺らした。


「こちら五十二番砲台――」


「三番砲台だ。こっちもやられた――」


 声伝魔法は、被害を伝える者たちの声で混線した。


「おい! 俺たちもここにいたらマズいんじゃないか⁉」


「だが、今ここを離れたら暗黒海嘯に飲み込まれるぞ! 俺たちだけでも停止弾を撃ち続けよう!」


「いや、ここで頑張っててもいずれ飲み込まれるぞ⁉ それならさっさと逃げた方がまだ可能性がある!」


 バリゼたちの近くに居た砲撃手たちの中から、そう言って持ち場を離れる者たちが現れた。


「賢明だ。ルモーン、私たちも逃げよう」


「わかった。先に行っててくれ。

怪我した仲間を見捨てて逃げる回復魔導士がどこにいる? 

おれは一人でも多くの仲間を助けてから逃げる」


「今は自分の命を優先しろ! 

撤退した先には、お前の回復魔法を必要とする人間が必ずいる!」


「悪いな、バリゼ。ここで口論してる時間はねぇ。先に行っててくれ」


 ルモーンはバリゼに背を向けて、崩壊した城壁に向かって走り出した。


「くっ……ルモーン……お前の信念はわかるが……」


 バリゼは城壁から逃げ出すことも、ルモーンの後を追うこともできなかった。


  ♢♢♢


「はははっ! 巨大城壁よ! これで崩壊しろ!」


 緑色の短髪の男は、右手に巨大な魔弾を作り出し、城壁に向かってそれを撃ち出した。


「――裏切り者……いや、人ならざる者か……」


 その声の主は、緑髪の男が放った巨大な魔弾を、目にも留まらぬ剣技で斬り裂いた。


 超人的な跳躍で飛来したその老人の額には、折られた剣のような一本角が生えていた。


「ダバロ・ガンリーゼか⁉」


 緑髪の男は、その老人のシルエットに見覚えがあった。


「それは、おれの弟弟子だ」


 一本角の老人〈ゴハ・バグレーン〉は、悠然とした足取りで緑髪の男に迫った。


「なんだと――」


 ゴハを警戒していた緑髪の男に、音もなく忍び寄った巨体が襲いかかった。


「な、なんだ⁉」


 緑髪の男は、その猛獣の攻撃を間一髪で転がるように回避して、新たな敵と距離を取った。


「……鈍ったなぁ。仕留めそこなった」


 ジスタの爪は、敵を捕らえることはできず、石畳を派手に破壊した。


「人に化けるバーモなんて初めてみた。お前何者だ?」


 煙幕のような土煙の中からジスタはゆっくりと立ち上がり、緑髪の男を威圧した。


「街の外の人間か? 俺の名はヴィヒート。バーモハンターチーム、セブンアローズの〈緑色の矢、爆破魔弾のヴィヒート〉だ!」


 緑髪の男は、与えられた名を名乗った。


「役の名前は聞いてねぇよ」


「まぁそう言うな、ジスタ。大根役者のつまらん演技に付き合ってやろう」


 かつて〈剣角剣聖〉と呼ばれた老いた元英雄と、獣人国家の元英雄カルシャの虎は、並び立ってその怪物と対峙した。


「お前たちは、ただ者ではないな。

だが、俺の役目はもう果たしたも同然。

すぐにでもあの崩壊した城壁の向こう側から、我らの同胞が攻め入るぞ。

この街も我らの黒砂に飲み込まれるのだ! あはははは!」


 ヴィヒートは、そう言って高笑いを始めた。


「そう簡単にはいかんさ」


「……そうだ。この街の連中は、まだ諦めてねぇぞ!」


 ゴハとジスタは、城壁から聞こえる止まない砲撃音に街の人々の気概(きがい)を感じ取っていた。


 この街のハンターたちは、まだこの戦いを捨てていないという確信があった。


 お知らせでございます。 


 十二章の七十二話で、第一部、完結予定です。

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