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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
九章 暗黒海嘯
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五十二話 元カルシャ獣軍


 それから十数分ほど経ったあと、ジスタは家に戻って来た。


「待たせてすまない。外に来てくれ」


 ジスタはスィンザたちを家の外へ呼び出した。


「これは!」


「〈魔導武装船〉⁉」


 スィンザとテリルは家の外に停泊していた、鎧で武装したかのような、いかつい見た目の船の存在に驚いた。


 その船は家のような大きさの船で、推定でも数十人の乗船ができるように見えた。


「カルシャ獣軍の物だった船だ。

ここは巨大城壁から比較的に近い場所にあるからな。

いざという時のために数艘配備されている」


「操縦はおれに任せな! 元カルシャ獣軍武装船師団曹長だ!」


「俺たちも念のために一緒にいくぞ。元砲撃手だ」


 その魔導武装船には、すでに数十人の老人たちが乗り込んでいた。


「私たちを運んでくださるんですか⁉」


「ああ。そうだ。タリナを守ってくれたあなたを、死なせるわけにはいかないからな」


 ジスタはスィンザたちを止めることを諦めて、守ることに切り替えたのだ。


「スィンザさん! 安心して。みんな元軍人ですごい人たちだから!」


 タリナの言葉を聞いたスィンザは、ザニーが『おじいちゃんはたくさんいる』と言っていたことを思い出した。


 タリナとザニーにとって、この村の人々は家族同然なのだと思った。


「うん! 皆さん。よろしくお願いします!」


「よろしくお願いします!」


 スィンザとテリルは魔導装甲船に乗った老人たちにお辞儀した。


「おう! 任せときなぁ!」


「お代はいらんぞ! お嬢さんたち!」


「がははは! あたりめぇだろ!」


 タナハナ村の老人たちは、なぜか生き生きとした様子だった。


「こっちが入り口だよ」


 タリナは武装船の入り口を指差した。


「うん。ありがとう。タリナさん」


「ありがとう!」


 スィンザとテリルは武装船に乗り込むための梯子を上って行った。


「おい。タリナは留守番だ。もしも村に何かがあったら長老たちと一緒に逃げろ」


 スィンザたちのあとに続いて武装船に乗り込もうとしたタリナを、ジスタが呼び止めた。


「やだ。スィンザさんたちと一緒に行くって、さっき言ったじゃん」


「偵察に行くようなもんだ。

タリナの回復魔法は必要ない。

スィンザさんたちも戦いに行くわけじゃないんだ。

村で待ってろ」


 反抗的なタリナに対して、ジスタは諭すように説得した。


「……おじいちゃん。

私ね、この前まで、バーモって言葉を聞くだけでも嫌だった。

お父さんのことも……最近思い出せなくなってた。

それに、お母さんがいなくなってから、だんだんザニーに自分の体を任せている時間の方が長くなって……いずれ消えてしまうのは、私の方なんじゃないかってずっと思ってた」


 タリナは梯子を一度降りて、ジスタと向き合った。


「……そうか」


 ジスタもまた同じ不安を抱いていた。それ故にザニーが目覚めた日付や、時間帯などの記録を細かくつけていた。


 どんな些細な変化も見落とさないように。


「でもね。今は違うの。

バーモはもう怖くないし、ザニーに全部押し付けていたことも反省してる。

それに、お父さんの顔を思い出せるようになったよ。

だから……今の私は、自分の人生を選んでるんだ。

流されているんじゃない。

前みたいに嫌なことは全部、忘れてしまいたいとも思わない。

そんな今の私にしてくれたのがスィンザさんなの。

私も、テリルさんみたいにスィンザさんの力になりたい! 

私に何ができるかわからないけど、それでも……この気持ちを押さえつけたくない!」


「……タリナさん」


 スィンザはタリナの言葉に驚きを感じながらも嬉しく思った。


「……そうか。初めてだな。

タリナが、俺にこんな風に気持ちをぶつけてくるのは。

お前の不安な気持を知りながら、俺にはどうすることもできなかった。

だからこそこうして、強くなった姿を見せてくれたことを嬉しく思う。

……とは言え、今日はどうも、信念を持った女性たちに負けることが多い日だな」


 ジスタは思わず夜空を眺めた。そこにあった輝く星々を見て、それでもいいかと素直に思えた。


「どーすんだ? 大将?」


 船に乗っていた男性がジスタにそう声をかけた。


「よし。行くか、タリナ。恩返しの時くらい無茶しねぇとなぁ」


「うん! ありがとう。おじいちゃん!」


 ジスタの言葉を聞いたタリナは嬉しそうに梯を上がった。


「いい友達に出会えてよかったなぁ、タリナ」


「おれも若けぇ頃は、仲間のために無茶したぜ」


「まったくじゃあ。懐かしい気持ちになったのう」


 タナハナ村の老人たちも、タリナの成長を喜んでいるようだった。


「改めてよろしくね。タリナ!」


 梯子を上がって来たタリナに、テリルが手を差し伸べた。


「あ、あの、私も……いや、よくないかな……」


 タリナは照れくさそうにテリルの手を取った。


「わたしのことは呼び捨てでいいよ。

タリナは、今日からスィンザ応援隊のナンバーツーだからね! 

入隊おめでとう!」


 テリルは、自分で勝手に作った組織にタリナを強制加入させた。


「やったー! ありがとございます! テリル隊長!」


 タリナは嬉しそうに喜んだあと、テリルに敬礼した。


「何それ……恥ずかしいよ……」


 スィンザは二人のやり取りを聞いて、顔を赤くしながら恥ずかしがった。


「だ、ダメかな……」


「いや、あのね、応援隊が……嫌というか、私としては二人共大事な友達だから、応援隊だと一方的に応援されてるみたいで嫌というか……

で、でもね、私もタリナって呼んでもいいかな?」


 落ち込んだ表情をしたタリナに対して、スィンザはなぜそれが恥ずかしいのかを説明せざるを得なくなり、さらに恥ずかしくなった。


 それは混乱と言っても過言ではなかった。


「うん! いいよ。私も、スィンザって呼んでいい?」


「もちろん! むしろ呼んでほしいな」


「やったー!」


 スィンザの返事を聞いたタリナは、再び嬉しそうに喜んだ。


「……テリル隊長、スィンザさ……スィンザには内緒で応援活動しようよ」


タリナは身を屈めて、テリルに耳打ちをした。


「いいね!」


 テリルは小声でそう言うと、タリナの提案に賛成するように親指を立てた。


「ねぇ! 聞こえてるからね⁉」


 スィンザは耳を赤くしながらそう指摘した。


「……おーい。船が動くぞー」


 ジスタの声と共に船が宙に浮び上がった。


「そう言えば、この船ってどうやって進むんだろう?」


「簡単に言うと浮遊魔法で船を浮かび上がらせ、風の魔法で推進力を得るんだ。

もちろん他にもいろいろな魔法が使われているけどな」


 スィンザの疑問に、ジスタが答えた。


「そうなんですね! ありがとうございます。こんなに重たそうな物を浮かせられるんだ……」


「最近の魔法技術の発展は凄まじいぞ。

特にこの数年で、魔導器関連の技術はナーゼットファル王国を起点に爆発的な速度で発展したんだ。

この船は去年カルシャ獣軍に導入されたんだが、王国の正規軍からすれば既に型落ちの代物だ。

また来年辺りには、能力が飛躍的に向上した新型が出てくるかもな」


 ジスタがそう説明をしている内に、船はいつの間にかタナハナ村の外に出ていた。


「……目標地点、境界の街ラパン。方角確認」


「目標地点、西南方向に確認」


 船内に〈声伝魔法〉による無線の音声が響いた。


「これより、境界の街ラパンの偵察等を目的とした、特別作戦を開始する。出航!」


「「出航! 闘神の如く、勇ましく!」」


 男たちの雄叫びが船を揺らした。


 無線の合図に合せて魔導武装船は、ラパンに向かって進み出した。


「ガハハハッ! 堅苦しくてすまないな。これでも軽くなったほうなんだ」


 ジスタは、元部下たちの律義さに思わず笑いだした。


「いえいえ! そんなことないです! なんか安心感がスゴイです!」


「たしかに!」


「お茶の葉摘んでるときとか、野菜収穫してるときも、たまにあんな感じなんだよ」


 風に乗って軽快に陸路を進む魔導武装船は、一行を乗せてラパンへと向かって行った。


 流れる風の音が、スィンザたちの不安を押し流してくれているかのような気がした。


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