五十一話 スィンザの決意
俯いていたスィンザは、震える声で話し始めた。
「……ジスタさん。私は英雄になるために、祖国から旅立ち、ラパンに移り住みました。
私が元々住んでいた国では、もう英雄になれる道が残っていなかったんです。
士官になるための学校には入学もできず、兵士としても軍には入れませんでした。
そんな私を、バーモハンター見習いとして、チームに入れてくれた人たちがラパンにいます。
こんな私を探索チームに入れてくれた人がいます。
その仲間として認めてくれた人がいます……」
スィンザは、そこまで言うと大きく息を吐いて深呼吸をした。
「……それに、大切なことを教えてくれて、戦うための力をくれた人、そして私が英雄になるために必要なことを教えてくれた人がいます。
……今、街がどうなっているのか、私にはかわかりません。
私の大切な人たちがどうなったかもわかりません。
それでも私は立ち向かいたいんです。
私は……誰かのために戦うあの人の姿に憧れて、英雄になりたいと思ったから……
ここで立ち上がれないのなら、今まで闘って来た自分自身を認めることが出来なくなってしまうから……
だから、私は……ラパンに戻ります。一人のバーモハンターとして」
スィンザは、覚悟を決めるようにそう言い切った。
「……そうか。そんな想いを秘めていたのか。
だが……君を見殺しにはできない。
踏みとどまってくれ。
人一人の力など、あっという間に潰される。
そんな場所に向かわせるわけにはいかない」
ジスタも立ち上がり、その巨体であえてスィンザを威圧した。
年老いてなお、衰えを感じさせないその体は、相手がただの少女であれば震えるほど恐ろしいはずだった。
「それは覚悟の上です」
スィンザはジスタの威圧を跳ねのけるように、そう言った。
「――わ、私も……」
両者の緊迫した空気に割り込むように、タリナが何かを言った。
「……私も、スィンザと一緒に……ラパンに行く!」
タリナは、声を詰まらせながら、誰もが予想していなかったことを口にした。
「な……なにを言っているんだ⁉ タリナ、俺たちの話を聞いていなかったのか⁉」
「聞いてたよ! ちゃんと聞いてた。
でもこのままじゃ、スィンザさんは一人でラパンに行ってしまう。
それで……それで、スィンザさんが死んでしまうなんて嫌だ。
そんなことになるくらいなら、私が一緒に行って、二人で必ず生きて帰る!
もうバーモなんか怖くない!
戦いになってもザニーには頼らない!
お母さんから教わった回復魔法があれば、スィンザさんを助けることができる……だから、私もスィンザさんと一緒にラパンに行く」
タリナは泣きそうな声だが、はっきりと自分の考えを伝えた。
「タリナ……」
ジスタはタリナの成長を感じながらも、受け入れがたい提案に眉を曇らせた。
「タリナさん……でもそれは……」
スィンザもタリナの提案は受け入れられなかった。
自分の死は覚悟できても、自分を心配してついて来てくれた人の死は、そう簡単に受け入れることはできなかった。
「――スィンザは、トライホーンとアザーさんたちの無事が確認できればいいんだよね?」
膠着した話し合いにテリルが加わった。
「前みたいにシックスランクと戦いたいわけじゃないんだよね?」
「うん。それはもう考えてない。
みんなが避難してくれているなら、それがわかったら、戦いには加わらない」
テリルの言葉に、スィンザは素直にそう返した。
「うん。それならわたしたちは、街の人たちの安否を確認したら、ミモレスさんの魔導器で逃げればいいよね。
もし……街がすでに崩壊していた場合もそうしよう。
もしそうなっていたら、わたしたちにできることは、本当に何もないから……」
「君も行くつもりなのか⁉」
ジスタは、スィンザと共に行くことを当然のように言うテリルに驚いた。
「もちろんです。
わたしの夢は、スィンザが英雄になるのを見届けることなので。
どんな形になったとしても、わたしはスィンザと共に戦います」
テリルはそれが当たり前であるかのように、自分の夢を語った。
「テリル……」
スィンザはテリルの発言に驚くと共に、彼女の覚悟を受け止めた。
「ありがとう」
「うん。なんとなくわかってたんだよね。スィンザならきっとこうするって」
テリルはそう言っていつものように笑った。
「ふう……そうか。それで向こうに行くときはどうするんだ?
カルシャ経由でラパンに戻ることは恐らくできないぞ。
その魔導器は複数回使えるのか?」
ジスタは大きく息を吐いて力抜いたあと、そう二人に対して聞いた。
「……そっか。非常事態だもんね。テレポートリングって何回も使えるのかな?」
スィンザは、ジスタにそう指摘されて、移動手段に対する考えが抜け落ちていたことを気づかされた。
「たぶん一個につき一回じゃないかなぁ。
使っても、使わなくても、定期的に魔力のチャージが必要だって、ミモレスさんが言ってたよ。
でもそしたら……飛んでいく?
スィンザ一人なら、わたしの飛行魔法でも運べるよ。
タナハナ村からザニーが走って来てたのなら、そんなに距離がある訳じゃないだろうし」
「……私、もしかしたら自分で空を飛べるかも!」
「え⁉ そうなの⁉」
「――まてまて。移動手段ならある。準備が必要だから、すこし待っていてくれ」
ジスタはそう言うと、家の外へ出て行った。




