表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
八章 灰中の紅蓮
46/72

四十六話 バルカナの涙


「鳥人剣、風穿ち!」


 スィンザは、バルカナのゴースト・フレイムを警戒して、先手を打った。


「……ブラック・ゼロ・ワン・ブラック・アロー」


 バルカナは、短剣で照準を定めると黒炎の矢を放った。


 その黒炎の矢は、風穿ちを超える速度を有しており、威力もスィンザの技を凌駕するほど強力だった。


 風穿ちを難無く粉砕した黒炎の矢は、スィンザに到達した。


「うあっ!」


 スィンザは、黒炎の矢を剣で受けて防ぐので精一杯だった。


 そして、黒炎の矢を防いだ衝撃で、彼女は力無く吹き飛ばされた。


「気合いと根性だけじゃ、戦いには勝てないのよ……」


 バルカナは悲しげな表情でそう言うと、短剣を振った。


「ブラック・ゼロ・エイト・ゴースト・フレイム」


 黒炎の幽霊は、倒れたままのスィンザに止め刺すために浮遊した。


「くっ!」


 スィンザは、剣を振るのもつらい様子で、向かってくる黒炎の幽霊に風穿ちを放った。


 しかし、その攻撃では幽霊を迎撃することはできず、スィンザは黒炎の幽霊に包まれ、それを吸収してしまった。


「ううう……うっ!」


 スィンザは、強烈な頭痛とめまいによって、その場にひざまずいて、両手を地面についた。


「……もう、限界ね」


 バルカナは、スィンザの息の根を止めるために、彼女に向かって行った。


「…………」

 バルカナの言葉通り、スィンザは意識を失う寸前にまで追い込まれていた。


「――やめて! お願い! もうやめて!」


 タリナは、駆け出してバルカナの前に立ち塞がった。


「もう遅いのよ。

このままじゃ、あの子は魔力過剰症による魔力中毒になって、苦しみながら死に向かうわ。

自然回復は期待できない。

ここには回復魔導士もいない。

もう殺してあげた方があの子のためよ。

それにあの子は火属性。

あの高温状態が続けば、臓器に多大なダメージを与えてしまう。

もし仮に私が見逃したとしても、あの子はもう真っ当な生き方はできないし、バーモハンターにも戻れない。

まさに死んだ方がマシな人生を送ることになるわ。

……それでもあなたは、あの子を助けたいの? 

本当の苦しみを知る前に死んで楽になる道と、苦しみ抜いて死に向かう道、どっちをあの子に歩ませたいの?」


「か、回復魔法なら、私が使えます! 

私がスィンザさんを助けて、私が死ぬから、それで許してください……お願いします……」


 タリナは、涙を流しながら、バルカナに頭を下げて懇願した。


「……あの子が、それを許すとは思えないけど、やれるだけやってみたら?」


 バルカナは、そのタリナの願いを聞き入れて、短剣を下げた。


「ありがと……ああ! 駄目! なんで今……お願い、待って……」


 タリナは、一瞬だけ安堵の表情を見せたあと、突然頭を両手で押さえて、身悶え始めた。


「なに? どうしたの?」


 タリナの様子にバルカナは困惑した。


「……ニャハハハ、ソウル・ゲート、〈ビースト・アビリティ〉」


 タリナは、魔人でありながら、獣人の開錠語を唱えた。


「ニャハハハ! 誰だ⁉ タリナをいじめてるのは⁉」


 タリナから、ザニーに人格が切り替わった。


 それにより、タリナのピンク色の妖精は消失し、髪はピンク色から虎柄に変化して、臀部からは長い虎柄の尾は生えてきた。


 そして、両手は茶色の毛で覆われ、その指先には巨大な鉤爪が現れた。


「ん⁉ ああ! タリナ、また髪の毛解いてる!」


 人格が完全に切り替わったザニーは、魔法で髪留め用の紐を作り出すと、それで髪の毛を結び出した。


「な、なにこれ……変身魔法じゃない……」


 目の前で人格が切り替わる瞬間を見ていたバルカナは、タリナが変身魔法の使い手ではないことを理解した。


 魔導士であるバルカナから見ると、タリナとザニーは魔力の質などの点から見ても、まったくの別人であると思えるほど、大きな変化をしていた。


「ざ、ザニー……」


 スィンザは、か細い声でザニーを呼んだ。


「んー? スィンザ! え? ……どうして、倒れてるの……」


 ザニーは、スィンザの声を聞いて振り返り、倒れている彼女を見て思わず駆け寄った。


「ザニー。落ち着いて……た、戦わないで……」


 スィンザは、喋るのもつらそうな様子でそう言った。


「スィ……ンザ……死んじゃうの?」


 ザニーは、倒れているスィンザの側にしゃがみ込んだ。


 ザニーには、今の弱り切ったスィンザの姿と、亡くなる前日に会話をした時の母の姿が重なって見えた。


「大丈夫だよ。死なないから……」


 スィンザはできるだけ、気丈に振る舞った。


「火が体からでてるよ。水……水もってこなきゃ……あれ?」


 ザニーは、周囲を見渡して、その時ようやくここが異界であると気がついた。


 そしてこの空間に見覚えがあることにも気がついた。


「黄色の男。お前か! お前が、スィンザをこんな風にして、タリナを泣かせたのか⁉」


 ザニーは、イーゼマスのことを覚えていたのか、彼に対して敵意を剥き出しにした。


「違うわ。私よ。私がその子を、そんな風にしたのよ。虎女」


 バルカナは、ザニーの敵意をあえて引き受けた。


「許さない!」


 ザニーは怒りを顕わにして、立ち上がった。


「ざ、ザニー……」


 スィンザのか細い声は、激昂したザニーの耳には届かなかった。


「許さないか。少しだけやり易くなったわね」


 バルカナは、ザニーに向かって短剣を構えた。


獣戦(じゅうせん)鹿跳動(ろくちょうどう)、虎式!」


 ザニーは、その場で飛び上がると、瞬間移動のような速度でバルカナに迫った。


「バーモみたいな戦い方ね……ブラック・ゼロ・ツー……」


「獣戦、()(しん)(かく)!」


 ザニーは、バルカナの胴体を貫くかのように、手刀突きを放った。


「……ダミーボム・フレイム」


 刺心角で貫いたバルカナの体が爆発を起こした。


「うああああ!」


 爆発の直撃を受けたザニーは、吹き飛んで地面を転がった。


「へ~。見た目通り、けっこう頑丈なのね」


 バルカナは、何ごともなかったかのように、ザニーに近寄って行った。


 ザニーが刺心角で貫いたのは、黒炎で作られたバルカナの身代わりだったのだ。


「ザニー!」


 スィンザは倒れたザニーに対して、悲鳴を上げるように彼女の名を叫んだ。


「ブラック・ゼロ・エイト・ゴースト・フレイム」


 バルカナは、起き上がったザニーに向かって黒炎の幽霊を放った。


「獣戦……角衝波(かくしょうは)!」


 ザニーはゴースト・フレイムを薙ぎ払うように裏拳を放ち、その技から発生した衝撃波で幽霊を霧散させた。


「ブラック・ゼロ・スリー……」


 その間にバルカナは、暗殺者のような無駄のない素早い動きで、角衝波を放った直後のザニーの懐に入り込んだ。


「……インパクト・フレイム!」


 そして、掌底突きと共に黒炎の爆発を、ザニーの胴体に叩き込んだ。


「がぁ⁉」


 ザニーは、あまりにも強烈な衝撃を受けて、時が止まったかのような感覚に陥った。


 その技によって、ザニーの巨体が宙に浮かび上がって吹き飛んだ。


「う……ああ……」


 ザニーは地面に叩き付けられて、悶え苦しんだ。


「本当に頑丈ね。岩のような硬さのサードランクだって、粉砕できる魔法なのにまだ生きているなんて。

それともとっさに後ろに飛んで、致命傷を避けたの?」


「ぐう……あ……」


 ザニーは、痛みと戦うように地面に爪を立てた。


 地面を掴むその手からは、茶色の毛が消失して、指が人のものに戻って行った。


 やがて、意識を失ったザニーの髪は、ピンク色に変化して行った。


「……はっ⁉ いたっ! 痛いっ! あああああああ!」


 髪の毛が完全にピンク色に戻り、髪と同色の妖精が姿を現すと共に、タリナはその激痛に悲鳴を上げた。


「へぇ。一方が意識を失っても、もう一方の目覚めと共に気絶が解除されるのね。便利なようで残酷ね」


 バルカナは、激痛で号泣するタリナを見て、そう思った。


「即死できるように、あの魔法を選んだのに……なんでこんな……」


 バルカナは、自身の短剣を震えるほど強く握りしめた。


「痛くて苦しいわよね。今すぐ楽にしてあげる。

この炎なら、頑丈なあなたでも苦しむ間もなく焼き尽くしてくれるわ。

ブラック・ゼロ・シックス・ジェノサイド・フレイム」


 バルカナは、短剣を掲げ、その剣先に巨大な黒炎の大火球を作り出した。


 殺意に満ちた大火球の下で、黒髪の少女はとうとう涙を流した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ