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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
八章 灰中の紅蓮
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四十五話 火属性限定の高出力型、魔力変換体質



「あんたの絶望が見たいから教えてあげる。

私は、〈火属性限定の()()()()、魔力変換体質〉なの。

分かりやすく言うと、私が使う火属性の初級魔法は、勝手に上級に変換される上に初級と同じ量の魔力しか消費しない。

それによって、私は高火力の火属性魔法を好きなだけ撃てるのよ。

……だから言ったでしょ? あっという間にパンクさせてあげるって」


 バルカナは、露出している皮膚のいたるところから火を噴きだしているスィンザに、勝ち誇るようにそう説明した。


「爆発しそうな見た目になっているけど、パンクしたらどうなるんだい?」


 戦いを見ていたイーゼマスが、好奇心からそう聞いた。


「爆発はしないわ。

以前、魔法戦指導士の資格を取りに行った時に、対戦相手をパンクさせたことがあるけど、その人は魔力過剰症になって最後は意識を失った。

まあ、その人は吸収体質じゃなくて、吸収魔法の使い手だったけどね」


 バルカナは、イーゼマスにそう説明したあと、ゆっくりと倒れたままのスィンザに近づいて行った。


「あなた、大切にされているのね。

全身耐火加工の装備なんて、ラパンのバーモハンター見習いじゃ、とても揃えられないわよ」


 バルカナは、スィンザが着ている灰色のマント、その下の服、装備に、完璧な耐火加工が施されていることを指摘した。


「うっ……くっ……」


 スィンザは強烈な吐き気と頭痛、全身の発熱に襲われていて、返事をするどころではなかった。


 実際彼女の服の胸元には、ミモレスが即席で作った〈魔導器 ファイヤープルーフブローチ〉が装備されており、それによって完全な耐火性を獲得していた。


 服や装備に耐火加工が、施されているわけではなかったのだ。


「トライホーンの期待の新人を殺せば、私はもう、本当に後戻りできなくなる……」


 バルカナは、スィンザの耐火装備はトライホーンが与えたものだと誤解していた。


 スィンザは、朦朧とする意識の中、短剣を握るバルカナの手が震えていることに気がついた。


「……本当は……こんなことしたくないの?」


「……そりゃそうよ。

……二年前くらいにね、軍隊にスカウトされた私を『人殺しをさせるために、魔法を教えたわけじゃない』って先生が珍しく怒ったの。

それから私は、先生たちみたいな、立派なバーモハンターを目指していたのに……。

どうしてこうなったのかしらね」


 すでに決着はついたと判断したバルカナは、先ほどまでの強気で高圧的な態度を軟化させた。


「……そ、外にチェイサーがいる……お願い、踏みとどまって……まだ、間に合うはず」


 スィンザは、必死にそう訴えた。


 バルカナは、スィンザに語りかけるようにしゃがみ込んだ。


「助かりたい気持ちがないと言えば嘘になるわ。

でもね、私たちが逃げ出したら、捕らわれている先生たちが殺されてしまうの。

それだけは絶対にしたくない。

大切な人たちを助けるためなら、私は、喜んで地獄に行くわ」


 バルカナは、そう言って短剣を逆手持ちして、それをスィンザの首に突き立てるために大きく振りかぶった。


「苦しいでしょう? 今すぐ終わりにしてあげる……」


『――諦めるな!』


 不意にスィンザの心に、あの時のアザーの声が響いた。


「……そうだ。まだ諦めない! あなたのことだって! まだ!」


 スィンザは、魔剣を握り、全力で竜巻を起こした。


「……そう。そうよね。あなたにも譲れないものはあるはずよね……」


 バルカナは、竜巻を避けるように自分の足元を黒炎で爆破して、急速後退した。


「こんなに強い風を起こしているのに……まだ気持ち悪い……」


 スィンザは、体の不調を抱えたまま立ち上がった。


「一度発症してしまった魔力過剰症は、そう簡単によくならないわ。

それにあなたは火属性が高まって行く体質。

早くその炎を消さないと、発熱によって、体がまともに動かなくなるわよ」


「――お願い! もうやめて! 私が死ねば、それでいいんですよね?」


 二人の戦いを見ていることしかできなかったタリナは、勇気を振り絞り、バルカナにそう訴えた。


 ザニーが現れてから初めてできた同世代の友達が、目の前で苦しめられているのが耐えられなくなったのだ。


「そうね。あなたが死ねば、わたしたちの仕事は終わったことになるわ」


「それはダメだよ。タリナさん! 

……私は、タリナさんを殺させない。

バルカナさんにも人殺しはさせない。

……私が勝てばいい。それだけで、二人を救える……」


 スィンザは、強靭な精神力で前に進んだ。


 スィンザの心の中にいる英雄たちなら、必ずそうするはずだと信じて。


「もう無理だよ……スィンザさん……死んじゃうよ……」


 タリナは、明らかに限界を超えているスィンザの姿を見て、涙を流した。


「……なんで、あなたたちだったんだろう。

あなたたちが、殺した方が世のためだと思えるくらいの大悪人だったら、こんなに苦しまなくて済んだのに……」


 バルカナは自分の運命を呪った。


 相手を知れば知るほど、彼女たちを殺したくないと思う気持ちが強くなっていった。


「やっぱり僕がやるよ。バルカナ……」


「ダメよ。それもできない。あなたが傷つけられるのだって、私は嫌よ」


 イーゼマスの提案を拒否したバルカナは、もう一度短剣を構えた。


「やるしかない。私が……殺すしかない……」


「必ず止めるんだ。破滅への道なんて、歩いて欲しいわけがない!」


 バルカナとスィンザは、再び対立した。


 そこには、お互いに守りたいものがあった。


 決して譲れない想いがあった。



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