四十四話 スィンザ対バルカナ
「予定通りにはいかなかったけど、来て欲しくない人たちは省けたからいいとしようか」
イーゼマスの声が、スィンザたちの耳に届いた。
「ここは……」
「真っ白な世界……」
スィンザとタリナは、今いる場所がタナハナ村ではないことを認識した。
そしてこの空間は、スィンザにとって見覚えのある場所だった。ただし九腕大蛇の使ったものとは違い、林立しているのは真っ白な建造物だった。
「ようこそ。僕の隔離世界の中へ」
「ここがあんたたちの死に場所よ」
どうやら、イーゼマスたちは元々タリナ(ザニー)をこの空間に閉じこめる作戦を立てて、タナハナ村へやって来たようだった。
「最初から、こうするつもりだったの?」
スィンザは、再びセブンアローズと対峙した。
「そうさ。以前は上手く逃げられてしまったけど、今回は、わかりやすい道を使ってくれたおかげで、尾行が上手くいったと聞いたよ。
……元々、その虎の女の子は殺さなくちゃいけない対象だったらしいんだ。
まさか僕たちがそれをやる羽目になるとは思わなかったけどね」
スィンザは、イーゼマスの言葉の意味に気がついてしまった。
「あなたたちが、人さらいの犯人なの?」
「共犯者と言った方が正しいかもね」
スィンザの質問に対して、イーゼマスは自虐的に笑った。
「人さらい? なによ、それ……」
しかし、一方のバルカナはその事実を知らないようだった。
「……僕たちが裏でやっていたことだよ。
君には、最後まで知らないままでいて欲しかった。
この状況になった原因も、本当はあの襲撃の報復なんかじゃない。
だから、バルカナ。君は、その剣も、炎も収めていい。
あとは、僕一人でやるから。……本当は人殺しなんてしたくないだろ……」
「……イゼ。あんた、後で覚えておきなさいよ。
一発殴らせてもらうから。私たち仲間でしょう?
隠し事ばっかりして、許せない!
それに、私がやらないとあいつとの契約違反になる。
イゼが罰を受けるくらいなら、私が最後までやるわ。手出しはしないで」
バルカナは覚悟を決めたように、イーゼマスの前に出た。
「まって。あなたたちの話が本当なら、戦わなくて済む道があります。どうか一度踏みとどまって!」
スィンザは、ハルビリッツたちの正体がバーモであるとわかっているため、彼女らが破滅への道を進んでいるようにしか思えなかった。
「命乞いの言葉は本当にそれでいいの?
……そもそもあんたに何ができるの?
あんた、最近この街に来たばっかりのハンター見習いでしょう?
口だけの詐欺師紛いが。焼き殺してやる!」
バルカナは、自身の短剣に黒炎を纏わせた。
「信じてもらえないなら……」
(戦うしかない。戦って、この隔離界から抜け出して、パステナさんと話をしてもらえれば、わかってもらえるかもしれない)
スィンザはそれしか道はないと思った。
「タリナさん! 私から離れていて。ソウル・ゲート。バード・オブ・スカイ」
スィンザは、タリナを遠ざけてから、ソウル・ゲートを開き、フレイムボールで特大の火柱を発生させた。
スィンザは度重なる練習と実戦の末に、ブリーズソードの能力を最大状態にするために必要な炎の量を把握することに成功していた。
「……炎を吸収したの⁉」
スィンザが火柱を吸収する瞬間を見ていたバルカナは、戸惑ったような表情をした。
「バルカナ。彼女は、吸収魔法を使った様子はなかった。つまり彼女も、『君と同じ』魔力変換体質かもしれない」
「そうね。それに、隔離界魔法が崩壊していない点を考慮すると、『火属性限定』というところも一緒なのかもしれないわね。
あのマントで隠したソウル・ゲートの影響なのかしら。
それとも生まれつきの特殊体質?」
イーゼマスとバルカナは、スィンザの特性を即座に考察した。
「やはり、君が戦わない方がいいかもしれない」
「やってみないとわからないわ。
それに、もしも吸収型なのだとしたら、正直大した脅威じゃない。
むしろ私との相性は最悪よ。あの子にとってね」
バルカナは、不敵な笑みを浮かべると、黒炎を纏う短剣を構えた。
その構えは、剣士のそれというより、杖を構えた魔導士のように見えた。
「スィンザさん……」
タリナは、祈るように両手を組みながら震えていた。
タナハナ村で、戦いとは無縁の生活をしていたタリナにとって、この状況は何をどうしたらいいのかさえ分からなかった。
「タリナさん。大丈夫だよ。
私があなたを必ず守り抜くから。
それに、あの人たちにも人殺しなんてさせないから!」
スィンザは、自身の背後にいるタリナを勇気づけると共に、セブンアローズも必ず説得すると覚悟を決めた。
「大した自信ね。私の実力も知らないくせに。あんたすごくイライラする」
バルカナは、ラパン会議で初めて目を合わせた時のようにスィンザを睨み付けた。
「どうか踏みとどまって!
あのシックスランクは……九腕大蛇は人との約束なんて絶対に守らない。
たしかに私には、あなたたちを救う力はないけど、救える力がある人がラパンにいるのは本当だから。
このままじゃ、あなたたちは――」
「うるさい。もう私たちは、そういう段階じゃないのがまだわからないの?」
スィンザの説得を遮ったバルカナは、空を切るように短剣を振った。
「ブラック・ゼロ・ファイブ……ブラック・ウィップ!」
独特な呪文を唱えたバルカナの短剣に黒く細長い炎の渦が発生し、鞭のような形状に変化した。
バルカナはその黒炎の鞭で、スィンザを攻撃した。
「風よ!」
スィンザはブリーズソードの能力で、自身の周囲だけに竜巻を起こして、黒炎の鞭を防いだ。
黒炎の鞭は、風の渦にかき消されるように消失した。
「なるほどね。火を吸収してしまうのなら、それ以外の属性で戦うしかない。その中でも、風を選ぶなんてセンスはいいのね」
バルカナにとって、最初の攻撃は様子見でしかなかった。
「でもこれならどう? ブラック・ゼロ・エイト・ゴースト・フレイム」
バルカナは、ユラユラと力無く揺れる、不思議な黒炎を作り出した。
「ゴースト?」
「そうよ。執念深い黒炎の幽霊……」
その黒炎は、浮遊するようにスィンザに迫った。
「か、風よ!」
向かって来た黒炎の幽霊に対して、スィンザは先ほどと同じ方法で防ごうとした。
「その幽霊は、あなたを燃やすまで決して諦めない」
黒炎の幽霊は、突風でかき消されるどころか、それを乗っ取るように黒炎の竜巻となり、スィンザを包み込んだ。
「風で大きくなってる⁉ それなら!」
スィンザは風を起こすのをやめて、その黒炎をあえて受け入れた。
「そうよね。あんたは、私の炎を吸収するしかない。
でも、人間の魔力の容量なんてたかが知れているのよ。
あっという間にパンクさせてあげる。
〈魔力過剰症〉は、きついわよ。それこそ、立っていられないほどにね」
「そうなる前に、決着をつければいいだけ! 鳥人剣、風穿ち!」
スィンザは特大の風穿ちをバルカーナに放った。
「ブラック・ゼロ・セブン・シールド・フレイム!」
バルカーナは、風穿ちを避ける素振りも見せずに、自身の目の前に壁のように巨大な黒炎の盾を作り出した。
風穿ちと、黒炎の盾はぶつかった瞬間に大爆発を起こした。
「うわぁぁぁ!」
「きゃああああ!」
その大爆発は、なぜかスィンザたちのいる方向にしか発生しなかった。
スィンザとタリナはその大爆発の衝撃波で転倒した。
「……ほらほら、そんな場所で寝転んでいると、幽霊に襲われちゃうわよ」
バルカナはいつの間にか作り出した、三体のゴースト・フレイムで倒れたスィンザ襲撃した。
「くっ……なんでこんなに魔力の質量の多い魔法を連発できるの?」
三体のゴースト・フレイムを吸収したスィンザの両手からは、すでに魔力容量の限界が近いことを示すかのように、オレンジ色の炎が溢れ出ていた。




