四十三話 〈黒色の矢、黒炎のバルカナ〉
その鳥は、ずっと待っていた。
すべてが燃え尽きた、灰塵の中で。
誰にも見向きもされない灰色の闇の中で。
誰かのために羽ばたける日をずっと夢見ていた。
「な、なんであなたたちがここに⁉」
スィンザは、突然現れたセブンアローズの二人に対して身構えた。
「それはこっちのセリフだよ。余計なことばかりしてくれる。君たちが……」
イーゼマスは、何かを言いかけて、それをやめた。
「……余計なこと?」
「ここでは、どーでもいいわ。そんな話。
とにかく今は、あの虎女を出しなさいよ。
私たちが、用があるのはあの女だけなのよ」
テリルの質問をどうでもいいと切り捨てたバルカナは、ザニーを探してここまで来たようだった。
「ザニーは、ここにはいません」
敵意を剥き出しにするセブンアローズに対してスィンザは、そう言い切った。
「……ねぇイゼ。あの女、あの時の虎女によく似てない?」
バルカナは、スィンザの言葉を無視して、タリナを指差した。
「魔法で計測した体の形状などは、ほぼ同一の存在だよ。
魔力の質がまったく違うのは、気になるけどね。
もしかしたら僕らが知らない変身魔法のようなものを使うのかもしれない」
イーゼマスは、ミモレスと同じように対象を計測し、数値化する魔法を有しているようだった。
「そう。じゃあ、あの女を殺して帰ればいいのね」
バルカナは、そう言い放ち、タリナを睨んだ。
「まって! どうしてそこまでするの? 報復にしても明らかにやり過ぎです!」
スィンザは、バルカナの目線を遮るように、タリナの前に立って彼女を庇った。
「……あんた、ほんとムカつくわね。
会議でも、何にも知らないくせに、『あの偽物』を突き飛ばして無駄に刺激して……
先生たちが無事に帰って来なかったら、あんたも殺す!」
バルカナは、人形のような美しい顔を歪めて、スィンザに怒りの矛先を向けた。
「え⁉ あなたたちは、あれがシックスランクだと知っているの⁉」
テリルは、バルカナの発言を聞いて、そう訊ねずにはいられなかった。
「『あれ』がシックスランク? そんなわけないでしょう。何を言っているの?」
「わたしたちは、あのシックスランクが持つ禁術について知っています。
そしてあれが、ハルビリッツさんの記憶を使った高度な変身であることも。
なのに、どうしてあなたたちセブンアローズは……」
呆れたような態度のバルカナに対して、テリルはさらに追及した。
「ふふ……あははははっ!」
テリルの言葉を聞いたバルカナは、噴き出すように大笑いをした。
「シックスランクが禁術を使って、先生に化けている⁉
そんなこと有り得ない。
あの偽物としばらく一緒にいる私たちだからこそ、あんたの言っていることは意味がわからないわ。
シックスランクがわざわざそんなことをして、何になるの⁉
奴は、わざわざ人質を解放する条件を提示して、魔法による契約まで結んだのよ⁉
本当に先生の記憶を奪っているのなら、そんなことする必要ないじゃない。先生そのものになったふりをしていればいいだけなんだから!」
「バルカナ。部外者に洩らすべきじゃないよ」
苛立つように捲し立てるバルカナを、イーゼマスが暗い表情で窘めた。
「ふん! いいのよ。
この二人には、この前の高速飛行型の侵入の時からずっとムカついてたから。
何だったら一緒に殺しちゃえばいいんじゃない?
一人も三人も変わらないでしょう?」
バルカナは非常に機嫌が悪いようだった。
「あなたたちは、誰かを人質に取られているの?」
「ふふふ……これ以上を知りたいのなら、取引してもいいわよ。
私たちの話が聞きたいのなら、その虎女をさっさと差し出しなさい。
素直に応じるなら、あんたたちは見逃してやってもいいわよ。どうする?」
スィンザの問いかけにバルカナは、到底受け入れられない条件を提示した。
「スィンザさん、わ、私……」
タリナは、バルカナたちに完全に怯えていた。そして、それと同時にザニーが犯してしまったことの重大さにパニック状態になりかけていた。
「大丈夫。報復にしても殺すのは明らかにやり過ぎだし、そもそもこんなやり方は間違ってる!
私は絶対にタリナさんの側を離れないよ!
もちろんあの人たちに差し出したりなんか絶対にしない!」
「あ、ありがとう……」
タリナは、スィンザの存在を心強く思い、泣き出しそうになっている自分を何とか抑え込むことができた。
「交渉決裂ね。じゃあ予定通り、三人まとめて、仲良く燃やしてあげる。
あんたたちがどんな顔してたのかわからなくなるくらい、真っ黒にね!
ソウル・ゲート、フェアリー・エフェクト!」
バルカナは、開錠語を唱え、自身の妖精の力を解放した。
彼女の周囲を飛んでいた黒い火の玉のような妖精は、彼女の背後で巨大な六芒星を描く黒炎に変わった。
「そうそう。自己紹介がまだだったわね。
私はセブンアローズの〈黒色の矢、黒炎のバルカナ〉よ。
誰に対してナメた口をきいたのか、死を持って教えてあげる」
バルカナは、さらに腰に下げた鞘から短剣を引き抜いた。
その短剣は、黒色の剣身をした珍しいものだった。
「テリル! タリナさんを連れて、パステナさんたちの所へ行って!
炎使いが相手なら、私でも足止めできるから!」
スィンザは、テリルにそう声をかけると、長い髪を素早く一つ結びにして、自身もブリーズソードを抜いた。
「わかっ――」
「おい! 誰だ⁉ お前たちは⁉」
「皆さん! これは一体何が?」
スィンザの言葉を受け取ったテリルがタリナの手を掴もうとした時、異変を察知したジスタとパステナがタイミングよく現れた。
「あの女……チェイサーだ。
それにあの男は、引退したとはいえ〈カルシャの虎〉
……さすがに分が悪すぎるな。バルカナ。最初の作戦通りにやろう」
「ふーん。私なら平気だけど、イゼには従うわ」
イーゼマスは、タリナに向かって、黄色の高速魔法弾を放った。
「タリナさん!」
スィンザはとっさに、タリナに飛び付いた。
「スィンザ!」
テリルの悲鳴にも似た声が辺りに響いた。
イーゼマスの黄色の魔法弾は、スィンザの背中に着弾した。
そして、その一瞬でタリナとスィンザを何処かへ転送してしまった。




