四十二話 勇気を振り絞って言った言葉
「あの……よかったらどうぞ。お飲み物を出すのが遅くなって、すみませんでした」
タリナは、少しの時間が経ったあと、人数分のお茶を持ってきた。
その澄んだ紅色の紅茶は、美しい細工が施されたガラス製のコップに注がれていた。
「この村で育てている、カディナムというお茶の葉から作った紅茶です。
冷やして飲んでも、温かいまま飲んでも美味しいんですよ!」
「いただきます。ああ。こんなに濃い色なのに、爽やかな味……心が落ち着くような優しさがありながらも存在感のある高貴な香り。
このお茶、買うととても高いのではないですか?」
パステナは、こうした飲み物を飲み慣れているのか、感慨深い様子でそのお茶を飲んだ。
「そうですね。王都で製品として売られている物は、それなりに高い値段で売られています。
実は、このお茶の葉は我が村の主力生産物なのです。
我々にも、戦う以外の才能があったようでしてね」
ジスタは、そう言って豪快に笑った。
「わたしでもわかるくらい美味しい!」
テリルは、そのお茶の香りと味が気に入ったようだった。
「うん。すごくおいしい!」
さっきまで泣いていたため、目が赤いスィンザも思わず笑顔になった。
「そうだ、タリナ。皆様の村案内を頼んでもいいか?
今はちょうど、いろいろな花が咲き誇っている頃だから、タリナが手入れした花たちを見てもらったらいいんじゃないか?」
「うん! わかった。私でよろしければご案内します!」
ジスタの提案をタリナは、ワクワクした様子で受け入れた。
「では、スィンザさんとテリルさんで行って来てもらえますか?
私は、ジスタさんと引き続きお話したいことがありますので」
「はい。わかりました」
「了解です!」
パステナは、ジスタの祖父としての想いをくみ取り、年齢の近い者たちだけで会話できるように身を引いた。
「では、行きましょう!」
タリナは、嬉しそうに張り切っていた。
「はい。よろしくお願いします。タリナさん」
「よろしくお願いします!」
スィンザとテリルは、タリナのあとに続いて家の外へ出て行った。
家の外に出ると何かを思い出すように、タリナが足を止めた。
「……そうだ。スィンザさん。
ザニーが忘れて行った〈オオカ耳頭巾〉を届けてくださってありがとうございました!
あれ、お母さんの手作りで、とっても大切なものなのです。
本当にありがとうございます。
お礼を言うのが遅くなってしまってごめんなさい」
タリナはそう言ってスィンザにお辞儀をした。
(おおかみみ? ああ! 狼の耳ってことか!)
「いえいえ! 謝らないでください」
スィンザはその丁寧なお辞儀に恐縮した様子でそう言った。
「でも、やっぱりそうだったんですね。
私たちフードに書かれていたタリナさんのお名前を書いたのが、タリナさんのお母さんだって、なぜか何となくわかったんです。
それで、とても大事な物なんじゃないかと思って、どうしても届けたかったんです」
「……優しい人。本当にありがとうございます。
拾ってくれたのがスィンザさんで、私すごく嬉しいです」
タリナは、祈るように両手を組んで再度深々とお辞儀をした。
「いえいえ! そんな……」
スィンザは、タリナの礼儀正しさに再度恐縮した。
「……タリナさんて、十五歳なんだよね?」
テリルは、タリナの外見も精神年齢も、自分の一個下だとは思えなかった。
「はい。今年の春に十五になりました。……あれ? 私、年齢言いましたっけ?」
「あ、ザニーが、タリナさんが十五歳だって言っていたんです」
タリナの疑問にスィンザが答えた。
「ザニーが……でもなんで知ってるんだろう。おじいちゃんが言ったのかな」
「ザニーは、『書いてあった』って言ってましたよ。
ジスタさんも言ってましたけど、ザニーはタリナさんの日記をちゃんと読んでると思います」
スィンザは、ザニーの言っていたことを思い出してそう答えた。
タリナに比べるとザニーは、タリナの存在を明確に認知しているように思えた。
これは、タリナが日記をつけていたことで、ザニーとの記憶の共有を行っているからだと、スィンザは思った。
「そうだったんですか。……お二人は、ザニーと友達になれたんですか?」
「わたしはそうでもないけど、スィンザはド派手な死闘の末に仲良くなったみたいですよ」
「そ、そんな殺し合いみたいな言い方やめてってば!
ザニーを止めるために、ちょっと戦っただけだよ!
……ただ、少し仲良くなれたと、私は思ってるけど」
テリルのからかうような冗談に、スィンザは必死に訂正した。
「あ、あの……私も、よかったら……友達にしてください!」
タリナは、赤面しながらスィンザとテリルに突然そう言った。
「「!」」
二人は、タリナの発言に驚いた。
「あ、あ、あの、ごめんなさい! 私、年の近い友達がいなくて、その……なんて言ったらよかったのか……」
「いや! あの、嬉しいです! タリナさんがそう言ってくれて……」
「うんうん! わたしも嬉しい! ただ、いきなりだったからびっくりしちゃって!」
顔を隠すように恥ずかしがるタリナを、スィンザとテリルは必死にフォローした。
「ごめんなさい。自分から言うのが、小さい時以来だから、どう言えばいいのかわからなくて……ごめんなさい!」
「あ、謝らないで! 私も友達少ないから、こういう時どうしたらいいのかわからないけど、とにかく嬉しいです! 私もタリナさんの友達になりたいです!」
「わたしも友達になりたい!」
スィンザとテリルは、タリナを快く受け入れた。
「……嬉しい。ありがとうございます」
タリナは、二人の反応を見て、笑顔でそう言った。
「――あら。よかったわね。お友達ができて」
三人に突然そう話しかけてきたのは、黒髪の少女バルカナだった。
「こんな所にも、またこの二人か。なんだか怪しいな」
その黒髪の少女の隣には、黄色の妖精を持つ若い男、セブンアローズのイーゼマス・ゼネーロがいた。




