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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
七章 タナハナ村のタリナ
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四十一話 ザニーが強さを求める理由



「日記取ってきた! でもやっぱり読めないよ。これ……」


 二階から戻って来たタリナは、ジスタが言っていた日のページを開いて見せた。


 その日記には、確かに何かが書かれていた。しかしそれは、一見すると文字には見えなかった。


「んー? す……ん……。ああ。これスィンザさんの名前だな」


 ジスタは、なぜかその暗号を解読する特殊能力を有していた。


「な、なんで読めるの⁉」


「俺が教えた字だ。よく見るとわかるぞ。

これは、『もらった』で、こっちは『あげる』だよ。

で文脈と、日記に挟んであった物を踏まえると、ここはたぶん『あめ』だな」


「なんで読めるの⁉ じゃあ、これは?」


「んー? ……いやこれはわからんなぁ」


「ねぇ! 適当なこと言ってないよね⁉」


 タリナとジスタは、普段から仲がいいことがそのやり取りでわかった。


「……たぶん合ってますよ。

ザニーに飴をあげたとき、タリナさんに渡すからって言って、小さいピンク色の袋に飴を入れてたので……」


「あの飴……そういうことだったんだ。ありがとうございます」


タリナは、スィンザに頭を下げた。


「いえいえ! あの時たまたま飴があっただけなので……」


 スィンザはここで、ある疑問が頭に浮かんだ。


「あの、タリナさんに聞いてもいいですか?」


「はい。いいですよ」


 タリナの落ち着いた様子は、ザニーとは別人であることをさらに印象付けた。


「ザニーは、しきりにタリナさんを守るために、強くなりたいって言っていました。

あと、強いバーモがいると、タリナさんが安心できないとも言っていました。

この村ってそんなに危険な場所なんですか? 

見たところ戦いとは無縁の穏やかな村に見えますけど」


「……この村は、安全そのものですよ。

少なくとも私がこの村に来て、もう六年になりますけど、一回も危険な目には遭っていません。

それは、おじいちゃんたちが優しくしてくれるからなんですけど、それでもザニーは……たぶん強さを求め続けます。

あの子は、あの子なりに、私を守ろうとしているから……」


「タリナさんが、安全な暮らしをしているのに?」


「…………」

 タリナは、祈るように両手を組んで沈黙してしまった。


「……実はザニーが生まれたきっかけがあるのです。

……タリナ、この人たちになら話してもいいか?」


 ジスタの問いかけに、タリナは無言でうなずいた。


「そうか。じゃあ、ここから離れていてもいいぞ?」


 タリナは無言のまま立ち上がると、そのまま家のどこかへ姿を消した。


「……実は、タリナは、目の前で父親を殺されているのです。

そしてその相手は、バーモです。それは彼女が七歳の時に起こった悲劇です」


 スィンザは、ザニーが同じようなことを言っていたのを思い出した。


「彼女の父親であり、私の息子〈ザクス・ディオ〉は、バーモハンターとして活動をしていました。

ある日、彼が住んでいた〈ジブへブ〉という境界の街に、魔人国家モールジートで宮廷回復魔導士を務める女性がやって来たのです。

その女性が、後に彼の妻となり、タリナとザニーの母となった、〈レセナ・テア・リム・アイガー〉です。

彼女は、ザクスの勤勉で、仲間思いな性格を気に入ったのだと、以前教えてくれました」


 ジスタは淡々と喋りながらも、その瞳は深い悲しみに包まれていた。


「その後、夫婦となった二人は、高位の魔導士であり、高貴な家柄であるレセナさんのことを尊重し、モールジートで暮らすことになりました。

ザクスはそこで、高位魔導士の護衛官として抜擢されていたそうです。

二人のモールジートでの暮らしが安定した頃、レセナさんが妊娠をして、タリナが生まれました。

それから、『あの日』がやって来るまでは、とても幸せな日々だったとレセナさんから聞いています」


「あの日……」


 スィンザは、過去に起こった話を聞いているだけなのに、なぜか胸騒ぎがした。


 それは過去にスィンザが英雄に助けられ、彼に憧れを抱くきっかけになった日のことを、思わず連想してしまったからなのだろう。


「その悲劇が起こった原因は、卑劣なテロリズムによるものだったそうです。

モールジートの王政に反感を持ったテロ組織が、王都にフォースランクバーモを転移させ、民衆の虐殺を行ったのです」


「〈ガデシアム事件〉……」


 パステナはその事件を知っているようだった。


「そうです。その事件に、不運にも彼女たちは巻き込まれてしまった。

その日は、普段は多忙な両親の休みが珍しく重なり、久しぶりに家族三人で買い物をしていたそうです。

その家族で過ごしていたその穏やかな日常を、一瞬で奪われたのです」


 ジスタはやるせない表情を見せた。


「……ザクスは、襲われている民衆と妻と子供を逃がすために、一人で勝てるはずのないフォースランクバーモに戦いを挑んだそうです。

彼は狼の獣人でしたが、その性格は戦士に向いていなかった。

自分が強くなることにこだわりのない男だったのです。

そんな息子が、妻と子を守るために命をかけて凶悪なバーモに戦いを挑んだ。

……レセナさんの話では、おそらくタリナは父親が殺される瞬間を見てしまったのだろうと、ずっと後悔をしていました」


 ジスタは、先ほどのタリナと同じように祈るように両手を組んだ。


「その日以降、元々活発な性格だったタリナは、塞ぎ込むようになり、家の外にも出たがらなくなったそうです。

そんな日が一週間ほど続いたあと、タリナは突如ソウル・ゲートを開き、虎の獣人となったのです。

しかし、その変化はあまりにも異様だったとレセナさんは語っていました」


 ジスタはそう言って、壁に目を向けた。


 スィンザたちは、ジスタの目線を追うように、壁に目を向けた。


 そこには壁に飾られた立派な魔法杖があった。


 おそらくそれは、タリナの母の遺品なのだろうと推測できた。


「……虎の魂を解放したタリナは、別人のように警戒心が強く、非常に攻撃的になったそうです。

まるで、本当に別人になってしまったかのように。

そして、その後タリナは、もう一つのソウル・ゲートを開き、魔人になりました。

それにより人格の分断はより明確なものになり、虎の魂は、自らをザニーと名乗るようになったそうです」


「つまり、タリナさんは目の前で父親を殺された凄惨な出来事をきっかけに、人格が乖離してしまった可能性があるということですね?」


 パステナは、戦争孤児が同じような理由で人格の解離を起こした症例について、聞いたことがあった。


「おそらくそうだと思います。そしてザニーの行動理念には、タリナを守るという目的が強くあります。

タリナは、目の前で父を失ったことで強烈な無力感を抱き、幼いながらに力を渇望したのだと思います。

その想いに虎の魂が答えたのだと、私たちは考えています」


 ジスタは、祈るように組んだ両手に力を込めていた。


 無意識に行われたと思われるその行為に、どんな想いが込められているのか、誰も推し量ることができなかった。


(今の話は、私の体験とよく似ている。

もしもあの日、ダゼル様が私たちを救ってくれなかったら……

もしも目の前でお父さんだけが殺されて、私だけが生き残ったとしたら……

私はどうなっていたのだろう。

想像もできない。

そんな想像もできない悲しみや、苦しみをタリナさんは背負って生きているんだ。

ザニーは、そんなタリナさんを守り続けているんだ)


 スィンザは、そう考えている内に目の前が涙で滲んで見えた。


「……申し訳ない。あまりにも暗い話をしてしまって……」


 涙を流しているスィンザを見た、ジスタは思わず謝罪した。


「いえ……あの、実は私もタリナさんと似たような体験を、同じくらいの年齢の時にしてまして……それで……その……。

ごめんなさい。上手く……言葉にできなくて」


 スィンザは溢れ出すような感情を必死に堪えようと、何度も涙を拭った。


 そんなスィンザの背中を、隣に座っていたテリルが優しくなで続けた。


 家の地下に続く階段で、身を隠して話を聞いていたタリナは、自分の生い立ちを聞いて涙を流したスィンザに興味を持った。


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