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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
七章 タナハナ村のタリナ
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三十九話 タナハナ村



 スィンザたちは、その後ビフェルから入国許可を得て、タナハナ村への転移魔法陣を目指した。


 テリルは物珍しそうに王都の中を見ていたが、スィンザはザニーの処遇が気になって、観光どころではなくなっていた。


「うわー! すごい数の転移魔法陣だ!」


 テリルは、転移魔法陣の発着エリアを見てそう声を洩らした。


 そこには推定数百以上の転移魔法陣が、地面に一直線に並んでいた。


「どうやら、この魔法陣を通って一旦、レフゼフ市に向かい、そこからさらに三回ほど転移魔法陣を経由する必要があるようですね」


 目的の転移魔法陣の前で、パステナがこれからの道のりを説明した。


「けっこう遠い場所にあるんですね。そのタナハナ村って」


 テリルは早々に王都を離れてしまうことを残念がっているようだった。


「そうですね。王都を経由するとそう感じますね。

ですが地理的には、ラパンとそれほど離れていないようですよ。

入国審査がなければ、ラパンから向かった方が確実に早いですね。

まぁ境界の街は、事実上の辺境なので、当然といえば当然なのですが……」


 一行はレフゼフから複数の町や村を経由して、ロッコという村の転移魔法陣の中かタナハナ村行きのものをすぐに見つけ出した。


「では、行きましょうか。ザニーさんにお会いできるといいんですが」


「ザニー……」


 スィンザはザニーが、自己弁明できるかどうかが心配でたまらなかった。


 もしパステナが、彼女を犯罪者と認定してしまったら、ザニーはどうなるのか、そればかりが気になっていた。


「おおー! 綺麗な場所だぁ!」


 転移魔法陣の先にある、自然に囲まれたのどかな風景にテリルがはしゃいでいた。


 その場所は、大きな木々が生き生きと枝を伸ばし、地面には様々な色の花が咲き誇る、山間部の美しい村だった。


「城壁の内側は、こんな世界なんですね」


 スィンザは、ザニーへの不安を一瞬忘れて、その光景に目を奪われた。


 その豊な自然の先には、見慣れた巨大城壁と思われる建造物が、東西を分断するように果てしなく続いていた。


「――おや、異国の客人とは珍しいな。ようこそ、タナハナ村へ」


 美しい光景に目を奪われているスィンザたちにそう声をかけたのは、村の住人と思われる細身の老人だった。


 彼の頭部には、折れたような形の一本角が生えていた。


 スィンザはこの老人は、ダバロと同じ動物の魂を持っているのではないかと思った。


「初めまして。

我々はナーゼットファル王国領の境界の街、ラパンからやってまいりました。

少々お尋ねしたいのですが、この村にザニーという名前の虎の獣人女性がいらっしゃると思うのですが、ご存じありませんか?」


「ナーゼットファルの……ラパンか。さてどうしたものか……」


 ザニーの名を聞いたその老人は、仙人のように長く伸ばした白い髭を撫でた。


「――おーい、ゴハ。誰なんだ? この方たちは?」


 一角獣の老人を追って来たと思われる大柄な男性が、そう声をかけて来た。


 その男性は、ザニーと同じ虎柄の髪と、虎柄の長い尾を有していた。


 さらに、足を痛めているのか、右足を引きずるように歩いていた。


「ジスタ。この方たちは、〈ザニー〉を尋ねてここまで来たそうだ。どうしたものか」


「ざ、ザニーを⁉」


 その虎の獣人男性は、困惑した様子でその場で立ち止まった。


 彼らの反応は、間違いなくザニーのことを知っていると確信させた。


「あ、あの、ジスタ・ディオさんでお間違いないでしょうか?」


 考え込むように黙ってしまった二人に対して、スィンザがそう話しかけた。


「あ、ああ。俺……いや、私はジスタ・ディオですが?」


「あの、これをザニーが忘れて行ったんです。

私はこれをどうしても、ザニーに返したくてここまで来ました。

タリナ・ディオ・アイガーさんは、ジスタさんのご家族の方ですよね? 

私の予想なので、違ったら申し訳ありません」


 スィンザは、自身の魔法のバックの中から、ザニーのフードを取り出して、それをジスタに見せた。


「それは! ……はい。そうですね。タリナも、ザニーも私の孫娘です」


 そう言い切ったジスタに、パステナは改めてラパンからここまで来たことを説明した。


「そうですか……ラパンから……。

ザニーは、何かそちらにご迷惑をおかけしませんでしたでしょうか?」


「率直に申し上げますと、お孫さんは違法バーモハントの疑いと、ラパンの街のバーモハンターへの暴行事件を起こしています。

それにより、その被害者となったバーモハンターチームから、報復を受ける可能性があります。

お孫さんと直接お話させていただくことは可能ですか?」


「そんなことが……。

いや、申し訳ありません! なんと申し上げればいいのか。

とにかく、孫の犯した罪は、私が償います。

彼女の両親はすでに他界し、今は実質的に私だけが彼女の肉親なのです。

それと、申し訳ないのですが、ザニーに会うことは、今はできません。

これは非常に複雑で、あなた方からすると信じがたい話になるのですが、私たちでさえ彼女に意図的に会うことができないのです」


「……? それは、どういうことで――」


「おじーちゃーん! お魚焼けたよー!」


 パステナの話を遮るように、そう大声で叫んだのは、村の奥から走って来た長身の女性だった。


「た、タリナ……」


「え⁉ タリナさん⁉」


 ジスタは、その女性のことをそう呼び、スィンザがそれに反応した。


 その女性は、ピンク一色のセミロングの髪と、周囲にはピンク色の妖精が一体飛んでいる「魔人」であった。当然、虎の尾も生えていない。


 しかし、その特徴以外の容姿は、ザニーと瓜二つであるように見えた。



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