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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
六章 カルシャの虎
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三十六話 悪い話ともっと悪い話


 スィンザたちは、城壁の関所まで戻ってきた。


「そういえば師匠は、あのあとどうしたんですか?」


「アザーは、レクエスたちと合流して、九腕大蛇のあとを追ったよ。

最悪の事態が発生した場合は、パステナの強制転移魔法で討伐軍の所に九腕大蛇ごと移動する予定だね。

それが『転移作戦』だよ」


 ミモレスは、九腕大蛇への作戦の一部を説明した。


「出発前に言っていた『転移作戦改』はどのようなものなんですか?」


 テリルは、あの時は忙しくて聞けなかった作戦について訊ねた。


「ああ。『転移作戦改』は、転移作戦に加えて、スィンザとテリルを魔導器屋に転送する行程を加えたものだね。

危険は九腕大蛇だけとは限らないから」


「いつも気にかけて下さってありがとうございます」


 テリルは、ミモレスに感謝を述べた。


「なんだか申し訳ないです……」


 スィンザは、自分たちがアザーたちの足枷になっていると思った。


「気にしなくていいんだよ。

ボクたちが、国王から与えられた旗の形をした力は、この国に住む人々を守るためにあるのだから」


 その言葉は、ミモレスの誓いでもあった。


「「ありがとうございます」」


 ミモレスの言葉に対して、スィンザとテリルは思わず同じ言葉を口にした。


(ミモレスさんと、師匠の考え方こそが、私が目指すべき〈英雄〉の姿……)


 スィンザは、本物の英雄たちの姿を心に思い浮かべた。


  ♢♢♢


 そうして、ヤモリ印の魔導器屋に帰ってきたスィンザたちを待っていたのは、深刻な表情で会議をするアザーたちだった。


「おっ! 無事だったか?」


 帰って来たスィンザたちに、レクエスが声をかけた。


「二人共、怪我はなさそうだよ。

スィンザは、番兵や青色等級の人たちが熱心に観戦するくらい派手に戦ったみたいだけど」


「え⁉ そうだったんですか⁉」


 スィンザは観戦者がいたことに驚いた。


 スィンザはザニーとの戦いに夢中で、観戦されていたことに気がついていなかった。


「ほう。そりゃ無茶なことしたんだな。

相手は、セブンアローズのハンターを二人も倒した強者だったんだろう?」


 アザーは、恐ろしい顔でスィンザを見た。


「いや、あの、あの時は、あれが最善だと思ったので……」


 スィンザは後ろめたさから縮こまった。


 冷静になって考えてみると、ミモレスに判断を仰ぐべきだったと思ったからだ。


「まぁ、怪我がないなら良かっただろ。さすがアザーの弟子だな」


 レクエスはそう言って笑った。


「はい! 師匠に稽古をつけて頂いたおかげです!」


「……あまり調子に乗るなよ」


 アザーは、無表情でそう言った。


 スィンザからすると、アザーが怒っているように見えた。


「ごめんなさい!」


 怒られたと思ったスィンザはすぐに頭を下げた。


「……いや、俺が言葉を間違えた。

自信を持つのはいいが、無茶はするな。死ねば、人生はそれまでだ」


「アザーは、女の子の弟子を取ったのは初めてなんだ。

言葉は足りないけど、誤解しないであげて。

アザーもスィンザのことが心配だったんだよ」


 ミモレスは、アザーの気持ちを代弁するかのようにフォローをいれた。


「そうなんですか? 怒られたのかと思って……」


「ミモレスの言う通りだ。無事でよかったよ」


 アザーの言葉に偽りはないように見えた。


「はい。ありがとうございます」


「それで、そっちは何があったんだ? 教えてくれ」


 スィンザはアザーたちに、ザニーと何があったのか、ザニーという人物はどのような人間なのかを説明した。


「――そうか。無法者とシックスランクは別だったのか。

しかし、本当に単独でフォースランクを倒したのなら、とんでもない逸材だな。

女傑に近い実力の持ち主と言える」


「ですが、それほどの逸材をあの〈カルシャ獣軍〉が放置しているとは考えにくいですね。

それか、何か致命的なものを抱えていて、すでに省かれた者なのか……」


 パステナの言葉と、直接接触したスィンザたちの反応から、それも十分に考えられるとアザーは思った。


「とりあえず、彼女については保留にさせてくれ。

とりあえず今は、ミモレスたちに共有しておきたいことが二つある。

悪い話と、もっと悪い話だ。どっちから聞きたい?」


「そ、そういうのは、普通は良い話と悪い話なんじゃ……」


 テリルが顔を引きつらせてツッコミを入れた。


「じゃあ、まずは悪い話から聞こうか」


 ミモレスは慣れた様子で、話を進めた。


「そうか。結論から言うとラグマヘス・トララグマもバーモだった。

最悪この街には今、シックスランクが二体いる可能性がある」


「さ、最悪な話だった……」


 テリルは、頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「なんでそれがわかったの?」


 ミモレスは何事もなかったかのように、質問を続けた。


「俺たちが九腕大蛇たちを尾行していた際に、ラグマヘスを名乗る老人に妨害行為を受けた。

奴は下手くそな変身魔法と、不気味な言動をしていた。

表情を一切変えずに喋ったり、杖を突いているのに、平然と歩いたりしていたんだ。

パステナの透視魔法で見たところ、案の定その体は、バーモのものだった。

スィンザをさらったのも、恐らくこいつだと考えて間違いないだろう。

また九腕大蛇とは、別個体であると考えて間違いない」


「そっか。人さらいの実行役も、バーモだったんだね。

でもなんで九腕大蛇と別個体だとわかったの?」


「ミモレス様が測定してくださった、九腕大蛇の魔力製石の推定魔力保有量と、ラグマヘスを名乗るバーモの持つそれの数値が大きく違いました。

バーモの持つ魔力製石は、バーモの能力を示すものでもあります。

どれだけバーモ自身が魔力を消費しても、魔力製石の保有量には影響が出ません。

これを加味して、魔力製石の魔力保有量は、個体を明確に識別するのに適していると判断致しました」


 ミモレスの疑問に、パステナが答えた。


「あの老人が、バーモ……」


 スィンザは、その事実にあの時の恐怖が甦った。


「え⁉ もしかして、この話より、もっと悪い話があるんですか⁉」


 テリルは、嘘であってくれと願いながらそう口にした。


「あるぞ。ラパンに来る予定だったシックスランク討伐軍が、何らかの組織に襲撃されたと先ほど緊急連絡を受けた。

被害は甚大で、ラパンに到着するのが最大で一ヵ月ほど遅れる可能性があるそうだ。

さらにラパンと外の街や、村と繋がっていた転移魔法陣が全て破壊された。

おそらく転移魔法陣破壊の犯人は、俺たちから転移魔法で逃げ出したラグマヘスを名乗るバーモの仕業だと考えられる」


「さ、最悪だ。本当の……」


「て、テリル!」


 気絶するかのように倒れたテリルを、スィンザが支えた。


「まあ、転移魔法陣については、ミモレスとパステナに直してもらえる。

しかし九腕大蛇たちが、近々何かを起こそうとしているのなら……

俺たちは討伐軍抜きで、その事態に直面することになるだろう」


「「…………」」


 スィンザたちは、最悪の急展開に言葉を失った。


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