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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
六章 カルシャの虎
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三十五話 ザニーの忘れ物


「ごめんね。ザニー。私はザニーにいじわるしたいわけじゃないんだよ」


「……でも、ジャマするんでしょ?」


 スィンザは、改めてザニーとの対話を試みた。


 このままでは、再び九腕大蛇に戦いを挑んでしまうだけではなく、ザニーとその家族も人さらいに狙われてしまう可能性があった。


「ジャマじゃないよ。

本当にあのバーモを倒そうといろんな人たちが動いているの。

信じられないかもしれないし、安心もできないかもしれないけど……

私はザニーに嘘はついてないよ」


「でも、この街の人はみんな嫌い。

バーモをたおしてあげたのに、みんなザニーのことを攻撃してくるんだ」


「ザニー。あのね。ザニーに助けられた人は確かにいると思う。

ザニーはすごくいいことをしたよ。

でもね、攻撃してきたのは、本当にこの街の人だった? 

もしもね、そうじゃなかったら、その人たちが悪い人だったら、タリナさんや、ザニーの家族の人たちが大変な目に遭うかもしれないんだよ。

それに、バーモを勝手に倒すのは、本当はいけないことなんだよ」


「…………」

 ザニーは、スィンザの言葉になにか心当たりがあるようだった。


「……おじいちゃんが、バーモを勝手にたおしちゃいけないって、いってたかも」


 ザニーは、小さな声でそう言った。


「ザニーのおじいちゃんは、どんな人なの?」


「おじいちゃんは……いっぱいいるよ。

ジスタおじいちゃんと、ゴハおじいちゃんは、強いんだよ。

獣戦技も、おしえてくれたよ」


「そうなんだ。いっぱいおじいちゃんいるんだね。

ねぇ、もっとザニーのこと教えてよ」


「……そのまえに、お腹すいた。なにかちょうだい」


 ザニーは(うずくま)ったまま、右手だけを伸ばした。


((モフモフで肉球かわいい))


 スィンザとテリルはほぼ同じことを思っていた。


「じゃ、これあげる」


 スィンザは、自分の魔法のバックから三つの飴を取り出して、ザニーの手に乗せた。


「なにこれ?」


「飴だよ。甘くておいしいの。疲れたときはもっとおいしいよ」


 その飴は、街で売られている砂糖を溶かして作られたシンプルなものだった。


 ザニーは、透明な包み紙に包まれた、黄色や、こげ茶色のガラス玉のような食べ物を、初めて目にしたかのような反応をみせた。


「これ、きれーだねー。

タリナが好きそう。

これどうやって食べるの?」


 ザニーは、上体を起こして、興味深そうに飴を観察した。


「こうやって包み紙を剥がして、そのまま食べるの」


 スィンザは、魔法のバックからもう一つ飴を取り出して、ザニーの前で食べて見せた。


 ザニーは、スィンザのまねをするように、鋭い鉤爪で器用に包み紙を剥がして、飴を口に放り込んだ。


「あまい! おいしい!」


 ザニーは、ガリガリと飴をかじった。


「ザニー、飴はかじっちゃダメだよ。

歯が悪くなっちゃう。

口の中で転がすように舐めるんだよ」


「なめる……あまい~。ニャハハッ」


 ザニーは、機嫌よさそうに笑った。


「ねぇ、ザニーはどこから来たの?」


「えっとね~。あっちの方!」


 ザニーは、北の方角を指差した。


「なんていう場所? カルシャ王国?」


「違うよ。なんだったけな~。タリナなら知ってるよ」


「タリナさんも、一緒に暮しているの?」


「タリナはここにいるよ。今は寝てるから、会えないけど」


 ザニーの発言に、スィンザたちは困惑した。


「――こんにちは! わたしはテリル。

スィンザの友達だよ。よろしくね。

わたしからも、ザニーに聞いてもいい?」


「うん。いいよ~。……テリル! よろしくね」


 会話に入るために話しかけてきたテリルを、ザニーは友好的に受け入れた。


「うん! ねぇ、タリナさんて、どんな人なの?」


 テリルは、タリナが人ではないパターンも考慮してそう質問をした。


「タリナはねぇ、泣き虫なの。

いっつも誰かにいじめられてるから、ザニーが守ってあげてるんだ」


 ザニーはそう言ったあと、なぜか桃色の耳付きフードのあご紐をほどいて、それを脱いで見せた。


「この髪もね、いつもタリナがほどいちゃうんだよ。

ザニーのお気に入りなのに」


 ザニーはそう言って、黄色や、白色、そして黒色が入り混じった虎柄の髪を見せてきた。


 その髪は、低い位置で二つ結びにされており、ザニーが見せたかったのは、その髪型のようだった。


「かわいい……」


 スィンザは、ザニーの猫っぽい顔をみて、思わずそう呟いた。


「ニャハハッ! そうでしょ!」


 髪型を褒められたと思ったザニーは、無邪気な笑顔を見せた。


(こ、こんなかわいい子に、私は風穿ちを放ってしまった……)


 スィンザは、強烈な罪悪感で胸が苦しくなった。


「ニャハハ……わぁ、もう帰らなきゃ。怒られちゃうよ」


 ザニーは、夕日になりかけている太陽に気がついて、立ち上がった。


「スィンザ! 飴ありがとう! これタリナにあげるんだ!」


 ザニーは、服のポケットから、桃色の巾着袋を取り出して、その中に飴をしまった。


「え、あ……待って、ザニー!」


 スィンザは、ザニーが人さらいに狙われる危険性を説明できていなかった。


「ダメだよ。スィンザ。

おじいちゃん怒ると怖いんだよ~。

じゃあね。また来るね!」


 ザニーは、スィンザたちに手を振ると、物凄い速度で駆け出した。


 その速度は、風を纏ったスィンザでも、追いつけないほどの速さだった。


「わたしなら追いつけるかも。いってこようか?」



「いや、やめよう。

まっすぐに帰宅するみたいだし、今日は様子をみようよ。

こっそりと居場所を特定する小さな魔導器を彼女の服に付けておいたから、明日には居場所がわかると思うよ。

それに、人さらいの方も彼女のことを今まで放置していたみたいだし、恐らくまだ余裕はあると思うんだ」


 ミモレスはこうなることを予見していたかのようだった。


「わかりました。ありがとうございます。ミモレスさん」


 スィンザは、ミモレスの言葉で安心感を覚えた。


「ボクもちょっと気になったんだ。彼女のこと」


 ミモレスは、考え込むように腕を組んだ。


「あ! ザニー、フード忘れてる」


 テリルは、地面に落ちていた桃色の耳付きフードを拾い上げた。


「本当だ。あれ? ここに名前が書いてあるね」


 フードの内側には、綺麗な文字で「タリナ・ディオ・アイガー」と書かれていた。


 スィンザは、ザニーの持ち物にタリナの名が書かれていることが気になった。


「これタリナさんの物ってこと?」


「じゃあタリナさんも、ザニーと同じくらい大きいのかな……」


「そっか。そうだよね。謎だぁ……」


「謎だね」


 スィンザとテリルは、そのフードを見つめながら深まっていく謎に、おもわず首をかしげた。


「でも、この字……たぶん、お母さんの字だと思う。なんとなくだけど」


 スィンザはその字そのものに、何か温かいものを感じた。


「わかる! なんか字から愛情が伝わってくるというか……」


 テリルもスィンザと同じ感覚を共有していた。


 ザニーは、最近母親が病気で亡くなったと言っていた。


 タリナと、ザニーの関係性は結局よくわからなかったが、それでもこのフードは、ザニーにとって大切な物であるはずだとスィンザは思った。




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