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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
六章 カルシャの虎
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三十四話 スィンザ対ザニー【決着】


(止めるには、倒すしかない!)


 スィンザは、そう覚悟を決めてザニーと対峙した。


「グルルルル……獣戦じゅうせん刺心角(ししんかく)!」


 ザニーは、剛槍のような手刀突きを放った。


「この技……」


 スィンザは、ザニーの技を回避しながら、気がついたことがあった。


「ダバロさんや、リーダーの技と同じだ。〈有角獣人〉の技を自分流にアレンジして使っているんだ」


「逃げてばっかりぃぃぃ!」


 ザニーは、技を避け続けるスィンザに苛立っているのか、攻撃に粗さが見え始めた。


「今だ! 鳥人剣、風穿ち!」


 スィンザはその隙をついて、ザニーの胴体に風穿ちを放った。


「ううっ!」


 風穿ちが胴体に直撃したザニーは、後方に吹き飛んだ。


 その風穿ちは、あえて殺傷能力を抑えて放ったものであり、ザニーの体を貫通したりはしなかった。


「ザニー。あのバーモを倒す方法は、もう考えてあるから、今は引いて。お願いだから」


 地面に倒れたザニーに向かって、スィンザはそう訴えた。


「いやだ! ザニーがたおさないと、タリナが安心して暮らせないんだ!」


 ザニーは、何事もなかったかのように、起き上がった。


 彼女は、人が吹き飛ぶほどの威力の技を受けてもまだ余裕があった。


「ザニーがもっと強くなって、タリナを守らないとだめなんだ!」


 ザニーは、再びその場で飛び上がった。


鹿跳動(ろくちょうどう)……それなら!」


 スィンザは、ザニーが高速移動から攻撃に移ったタイミングで、フレイムボールから巨大な火柱を発生させた。


「うあぁぁぁ!」


 火柱に突っ込む形になってしまったザニーは、本能的に地面を転がった。


「ふぅ、ふぅ!」


 ザニーは服についた火を払うように、体中を叩いた。


「――ごめんね!」


 スィンザは、容赦なくザニーに巨大な風穿ちを放った。


「うぁっ!」


 ザニーは再び吹き飛ばされて、地面を転がった。


「……お願い。ザニー。大人しくして」


 スィンザは、倒れたザニーにそう語りかけた。


「……やだ。やだやだやだ! 

どうして、みんなジャマばっかりするの? 

ザニーは頑張ってるだけなのに! 

もうしらない。死んじゃえばいいんだ! 

おじいちゃんがダメって言ったけど、死んじゃえばいいんだ!」


 ザニーは泣き喚きながら立ち上がると、子供のように癇癪(かんしゃく)を起して暴れた。


「ザニー!」


 その幼すぎる精神年齢に似合わない強靭な体と、凶器的な爪の組み合わせは、脅威そのものだった。


「うわあああああ!」


 しかしザニーは、自分の体に振り回されて派手に転倒した。


「あああああ! おかあさーん! うああああ!」


 座り込んで号泣するザニーを見たスィンザは、剣を収めた。


「ザニー、ごめんね。私はザニーの邪魔をしたいわけじゃないんだよ」


 スィンザはしゃがみ込んで、ザニーに優しく話しかけた。


「うるさい! 嫌い! どっかいってよ!」


 ザニーは、頭を抱え込むように(うずくま)った。


「ごめんね。ザニー……」


 スィンザは、その場を離れようとはしなかった。


「――スィンザ……大丈夫?」


 不意にそう話しかけて来たのは、ミモレスに話を聞いてから、急いで飛んで来たテリルだった。


「テリル。もう……大丈夫だよ」


 スィンザは、(うずくま)ったまま泣いているザニーを見つめながらそう言った。


「――よかった。無事だったんだね」


 テリルに遅れて、息を切らしたミモレスがやって来た。


 どうやら、走ってここまでやって来たようだった。


「ミモレスさん。勝手な行動をしてごめんなさい」


 スィンザは、立ち上がってミモレスに謝罪した。


「うん。怪我してなくてよかった。それでこの人は、どうしたの?」


 ミモレスは、息を整えながらザニーに目を向けた。


「こう見えて、この子七歳なんです。私が上手く説得できなくて、泣かせちゃって……」


「七歳⁉」


「……それはないんじゃない? 

若いのは間違いないけど、そんなに若くはないと思うよ」


 テリルとミモレスは、ザニーの年齢には疑問を持った。


「うぅぅ……ザニーはたぶん七歳だもん。

タリナは、十五歳って書いてあったけど」


 三人の話を聞いていたザニーは、泣きながらそう言った。


「えっ⁉ タリナってザニーの妹じゃないの?」


 タリナのことを勝手にザニーの妹だと思い込んでいたスィンザが驚いた。


「タリナは妹じゃないよ。

でもいつも一緒にいるんだ。

だから、ザニーが守らないとだめなんだ……」


 ザニーは、蹲ったままそう言った。


「スィンザ、どういうこと?」


「実は……」


 テリルの言葉を受けて、スィンザがなぜこうなったのかを簡単に説明した。


「なるほど。でも臭いでバーモの居場所がわかるのは、すごい才能だね。

もしかしたら、嗅覚が優れている獣人たちは、そうやってバーモの位置を特定しているのかな」


「そういえば、人さらいに遭ったとされる人の中に、犬の獣人の方がいましたよ! 

たしか議会議員の人だったはず……」


 テリルはミモレスの言葉で、失踪したとされている人物のことを思い出した。


「……もしかしたらその人も同じように、九腕大蛇にたどり着いてしまったのかもね」


 ミモレスは、それが人さらいの被害者の中に、獣人が多かった理由の一つなのかもしれないと思った。


「え……じゃあ、ザニーも……」


「そうだね。少なくとも九腕大蛇には、目をつけられたかもしれない。

九腕大蛇がどういう理由で、セブンアローズの中にいるのかはわからないけど、この子がハルビリッツの正体を知ってしまったことには違いないから……」


 それはザニーも人さらいの被害者になる可能性を示唆していた。


「ねぇザニー、ザニーはどこに帰るの? 

タリナさんの他に家族はいるの?」


「うるさい! スィンザには教えない! 

この街の人はみんな嫌い! 

このまえだって、バーモから助けてあげたのに、魔法で攻撃してきたし、みんな嫌い!」


 ザニーは心を閉ざし、耳を塞ぐように頭を抱え込んだ。


「バーモから助けた?」


 ミモレスはザニーの発言に反応した。


「あっ! アザーさんが、言ってた黒い森の無法者って実は……」


 テリルは、彼女が無資格でバーモハントを行っていた真犯人なのではないかと思った。


「そういえば……。

ザニー、大きなバーモを倒したって言ってたよね⁉ 

魔法で攻撃されたのは、その時のこと?」


「……そうだよ。

おそわれてたから助けてあげたんだ。

そしたら、魔法で攻撃されたんだ」


 ザニーは涙声でそう話した。


「じゃ、やっぱりただ倒されただけのフォースランクは、ザニーが倒したんだ。

それに、魔法で攻撃された理由は、私の時と同じ状況だったから……」


「人をさらってきて、フォースランクに食べさせようとした瞬間だったってことだね。

攻撃してきたのは、邪魔をされたから……」


 スィンザとテリルは、ザニーの話は嘘ではないと思った。


「でもこの子、そんなに強いの?」


 ミモレスはその疑問を無視できなかった。


 この話が真実ならば、ザニーは単独でフォースランクを討伐できる力を持っていることになる。


「そのくらい強いと思います。

魔刃武装と同じような技術も使えるし、〈獣戦技(じゅうせんぎ)〉っていう獣人の人たちが使う武術も達人級です」


 実際にスィンザはザニーとの戦いの中で、何度も死を予感させられていた。


「確か、自称〈カルシャの虎〉だよね。

でもこんなに強いなら、なんで名前を聞いたことがなかったんだろう。

ボクは、カルシャにも知り合いがいるけど、この子の話は聞いたことがないよ。

虎の獣人で、これだけ強ければ、何かしらの噂とか出回りそうだけど」


 ミモレスたちはラパンに来る前に、周辺国も含めた複合的な調査を実施していた。

 

 ナーゼットファル王国の情報網の中にさえ、ザニーの情報は存在していなかった。


 タリナという人物との関係性も含めて、ザニーの謎は深まるばかりだった。


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