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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
六章 カルシャの虎
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三十二話 〈カルシャの虎、ザニー〉

 

 イーゼマスは、バルカナが走り去ったのを確認してから、隔離界魔法を展開した。


 それによって、イーゼマスと謎の獣人女性の姿が街の中から消えた。


「今のうちに、あの負傷したセブンアローズの人を助けよう」


 隔離界魔法の仕組みを知っているミモレスは、迷い無く走り出して、壁に寄りかかり、気絶している男性に駆け寄った。


「わかりました!」


 スィンザは、髪を魔法の紐で素早く一つ結びにして、ミモレスの後を追った。


「わたしは空を飛んで、回復魔導士の人を探してきます」


 テリルはソウル・ゲートを開き、空中に飛び上がった。


「気をつけてね!」


「空なら大丈夫! すぐ戻るから!」


 スィンザの声に、そう返したテリルは建物の屋根の向こうに消えて行った。


 壁に寄りかかって気絶している魔人の男性は、身につけている胸部の鎧が潰れていた。


「こんな高価な魔導加工金属が……どんな攻撃を受けたんだろう」


 ミモレスは、胸を圧迫している可能性を考慮して、潰れた鎧を脱がした。


「おい! 大丈夫か? 何があった?」


 ミモレスたちにそう声をかけて近づいて来たのは、トライホーンのグラゼルターカであった。


「リーダー! 今、虎の獣人の女性と、セブンアローズのイーゼマスさんが、隔離界魔法内で戦っています」


 救護をしているミモレスに代わり、スィンザが状況を説明した。


「……虎の獣人⁉ 

そりゃ、獣人の世界じゃエリート中のエリートだぞ⁉ 

何でそんなやつが、こんなことを?」


 この世界の人間は、ソウル・ゲートの影響を受けて体が変化する。


 妖精を持つ者は、妖精と同じ色の体毛が生え、大型の動物の魂を持つ者は、それだけで体が大きくなり戦士として重用される。


 龍をも倒すと言われる虎の魂を持つ彼女は、そのソウル・ゲートを持っているということだけで、戦士として優遇されるはずの存在なのである。


「グラゼルターカさんも知らない人物ということは、どこか別の場所からやって来た人ということだね。

バーモがどうとか言っていたけど、どういうことなんだろう?」


 ミモレスは、男性を横に寝かせ、損傷部位を確認しながらそう呟いた。


「一応、ここの隣国は〈獣人国家カルシャ〉だが、こっちに手を出したら国際問題だぞ⁉」


 グラゼルターカがそう言ったその瞬間に、何かが弾けたような衝撃波がスィンザたちを襲った。


「なんだ⁉」


「隔離界魔法が破られたんだ!」


 ミモレスは、何が起こったのかを一瞬で理解した。


「あ……」


 スィンザは、イーゼマスが地面に倒れ込む瞬間を目撃した。


「ニャハハハハ……」


 独特な笑い声が、その場に響き渡った。


「イーゼマスがやられただと⁉」


 グラゼルターカは、イーゼマスが敗北した姿を見て驚いた。


 イーゼマスはサポートメインの魔導士ではあるが、その魔法技術はラパンの街の中では、トップクラスの実力を持っている。


「ニャハハハ。バーモいなくなった……」


 その女性は、恐らくハルビリッツを探しているのか、周囲を見渡した。


「たぶんあっちかな~」


「――待って!」


 走り出そうとした女性を、スィンザが呼び止めた。


 そして、ブリーズソードを鞘から引き抜き、フレイムボールで巨大な火柱を作り出した。


「ソウル・ゲート! バード・オブ・スカイ!」


 スィンザは、火柱を吸収しながら、灰色のマントの下で翼を広げた。


「バード? ……強そうなトリちゃん」


 獣人の女性は、スィンザに興味を持ったように見えた。


「私はスィンザ・ススです! あなたのお名前は?」


「ニャハハハハ。〈ザニー〉だよ。〈カルシャの虎のザニー〉だよ」


 ザニーと名乗った女性は、武術的な構えを見せた。


「〈カルシャの虎〉⁉ 

隣国にいる現役を引退した英雄の異名じゃねぇか! 

何勝手に襲名してんだ!」


 グラゼルターカはその異名に聞き覚えがあるようだった。


「こっちに来て、ザニー。今度は私が相手になる!」


「いいよ~。楽しそう」


 スィンザの呼びかけに、ザニーは素直に応じた。


「スィンザ⁉ それは無茶だよ!」


「ミモレスさん! 黒い森の手前で戦います!」


 スィンザは、ミモレスに一方的に行先を伝えて風を纏った。


 黒い森は、ハルビリッツたちが向かった先とは反対側にあり、一番の危険から火種を遠ざけるには最適だとスィンザは考えた。


「待ってスィンザ! 

その女性は、最低でも白銀等級と同等か、それ以上の強さなんだよ! 

怪我じゃ済まなくなる!」


 ミモレスは、スィンザの身を案じた。


 実際にザニーは、実力者揃いのセブンアローズのメンバーを特に負傷した様子もなく、二人倒していた。


「大丈夫です! もう簡単に自分の命を諦めたりしないから!」


 スィンザはそう言って、空中に飛び上がった。


「ニャハハー。まって~」


 ザニーは、人間離れした身体能力で駆け出した。


 障害物を軽々と飛び越えるしなやかなその巨体に、民衆は驚愕(きょうがく)した。


(よし! ついて来てる。

でも、九腕大蛇に執着しているわけではないってこと? 

そもそもどうして九腕大蛇のことがわかったんだろう? 

話し方もなんだか……子供っぽい感じがする)


 スィンザは、考えれば考えるほど、ザニーへの疑問が増えていく気がした。


 風を纏って街を疾走するスィンザの後ろを、ザニーは難無く追いかけた。


「城壁の関所が見えてきた。

今なら青色等級の人たちも、まだお昼休憩から戻ってきていないはず。

あそこなら誰も巻き込まずに戦える!」


 スィンザは、関所で正規の手続きをすることなく、城壁の外へ飛び出した。


「ニャハハ! まてまて~」


 サニーもスィンザを追って、城壁の外へ向かった。


「おいおいおい! なんだ、なんだ⁉」


 関所を守る番兵や、受付員たちは、飛び出して行った二人のあとを追った。


「おーい! お前たちバーモハンターか⁉ 

手続きをしないとダメだろうがー!」


「すみません!

 今、緊急事態なんです! 

危ないから離れていてください!」


 スィンザは番兵たちに大声で危険性だけを伝えて、できるだけ彼らを遠ざけた。


「――ふう……さあ、ザニー。ここなら思いっきり戦えるよ」


 スィンザはそう言って、巨大な火柱をもう一度吸収した。


 そこは、黒い森の手前に広がる黒い砂漠の上だった。


「ニャハハハ……。スィンザちゃん。強いといいな~」


 ザニーは、相当な距離をかなりの速さで走ってきたはずなのに、息を切らしていなかった。


 そして、ザニーは再び武術的な構えで、スィンザと対峙した。



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