二十三話 緋色の矢、スカーレット・アロー
「ははは。もうこれを防ぐ手段はないだろう? スカーレット・レーザー」
九腕大蛇は再び、無数の疑似光線魔法を放った。
「その光線は、三回撥ね返ったら殺傷能力がほぼなくなる。上手く弾け!」
アザーは、超越の白牙刀で対処した際に得た、敵の魔法の性質を仲間たちに向かって叫んだ。
「はい! わかりました!」
「了解です!」
「「ソウル・ゲート! バード・オブ・スカイ!」」
スィンザとテリルは、ソウル・ゲートを開き、鳥人が持つその優れた動体視力でレーザーに対処した。
「魔導器〈オートフェザーナイフ〉」
ミモレスは、魔法のバックの中から細く切った紙のような物を無数にばら撒いた。
その紙のように見えた薄いナイフは、鳥のように空を飛んで自ら紅色の疑似光線にぶつかって行った。
「魔伝一刀流、金色斬魔!」
アザーは、レーザーを切り抜け、過剰な魔力を込めた斬撃を九腕大蛇に放った。
「なにぃぃぃ⁉」
アザーの一撃は、九腕大蛇の右手の内の一本を斬り落とした。
「バカな! なぜ人間ごときが⁉」
「魔伝一刀流は、お前たちシックスランクを斬るために生まれた流派だ!」
アザーは、魔法の鞘の中から刀をもう一本取り出して、自身の妖精に投げ渡した。
アザーの妖精も、刀に過剰な魔力を流し、九腕大蛇の胴体を斬り裂いた。
「くっ! なんだ、その魔法は⁉ ただの分身じゃないのか⁉」
九腕大蛇は自身の多椀を駆使した攻撃で、アザーと妖精を遠ざけた。
「……魔法じゃない。俺は、魔法は一切使えない」
アザーは自身の妖精との連携攻撃で、九腕大蛇を斬り裂いた。
その連携攻撃は、思考を共有しているのではないかと錯覚するほどに乱れの無いものだった。
「おのれ! くらえ、スカーレット・ブレイド」
九腕大蛇は、紅色の魔法斬撃をアザーに向かって放った。
「反撥性の魔刃か?」
アザーは、そう予測してその魔法斬撃を刀で受けた。
「なんだと⁉」
その紅色の魔法斬撃は予想とは異なり、刀をすり抜けて、アザーの胸部を斬り裂いた。
「はははっ! それは物体を一度だけすり抜ける魔法だ!」
九腕大蛇は、胸部から血を流すアザーを嘲笑った。
「アザー!」
「師匠!」
ミモレスとスィンザは、膝をついたアザーに駆け寄った。
「大丈夫だ! 傷は浅い」
アザーは、ミモレス製の防具のおかげで致命傷を回避していた。
「いい的だ! まとめて死ね! スカーレット・レーザー!」
九腕大蛇は、数本の疑似光線魔法を直接アザーたちに放った。
「錬金変形、盾!」
ミモレスは、手に持っていた複数の失敗作の魔導器をレーザーに向かって投げつけ、それを錬金魔法で巨大な盾に変化させた。
九腕大蛇の放った数本のスカーレット・レーザーは、盾をすり抜けてアザーたちに迫った。
「撥ね返らない⁉」
盾でレーザーが撥ね返ると思っていたスィンザは、とっさに防御姿勢をとった。
「魔導器〈フライングオートシールド〉」
ミモレスは、失敗作を盾に変形させると同時に、魔力の盾を作り出す魔導器を発動させていた。
全てのスカーレット・レーザーは、フライングオートシールドに阻まれて消失した。
「良く見抜いたなぁ。
反撥性だけではなく、〈透過性のスカーレット・レーザー〉も放てるということに」
九腕大蛇は戯れるように手を叩いた。
「どちらでも防げるように動いただけだよ」
ミモレスは、九腕大蛇をにらみつけた。
「こいつは想像の何十倍も厄介だな……」
アザーは、九腕大蛇が人から奪った力だけで、戦っていることに気がついた。
「アザーさんが与えたダメージも、もう完全に修復しちゃった」
テリルは、九腕大蛇が攻撃と自己修復を同時に行うのを見ていた。
「それじゃあ、今度はこれだ! スカーレット・アロー!」
九腕大蛇は、九本の腕から緋色の魔法の矢をアザーたちに向かって放った。
「直接放ったから、透過性魔法⁉」
スィンザは火柱を吸収して、風穿ちを放った。
スカーレット・アローと風穿ちは、ぶつかり合うと爆発した。
「今度は爆破性か!」
「それなら任せて!」
ミモレスは、フライングオートシールドで、向かって来る残りのスカーレット・アローを防いだ。
その際、爆発すると思われていたスカーレット・アローは、なぜか何事もなく消失したようにみえた。
「ただの攻撃魔法だった?」
「それなら、なぜ風穿ちで撃ち落とした時は爆発したんだ⁉」
その答えは、フライングオートシールドが、魔力の盾を解除した時に判明した。
「答えは、起爆性魔法だ!」
九腕大蛇が拳を握ると、魔力の盾が発生していないフライングオートシールドは爆破されて粉々になった。
「さあ、今度のスカーレット・アローは、三つの性質の内のどれだろうな?
もしかしたら、まだ見せていない性質の魔法かもしれないなぁ」
九腕大蛇は、再び九本の腕に緋色の魔法の矢を作り出した。
「ミモレス。これ以上はまずい。
解析を急いでくれ。できるだけ多く時間を稼ぐ。
すまないが、スィンザとテリルは、遠距離攻撃で援護してくれ。
間違っても奴に近づくな。
奴はまだ、シックスランクとしての戦闘力を見せていない」
「わかった」
ミモレスは戦列から離れ、失敗作の山の近くまで下がった。
「わかりました」
「了解です」
スィンザとテリルはその場に残り、武器を構えた。
アザーは、スィンザとテリルの前に立ち、放たれた緋色の九本の矢と対峙した。
「お前の魔法がなんであろうと、全て打ち砕けば問題無い!」
アザーは刀を鞘に納めて、居合の構えを見せた。
「魔伝一刀流、抜刀弾魔!」
アザーは刀を抜刀すると同時に、巨大な魔力の弾丸を放ち、向かって来たスカーレット・アローを全て迎撃した。
「遺骸の力で消費した魔力が、ここに来て響いてくるなぁ!」
九腕大蛇は、反撥性のスカーレット・レーザーと、透過性のスカーレット・アローを織り交ぜてアザーを攻撃した。
「師匠!」
スィンザは、アザーの負担を減らすように、風穿ちで九腕大蛇の魔法を撃ち落とした。
(……この頻度で、こんなに大量の攻撃魔法を撃たれたら対処しきれない)
テリルは、低反動の魔弾銃で敵の魔法を撃ち落とすことだけに集中した。
「はははっ! 強い魔法は楽しいなぁ!
あとはお前たちを弄り殺すだけで、我が目的は達成される」
九腕大蛇は、もはや目の前のアザーたちを見ていなかった。
「九腕大蛇!」
アザーは、無尽蔵に放たれる緋色の魔法の性質を見極めながら、九腕大蛇に迫った。
再生の中心地点にあるはずの魔力製石の場所さえ分かれば、まだ勝算はあった。
(撥ね返った! ならばこれは反撥性か!)
アザーの目の前で撥ねた疑似光線魔法を、刀で薙ぎ払った。
「なんだと⁉」
しかし、その疑似光線は刀を透過してアザーの右肩を貫いた。
痛みで立ち止まったアザーに向かって、地面を撥ねた三本の魔法の矢が突き刺さった。
「手の込んだことをするんだな……」
「これで終わりだ」
九腕大蛇が拳を握ると、アザーに突き刺さった魔法の矢が爆発を起こした。
「ぐあぁぁ!」
アザーは爆発で吹き飛び、地面を転がった。
フェアリー・エフェクトは解除され、アザーの妖精は影の姿に戻って、刀をその場に落とした。
「師匠!」
「アザーさん!」
すぐに駆け寄ったスィンザとテリルは、アザーの火傷の酷さに絶句した。
「手に入るぞ! 闇の女神の力が、手に入る!」
九腕大蛇は地面を這って、スィンザたちに近づいた。
「――錬金変形、壁」
ミモレスの声と共に、銀色の液体がスィンザたちを素早く取り囲み、巨大な金属製の壁になった。
「この隔離界魔法の解析は終わった。今すぐ飛んで逃げるよ!」
ミモレスの中指に嵌められた、指輪状の魔導器が輝きを放つ。
スィンザとテリルは、返事の代わりにアザーの体に触れた。
そしてスィンザたちは、強烈な青い光に包まれて思わず目を閉じた。
♢♢♢
「ここは……」
光が弱くなったので目を開く。
スィンザたちは、いつの間にかヤモリ印魔導器屋の屋内に転移していた。
「あぁ、アザー……」
ミモレスは、その場に座り込んで、心配そうにアザーの頬に手を当てた。
「……ミモレス。心配をかけてすまない……」
アザーは、震えているミモレスの手に触れた。
ミモレスの瞳からは、涙がこぼれ落ちた。




