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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
四章 九腕大蛇
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二十一話 九腕大蛇


「――お前たちバーモハンターか?」


 黒い森の中を進むスィンザたちに、その青年は唐突(とうとつ)に話しかけてきた。


 黒い木の陰から突然現れたその青年は、動きやすそうな軽量の鎧を身につけていた。


 髪の色は緋色で、彼の右肩には緋色の妖精が飛んでいた。


「……いや、魔法道具屋だ。お前こそ、どこの所属だ?」


 アザーは、警戒するように刀に手をかけた。


「おれはトライホーンのバーモハンターだよ」


 その魔人と思われる青年はそう答えて、笑いかけてきた。


「その人、ウソをついてます。

トライホーンに所属している魔人のバーモハンターなら、全員知ってますけど、この人は初めて見ました」


 スィンザは、剣を抜いた。


「魔法道具屋は知らないはずだ。

おれは街の中にあまり顔を出さないからなぁ」


 青年は嘘に嘘を重ねた。


「私は魔法道具屋じゃありません。

トライホーンの見習いです! 

なぜあなたは、私たちのチーム名を名乗っているんですか?」


「それに、トライホーンは『人命優先』を掲げているチームです! 

黒い森の中でバーモハントをする時は最低四人行動が原則です!」


 スィンザに続くように、テリルが魔弾銃を取り出した。


「ははは……最近入った奴がいたのか……」


 青年は悪びれる様子もなく笑った。


「スィンザ、テリル。二人はボクの後ろに。

アザー、その男は人間ですらない。

目当ての相手かもしれない」


「なに⁉ お前がシックスランクか?」


 ミモレスの言葉で、一行に緊張が走った。


「ほう。なぜわかった? 

まさか、嘘がバレただけじゃなく、正体までこんなに早く見破られるとは……。

女、お前どんな魔法を使ったんだ? せめて教えてくれないか?」


 青年は、青年のふりをするのをやめた。


「魔力の総量を量って、体の構造を透視しただけだよ。

キミの体には、内蔵が存在していない。

あるのは高密度の〈魔力製石(まりょくせいせき)〉だけ。

まさにバーモの体そのものだ」


「この僅かな時間で……。

素晴らしい能力だ。

欲しいなぁ。お前の記憶とその力が」


 シックスランクバーモは、両腕を広げた。


 その両腕は、千切れるように分裂して、右に五本、左に四本の九本の腕になった。


 さらに、両足が水飴のように溶け出し、金色の鱗を持つ大蛇の体へと変貌した。


「人間ども、この姿を目に焼き付けて死んで行け。

我が名は〈九腕大蛇(くわんおろち)〉。

神にも等しい存在だ」


 九本の腕を扇のように広げた、半人半蛇の姿をした自称神は、獲物を見定めた。


「神を自称するだけあって、ずいぶん人の言葉を上手く使うんだな。

その中身の無い頭を下げて、教えを乞うたのか?」


 アザーは、人外の怪物を前にしても平然としていた。


「ははは。脳を直接食ったんだよ。

我はそれだけで、人の記憶と力を奪うことができる。

お前たち人間には真似もできないだろう?」


「……それがお前の特殊能力か?」


 九腕大蛇の言葉を聞いたアザーは、構えに入った。


「――〈禁術、記憶喰い〉だね。

その魔法、誰に教わったの?」


 割って入ったのは、ミモレスだった。


「素晴らしい。この魔法のことまで知っているのか。

やはり欲しいなぁ。お前の記憶が」


 九腕大蛇は、敵意を向けているアザーから目を離し、ミモレスに狙いを定めた。


「そ、そんな魔法があるんですか?」


 スィンザは禁術の使用者を初めて見た。


 禁術とは、非人道的な魔法や、社会を破綻(はたん)させかねない効果を持つ魔法のことである。


 国によっては使用者や、所有者は死刑されることもある。


「あるよ。禁術だけをまとめた〈禁術魔導書〉にも記されている有名な魔法だよ。

禁術魔法をかけた相手の脳を食すことにより、相手の記憶を完全に習得することができる。

でもその代償で術者の人格が破綻してしまうから、禁術に指定されているんだ」


「人であれば重い代償だが、我らには影響はない。

お前たち人如きの記憶で、我らは揺るがない。

ただの糧でしかないのだ」


 九腕大蛇は、今まで喰い殺して来た者たちを嘲笑(あざわら)った。


「おい、九腕大蛇。答えろ。

その禁術は誰に教わった? 

魔法の知識もないはずのお前が、たどり着けるものじゃないはずだ」


「〈闇の灯火を持つ者〉に教わった。

名前は知らない。

喰い殺そうとしたが、逃げられてしまったのでね」


 九腕大蛇は、素直にアザーの問いに答えた。


「闇の灯火……〈闇魔人(やみまじん)〉か。

お前は、聞けば何でも教えてくれるのか?」


「神だからなぁ。

命と引き換えに答えよう。

すでに答えたことと引き換えにお前と、青髪の女の命は必ずもらう」


 九腕大蛇の体は、時間が経つごとに大きくなっているように見えた。


「禁術を使う闇魔人……」


 ミモレスはその人物に心当たりがあるのか、そう呟いて視線を落とした。


「――ずいぶん寛容なんだな。

神のふりをして、セブンアローズも懐柔(かいじゅう)したのか?」


「セブンアローズ? 知らないなぁ。

人など魔力を蓄えた肉塊に過ぎない。

魔法の知識くらいしか価値の無いものを懐柔などしない」


 九腕大蛇は、一本の腕をミモレスに向けて伸ばした。


「人の言葉を覚えても、所詮はバーモか」


 アザーは、剣を抜刀し、魔力の塊を九腕大蛇の胴体に放った。


 その技は、スィンザの風穿ちとよく似ていた。


「おおおっ!」


 九腕大蛇は、アザーの抜刀魔力撃ちを受けて仰向けに倒れた。


「今だ! 二人を連れて逃げろ!」


「――うわぁぁぁ!」


 アザーの声と共に、テリルの悲鳴が辺りに響いた。


「なっ⁉ テリル!」


 転送用の魔導器を使おうとしていたミモレスはその手を止めた。


「……青髪の女がよかったんだが、これでも人質の価値はあるようだな」


「わたしのことはいいから逃げて!」


 九腕大蛇の尾は、誰にも気づかれることなく紐のように細長く変形して、ミモレスたちに迫っていたのだと思われた。



 アザーの技で倒された九腕大蛇は、地面に忍ばせていた尾を使い、テリルを捕獲して人質にとってしまった。


 テリルの体には、九腕大蛇の金色の尾が巻き付いていた。


「さあ。ではこの小娘と青髪の女を交換しよう。

我を攻撃した紫髪のお前は、青髪の女の知識で殺してやる」




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