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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
一章 灰の翼のスィンザ
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二話 バーモを狩る者


「スィンザとテリルは、なんで魔物を狩る者(バーモハンター)になりたかったんだ?」


 ルモーンたちは、行きつけのタクロノ食堂で食事をしていた。


「わたしは成り行きで、〈トライホーン〉に入れてもらって、そのまま成り行きでお仕事してますよ」


 テリルは、サンドイッチを美味しそうに食べたあと、能天気な笑顔を見せた。


「うちのチームトライホーンはお前みたいなやつばっかりなんだよな……。スィンザは?」



「私は……自分の国で、ハンター見習い募集の情報を得て、ここなら……

夢を叶えるために、成長できるかなって思ってラパンに来ました」


 スィンザは、俯き、躊躇い(ためらい)ながらそう語った。


「夢があるのはいいことじゃないか。どんな夢なんだ?」


 スィンザは、バリゼの言葉に、一瞬嬉しそうに顔を上げたが、すぐに思い直すように(うつむ)いた。


「……〈英雄〉に、憧れているんです。

私も、あの人みたいになりたくて……」


「英雄か! いや、女は〈女傑(じょけつ)〉か。

まぁラパンから始めて、地道に実力をつけていくのは、良い選択だと思うぜ」


 否定的なことを言われると思っていた、スィンザの予想外れた。


 ルモーンの反応は、肯定的(こうていてき)なものだった。


「──ただし、恐らくこの街で女傑になることはできないと、おれは思う。

それは、スィンザがというわけじゃない。

現状のこの街から英雄や、女傑が生まれるとは思えないってことだ」


「それについては私も同感だ。

ラパンは、ここ〈ナーゼットファル王国〉の中では、最も〈黒い森〉の管理が行き届いた場所だ。

第四(フォース)等級(ランク)〉のバーモすら、ここ数年現れていない」


 ルモーンとバリゼは、バーモハンターになって五年目のベテランハンターであった。


「……〈黒い森〉。

巨大城壁の外側に果てしなく広がる『バーモの支配地域』のことですよね。

私、まだ城壁の外に出たことがなくて……

黒い森は、管理できるものなのですか?」


「ああ。やり方はいろいろあるが、現状はかなり上手くいってる。

その中でもおれたちが徹底しているのは、バーモの等級管理だ。

バーモに等級がついてるのは教わったか?」


「いえ。まだ教わっていません」


 ルモーンは食堂のテーブルの上に、簡単な魔法を使ってみせた。


 彼は、大きさの違う様々な生物の模型を作り出した。


「そうか。じゃ簡単に説明するぞ。

まず、バーモはその姿、能力、魔力の強さなどを基準に、実質的に六段階に等級分けされている。

そして数字が低いものが弱く、高いものが危険とされているんだ。

これは、今無理して覚えなくていい。

でもなんとなくでも理解できれば、ハンターとして長生きができる」


 ルモーンは、「七体」の模型を机の上に並べた。


「こんなに真面目なルモーンさん、初めてみるかも」


「テリル、うるせぇぞ。

……じゃ、まずは、〈第一(ファースト)等級(ランク)〉だ。

そのほとんどが虫か、爬虫類(はちゅうるい)的な見た目をしてる。

()まれたら痛いくらいの攻撃力しかなく、最も多く出現するバーモだ。

黒い森には必ず存在する。

こいつらは倒しても(きり)がねぇから、街の中に出た時以外、俺たちは相手にしない」


 ルモーンは、虫の形の模型を端に置いた。


「次に、〈第二(セカンド)等級(ランク)〉だ。

ここからが、俺たちの仕事になる。

大きさは、猫とか犬くらいだ。けっこう気持ち悪い見た目をしている。

攻撃性が高く、油断してると腕や、足を簡単に奪われる」


 模型は、蜘蛛(くも)のような見た目をしていた。


「で、これが〈第三(サード)等級(ランク)〉。

ラパンでは、主にこいつらを相手にしている。

大型の動物のような大きさで、中には、鳥や虫のように空を飛ぶ奴らもいる。

こいつらは非常に危険で、体当たりだけで人を轢き殺せる力がある。

そしてこいつらを徹底的(てっていてき)に狩ることで、これより上の等級の出現を抑制(よくせい)しているのが、この街、ラパンの現状だ」


 その模型は、(くま)のような形だった。


「ここから上は、超危険だ。

これが〈第四(フォース)等級(ランク)〉。

大きさは標準的(ひょうじゅんてき)な人間の三倍以上の大きさだ。

形はそのほとんどが、動物に近い見た目だが、中には巨人のような見た目のやつも確認されている。

その外皮は鉄よりも硬く、中途半端(ちゅうとはんぱ)な攻撃じゃダメージを与えることもできない。

人への敵対心もかなり強い。

こいつが現れた時は、チーム単位での対処が求められる。

それでもこいつ相手ならチーム全滅もあり得る……」


 ルモーンは、巨人の形をした模型を熊の模型の隣に置いた。


「ここから先のランクは、軍隊が出動するレベルだ。

第五(フィフス)等級(ランク)〉。

大きさは……わかりやすく言うと、その辺の三階建ての建物が二つ並んだくらいと言われている。

そんなデカい図体にも関わらず、高い知能を持ち、強力な魔弾砲(まだんほう)を放つやつもいる。

まさに災害そのものだ。

こいつが現れたら、正直この街はどうなるかわからない」


 ルモーンは、巨人よりも一回りくらい大きいドラゴンの模型を、スィンザの前に置いた。


「そして、こいつ以上の存在、それが〈第六(シックス)等級(ランク)〉だ。

こいつらは、別名を『金色(こんじき)』とか、『(おう)(しゅ)』とか呼ばれる、別格の存在だ。

過剰な魔力で守られた無敵の金色の外皮と、姿形を自在に変えられる特徴をもつ。

また自身の等級より下のバーモを支配し、意のままに動かすことができると言われている。

歴史上に現れた第六等級の中には、いくつもの国を滅ぼし、黒い森を拡大させた伝説の怪物もいる」


 ルモーンは金色の王冠(おうかん)の模型を、ドラゴンの模型の隣に置いた。


「〈英雄、女傑〉とは……

この第五等級、第六等級を相手に、勝利を得た者だけが名乗ることを許される『人の中から現れた怪物』へ与えられる肩書きだ。

この道は、険しいどころじゃない。

でも魔法と向き合い、その力を引き出すことが出来れば不可能はない。

目指す意思がなきゃ、到達できない場所だってある。

だからおれはお前を応援するぜ。

あとおれが今、喋った内容は、全部この本に書いてあるから、時間あるときにでも読みな」


 ルモーンは腰に下げた、見た目の数十倍の容量を持つ魔法のバックの中から、緑色の本を取り出してスィンザに手渡した。


「あ、あの、ありがとうございます。

ルモーンさんのお話を聞いて、自信が消えてしまいそうでしたけど……頑張ります!」


 スィンザは、本を抱いて頭を下げた。


「うんうん。スィンザは絶対に女傑になれるよ!」


「おれ、テリルがまともなこと言うの初めてみるかも~」


 ルモーンは、誇張したテリルのモノマネを披露した。


「ルモーンさん、ウザすぎ!」


 テリルとルモーンが口げんかをしている中、スィンザは、説明されずにテーブルの上に残った「七体目の模型」が気になった。

 七体目のそれは、銀色の女神の模型だった。



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