十八話 〈奇跡の子、落下のテリル〉
「――このでしゃばり共が!
……とお前たちの下で広範囲殲滅魔法を用意していたセブンアローズの奴がぶちギレしてたぞ」
スィンザたちがいる宿舎屋上にやって来たグラゼルターカは、まるで他人事のように笑っていた。
「ごめんなさい……私が飛び出したから……」
「いや、最初に飛び出したのは私だ。責任は全て私にある」
「「いやいやいや……」」
スィンザとバリゼは罪を庇い合った。
「ハハハッ。キレてたのはセブンアローズの奴だ。
ウチとしては上出来だったぜ。
バーモハントは結果が全てよ。
だが、唯一見逃せないのが、スィンザとテリルのランク範囲外戦闘行為だ。
これだけはご法度だ。
今回は街の緊急事態だったってのを加味して、お咎めなしだが、本来は……あー、何らかの罰則対象だぞ。
次から気を付けろよ」
「ごめんなさい。リーダー」
「……ごめんなさい」
スィンザとテリルは、初めてバーモを倒した高揚感も見せずに、素直に謝罪した。
その際のテリルの元気のなさに、その場に居た者たちは違和感を覚えた。
テリルは、、違反を咎められる前から、すでに元気がなかった。
「……まぁこの二人は、これから反省するだろう。
おれたちも反省会だ。
リーダーも付き合ってくれよ」
「バカ野郎が。
個人反省会なんて湿っぽいことお前らだけでやってろ。
俺はこれから、他のチームの連中と、〈ギルド〉のお偉いさんを交えた緊急会議じゃ」
ルモーンとグラゼルターカは、宿舎の屋上からさりげなく離れて行った。
その二人の後ろをバリゼがついて行き、スィンザとテリルに手を振って別れを告げた。
「行っちゃった……」
「うん。行っちゃったね」
宿舎の屋上にはスィンザとテリルだけが残された。
「……やっぱり、テリルはダゼル様のお孫さんだったんだね」
スィンザは、そう話を切り出した。
「そっか。スィンザはおじいちゃんの大ファンだもんね。
おじいちゃんの戦い方を真似してるのを見たら、バレちゃうよね。
……うん。そう。わたしの本名は、テリル・キットラン。
わたしがおじいちゃんの孫だって明かせなかったのは、わたしがあまりにも不甲斐なさ過ぎて、スィンザには……違う。
誰に対しても言うことができなかったんだ。
だからずっと隠す気でいたよ」
「……そっか。実はね、今日テリルからこの街に来た理由を聞いた時、なんとなく……
テリルは、ダゼル様のお孫さんなんじゃないかなって思ったよ。
ダゼル様には、私と同じ歳の女の子のお孫さんがいるって知ってたから。
……その子の異名が〈奇跡の子、落下のテリル〉。
第三翼じゃ知らない人の方が珍しいくらいの有名人。
だからテリルは、出身地を偽ってたんでしょう?」
スィンザは屋上のベンチを指差して、座って話をしようと促した。
「そうだよ。テリルなんて、平凡な名前、隠さなくてもいいと思ってた。
でも正直、第三翼出身の人が何人もこの街にいるなんて思わなかったよ。
わたしも人のこと言えないくらい世間知らずだね」
テリルは落ち込むように俯いたあと、ベンチに向かった。
「……わたしは四歳の時に、山よりも巨大な大樹、〈天繋樹〉の頂上から運悪く落下したけど、なぜか無事に着陸できた奇跡の子供。
わたしの親は、第三翼空軍の将軍の父と、長距離狙撃手として名を馳せた空戦銃士の母。
そして、祖父は第三翼王国で、史上ただ一人しかいない小禽族の英雄」
テリルは上を向き続けて疲れた子供のように、自分の足元をみつめた。
「……わたしには、重すぎるよ。
わたし自身は何もすごくないからこそ、自分の全てを捨ててしまいたくなるほどに。
自分が起こしたはずの奇跡だって、ほとんど何にも覚えてないのに」
テリルは、スィンザの横に座り、おもむろに空を眺めた。
そこには、先ほどまでの喧騒が嘘だったかのような穏やかな青空が広がっていた。
「そんなことないのに……。
そうだ。ミモレスさんがね、私とこの街で出会ったのは、運命的だったって言ってくれたんだ。
その言葉を今思い出して、私は思ったんだ。
私がテリルと出会えたことも、運命だったんじゃないかって。
テリルにとっては、そうじゃないかもしれないけど、私にとっては人生を左右するほど大事な運命だったと思ってるの」
「運命……」
テリルは全てを捨ててこの街に来たはずなのに、心が満たされていることに気がついた。
もう一生飛べないと思っていた空に戻れたことを、今さら実感した。
いつの間にか、英雄を目指すスィンザと共に強くなりたいと、心から願っていたことに気がついた。
テリルは、いつの間にか自分が夢を抱いていたことに、この時ようやく気がついた。
「……私は、ダゼル様と同じ白い翼を得られなかった。
だけど、私の心が本当に折れそうになった時、いつも助けに来てくれるのは『白い翼』を持っている人たちだったって気がついたの。
最初はダゼル様が、私とお父さんを、バーモから救ってくれた。
その次は、私がこの街でもやっていけないんだって、弱気になった時、テリルがずっと側にいてくれた。
いつも私のことを励ましてくれた。
この前もテリルは、私が人生を諦めかけた時に、助けに来てくれた。
そして、今日もテリルは、私のことを助けに飛んできてくれた。
テリルとダゼル様がいなかったら、私は今ここにはいないんじゃないかな。
これって運命だよね。
少なくとも私が今生きてるのは、テリルのおかげなのは間違いないんだ」
「そんな……言い過ぎじゃない?
スィンザを直接助けたのはわたしじゃないし。
それに、わたしだって、スィンザに何度も助けてもらってたもん
……スィンザがいてくれたから、わたしは今……」
(……自分のことをもう一度信じてみようと思った。
わたしも強くなりたいと思った)
テリルは、自分がスィンザの力になれているとは思っていなかった。
いつも背中を追いかけていたのは、自分の方だと思っていた。
「私は今?」
「わたしは今……スィンザが好き!」
スィンザは、テリルの言葉にいつもと変わらない笑顔を浮かべた。
「私も好き。テリルが大好き」
二人はいつものように、じゃれ合った。
もうずいぶん前から、二人はお互いを支え合っていたのだと実感し合った。




