十四話 大切な友達
グラゼルターカから、話を聞き終えたスィンザとテリルは、トライホーンの宿舎内のテリルの個室に移動した。
「リーダーから聞いた話しをまとめます!」
「はい!」
テリルが、進行役を務めるようである。
「まず、一つ目。約三ヶ月前から、人さらいの噂が立ち始め、街の無法者や、浮浪者がいなくなり相対的に街の治安が良くなったこと」
テリルは人差し指を立てた。
「二つ目。ちょうどその頃から、セブンアローズのリーダー、ハルビリッツ氏が定期的に行っていた『魔法教室』をやめてしまったこと」
次に中指を立てた。
「そして、三つ目。一つ目と二つ目の同時期から、セブンアローズは七人全員でバーモハントに行かなくなり、リーダーのハルビリッツ氏と、作戦参謀のラグマヘス氏に至っては、その姿さえ見なくなったこと。
以上の三点が今回教えてもらえた内容です!」
テリルは最後に薬指を立てて、その三本指を数回曲げ伸ばした。
「……私たちが二ヵ月前にこの街に来た時には、もうラパンの異変は始まっていたんだ」
スィンザは、テリルの言葉をメモに書き、簡易的な報告書を作っていた。
「リーダー的には、セブンアローズが怪しいとは思ってないみたいだね。
魔法教室がなくなったのも、バーモハントに出ていないのも、もしかしたらアザーさんたちみたいに、異変を調査しているからなのかもって、わたしは思っちゃったなぁ。
話を聞く限りでは、優しくて知的な人たちみたいだし」
「そうだね。
私たちは一度も会ったことなかったから、わからなかったけど、セブンアローズは街の人たちから、とっても慕われているみたいだね。
ルモーンさんが『先生』って呼んでいたのは、ハルビリッツさんのことだったんだ」
テリルとスィンザは、セブンアローズの印象が思っていた姿と大きく違っていると感じた。
グラゼルターカの話の中に出てくるセブンアローズは、人をさらってバーモに捕食させている非道な集団のイメージとはかけ離れていた。
「他の人たちにも、聞いてみる?」
「いいかも! ルモーンさんたちには、今度また聞きにきたらいいもんね」
スィンザの提案を受け入れたテリルは、座っていた椅子から立ち上がった。
その僅かな振動で、部屋の棚に飾られていた置物のようなものが静かに倒れた。
「あ、何か倒れたよ」
ちょうどスィンザの手の届く範囲だったので、それを起こした。
(あれ? これって……)
「ありがとー。それ、いつも倒れちゃうんだよねー」
その置物は、金色の小さな表彰盾であり、背面のスタンドにヒビが入っていた。
「……ねぇ、テリル。テリルって〈第一翼帝国〉の出身だったよね?」
「うーん。そうだよね。
それみたらさすがにバレちゃうよね……。嘘ついてごめんね」
その表彰盾には、スィンザの故郷でもある〈鳥天繋第三翼王国〉の紋章が使われていた。
「実はわたしも、スィンザと同じ第三翼の出身なんだ。
でも第三翼で生まれ育ったことを知られたくなくて、とっさに嘘ついちゃったんだ……。ごめんね」
「謝らなくていいけど、ごまかしたりしないんだ?」
スィンザは、表彰盾を飾り直しながらそう言った。
「いつかちゃんと話したかったの。
でもスィンザといる毎日が楽しくて、それが壊れたらどうしようって怖くなって、今まで言えなかったんだ……」
「そっか。
……私たち同じ日に、それぞれ違う飛行輸送船に乗ってこの街に来て、同じ日にトライホーンに入って、それからほとんど毎日、一緒に訓練とか、お仕事して……。
私もね、テリルがいてくれて本当に嬉しかった。
私が狩りの道具を運ぶ場所を間違えて怒られた時も、飛べない鳥人だってことがわかって、チームの人に避けられていた時も、テリルは友達で居続けてくれたよね。
人さらいに遭った時も、テリルが探してくれなかったら、私はフォースランクに食べられて死んでたんだよ。
テリルが一緒にいてくれなかったら、私は今ここにいなかったんだよ。
だからいつもありがとう、テリル。
私ね、テリルのことが大好きなんだよ」
スィンザは、テリルとの友情がこんな事で壊れるはずがないと言いたかったのだ。
「……スィンザぁぁぁ。わたしも大好きだよ~!」
感極まったテリルは、スィンザに抱き着いた。
「私も大好き」
スィンザは、テリルと抱き合いながら、彼女の正体について予想がついた。
その予想が正しければ、テリルが出身を偽る気持ちも十分に理解できた。
しかし、大きな疑問が一つだけ残った。
「ねぇテリル。テリルはどうしてこの街に来たの?
あ、言いたくなかったら言わなくていいからね。
私は、どんな秘密があっても、テリルの友達だからね」
「……スィンザになら、言ってもいいよ。でも他の誰にも言わないでね」
「わかった。つらかったり、言いたくなかったりしたら無理しなくていいよ」
二人は抱き合ったままベッドに腰を下ろした。
テリルは、スィンザに抱き着いたまま語り始めた。
「わたしはね、逃げて来たの。
家族からも、あの空からも。
わたしのお父さんはね、軍人で、小禽族みたいなわたしとは違って、大禽族の体の大きな人で、とても厳しくて怖い人なんだ。
そもそもわたしの家族は、おじいちゃんとわたし以外、全員大禽族で、わたし以外みんなすごい人たちなの。
お母さんも、二人いるお兄ちゃんたちもね。
そんな家族の中にいるのが、耐えられなくなって、家出するように逃げて来たの。
だから、誰もわたしを知らない場所なら、正直どこでもよかったんだ……」
「そうだったんだ。でも、テリルだって、すごく優秀な人だよ」
スィンザは、思わずテリルを抱きしめ直した。
「ありがとう。スィンザになら、素直にありがとうって言えるんだよね……」
テリルは、抱きしめ直してくれたスィンザに体を寄せた。
「……わたしね。第三翼の軍学校に通ってたんだ。
たったの四ヶ月だけなんだけど。
将来は、家族たちと同じように軍人になりたかった。
でもそこでわたしは……飛行訓練中に上級生たちから嫌がらせを受けて、地面に墜落したんだ」
「そんな……なんて恐ろしいことを……」
鳥人の墜落は命に関わる大事故である。
それを意図的に行うのは、もはやただの殺人行為であった。
「わたしは、地面に体をうち付けて、足とか、肩の骨とかを骨折する怪我をして、空を飛ぶのが怖くなった。
自分で制御できずに、地面に向かって行くあの恐怖が忘れられなくて、空に飛び上がれなくなった。
それと、なんで嫌がらせを受けたのかがわからなかったのも、メチャクチャ怖くて、それで軍学校を辞めたんだ」
テリルは、その時の恐怖を思い出しているのか、手が震えていた。
「軍人になる道を自分で断ってしまったわたしに、もう居場所はなかったんだ。
家には居づらいし、普通に学校に行っている友達には、会いに行ける勇気も、心の余裕もなかった。
他に頼れる人もいなくて……
だからわたしは、誰もわたしのことを知らないこの街に、逃げて来たんだ」
「そうなんだね……
ごめんね、私、上手く言えないんだけどね……。
この街に逃げて来てくれてありがとう。
何言ってんのって思うかもしれないけど、私は、テリルとこの街で友達になれて、本当に嬉しかったよ。
今、テリルのおかげで、私は幸せだよ。
だから……生きていてくれて本当にありがとう」
スィンザは、右手をテリルの体に巻き付けたまま、左手でテリルの震える手を握った。
「スィンザ、なんか今日は変だよ……」
「そう?」
「そうだよ。わたしが嬉しくなることばっかり言うんだもん。変だよ」
「……大好きだよ、テリル。私の大事な、大事な友達」
スィンザは、テリルの頭に頬を乗せた。
「……重いっ!」
「頭が? それとも感情が?」
「どっちも重いのっ!」
テリルは、そう言いながらもスィンザの側を離れようとはしなかった。




