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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
三章 白い翼のテリル
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十三話 トライホーンチームリーダー〈兜角のグラゼルターカ〉

 誰よりも、空を愛している男がいた。

 彼の息子は、誰よりもその男のことを恨んでいた。

 やがて彼の息子は、愛する女性と結ばれて、娘を授かった。

 その娘は、誰よりも空に愛されていたが、誰よりも空を恐れていた。



 その日の朝食を食べ終わったあと、アザーはスィンザたちに初仕事を任せた。


「何かあったら、この魔導器ですぐにここに飛んでね」


「はい。わかりました」


 スィンザは、ミモレスから手渡された指輪型の魔導器を指にはめた。


「わたしたちは、トライホーンの人たちから、セブンアローズのことをできるだけ聞いて来たらいいんですよね?」


 テリルは、アザーから頼まれたことを確認した。


「そうだ。俺の仲間が調べた所、表向きのセブンアローズに怪しい点はなかったようだ。

俺からするとむしろそれが怪しく思えてならない。

お前たちには、些細な情報でも構わないから、現在のセブンアローズと、過去のセブンアローズの違いみたいなものをできるだけ聞き出して欲しい。

長い間、トライホーンとセブンアローズは、このラパンで力を示し続けてきたチーム同士だ。

なにかしらの接点はあるはずだ」


 アザーは、セブンアローズへの疑惑を深めていた。


「確か、ルモーンさんってセブンアローズの人から、魔法を教わったって言ってたよね?」


「言ってたね! セブンアローズには先生みたいな人たちがいるって」


 スィンザとテリルは、ルモーンの話を思い出した。


「じゃあ、ルモーンさんに話を聞きに行こう!」


「オッケー! では、行ってきます」


 スィンザとテリルは、話を聞く人物をあっという間に定めた。


「気を付けてね。何かあったらすぐに逃げてね」


 認識阻害魔法用の青いサングラスをかけたミモレスは、不安げな表情で立体パズルを組み立てていた。


「今のスィンザとテリルなら、敵に捕まるようなことはないだろうが、用心して行ってくれ。

それとお前たちの護衛のために、うちの偽装店員になってもらったのに、こんな事を頼んですまない」


 アザーは、スィンザとテリルに頭を下げた。


「や、やめてください。師匠! 

私たちは、やっと私たちにできることが見つかって喜んでたんですよ!」


「そうですよ~アザーさん。

ちゃんと対応策も用意してもらったし、この任務はわたしたちが適任だし、いい情報ちゃんととってきますから!」


 スィンザとテリルの反応に、アザーは肩の力を抜くように微笑んだ。


「じゃあ、頼んだぞ。ちゃんと戻って来てくれよ。

まだやってもらいたいことがたくさんあるんだ」


「はい。わかりました!」


「デワ、イッテキマス!」


 スィンザとテリルは、トライホーンの宿舎へ向かった。


 ♢♢♢


「おっ! スィンザとテリルじゃねぇか。今日はどうしたんだ?」


 トライホーンの宿舎で最初に会ったのは、チームのリーダーを務めているグラゼルターカであった。


 もうすぐ初老とは思えないほど若々しい見た目をした人物である。

 

 彼は、鹿の獣人であり、頭部に小さな角が二本生えている。


 ソウル・ゲートを開くと、角は大きくなる。


「こんにちは! 今日は情報収しゅ――」


「わぁわぁわぁ! 

今日は、スィンザがラゼラスさんにこの前の件で直接お話したいから、お時間貰ってきました!」


 素直にありのままを話そうとするスィンザを、テリルがすかさずフォローした。


 良く知った相手とはいえ、セブンアローズについて嗅ぎ回りに来たことを、さとられてはならないのである。


「お、おう。そ、そうか? 

あいつなら今日は〈回復痛〉で寝込んでるぞ。

昨日、闘技修練場で、ルモーンたちと派手にやり合ってな。

重傷は、狩りに支障が出るからやめろと再三言ってたと思うんだが、あいつらバカだからやっちまうんだよなぁ」


「そ、それ大丈夫なんですか?」


 スィンザの顔は青ざめていた。


「大丈夫、大丈夫。重めの筋肉痛みたいなもんだから。

三日も寝ていれば、良くなるよ。

うちの闘技修練場の回復魔法陣は、安物だからな。

軽いやつなら何ともないんだが、重傷だと急速回復に体が追いつかねぇのよ。

それで発生するのが、通称回復痛。

回復痛は、回復魔法でも治らねぇから、自然回復を待つしかねぇんだ」


 グラゼルターカは、軽い口調でそう説明した。


「じゃ、じゃあ、ルモーンさんたちも回復痛で……」


 テリルは、ハッとしたような表情でグラゼルターカを見た。


「そうだな。ルモーンと、バリゼ、あとその他数名は、ラゼラスにボコボコにされて寝込んでるぞ。

今日は、仕事があんまりなかったから良かったけどなぁ」


 グラゼルターカは、自分のチームのことなのに他人事のように笑っていた。


「あっ! そうだ。スィンザ。お前手を見せてくれよ」


 グラゼルターカは、何かを思い出したかのように、スィンザに向かって両手を広げた。


「手ですか? はい……」


 スィンザは素直に両手を広げて見せた。


「なるほどな。ルモーンがラゼラスに攻撃魔法を撃ちながら言ってたぞ。

『お前、スィンザの手を見たことあるのか? あいつ、可愛い顔してるけど、炭鉱夫みたいな手をしてるんだぞ』ってな。

炭鉱夫は言い過ぎだが、その細い腕で、毎日金属の塊を振っていたらそんな手になるよなぁ。

確かにお前の手は、剣士の手だ」


 スィンザの掌は、マメが何度も潰れ、タコだらけになった硬い掌だった。


「ルモーンさんが……でも何でそんなことを?」


「そりゃ、お前たちが帰って来なかったこときっかけに始まったケンカだからな。

まぁ元々ラゼラスとルモーンは顔を合わせればケンカするような間柄ではあるが……

あいつらは、次世代のトライホーンを背負う男たちだ。

それぞれのやり方で、仲間であるお前たちを守りたかったんだろうよ。

今回は、上手くいかなかったみたいだけどな。アハハハッ」


 グラゼルターカは、チームの仲間たちを信頼しているからこそ、失敗を成長の証だと考えて笑っていたのだ。


「私のせいで……」


 一方、スィンザは、自分が逃げ出してしまったことを深く反省した。


「ん? 気にすんなよ、スィンザ。

お前はこうして、ちゃんと戻ってきた。

中には、逃げ出したまま帰ってこない奴もたくさんいるんだ。

それに、昨日ミモレスさんと話をして、大体の事情は把握した。

お前たちが帰って来なかった理由を知っている俺からしたら、あいつらがやってることが面白過ぎて、笑いが止まらねぇよ」


 グラゼルターカは、そう言って大笑いしていた。


「あ、弁償の件ですよね」


「いや。お前らが人さらいに狙われている件だ。

実は俺もな、両腕に軽い回復痛を感じてるんだよ。

昨日、ミモレスさんに魔法で両腕をへし折られちまってな」


 スィンザの言葉に、グラゼルターカは、衝撃的な返答をした。


「お前もテリルも、俺たちの仲間だ。

だから俺たちが守るって言ったら、あの人が手を二回叩いただけで両腕を折られちまった。

さらに魔法で折れるのは、腕だけじゃねぇっていう脅し文句つきでな。

同席していた親父たちもビビッてたぜ。

俺は白銀のハンターだが、あんな恐ろしい人は久しぶりに見た」


「わ、わたしがルモーンさんたちと喋っている間にそんなことが⁉」


 昨日ミモレスと共にトライホーンに訪れていたテリルも知らない話だった。


「ミモレスさんの実力について理解したし、お前たちを得体のしれない人さらいから、匿ってくれる理由もわかりやすく説明してくれたよ。

だが、全部を信じたわけじゃねぇ。

あの人たちに違和感を覚えたら、すぐに戻ってこいよ。

仲間のためなら、両腕をへし折られようが、負けが確定していようが、口に剣をくわえてでも戦うぜ」


 どれだけ言動が軽くても、グラゼルターカはラパンの街のナンバーワンチームのリーダーなのである。


「わかりました。この件が解決したら、必ずトライホーンに戻ります!」


 スィンザは、強くなってトライホーンに戻る決意を固めた。


「おう。待ってるぜ」


「……あ、リーダーが事情を知ってるなら、リーダーに教えてもらおうよ!」


「なんだ。やっぱり何かを聞きに来たのか!」


 グラゼルターカは、二人がやって来た事情をなんとなく察していた。


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