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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
二章 ヤモリ印の魔法道具屋
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十二話 落ちこぼれの魔人と錬金魔導士の真実


「落ちこぼれの……魔人?」


 スィンザの目の前にいるアザーは、明らかにただの人間だった。


「そうか。そうだな。

ミモレス。認識阻害(にんしきそがい)を解いてくれ」


 アザーは、少し離れた場所にいたミモレスに声をかけた。


「なんだ……アザーも……。

わかった。二人共、びっくりしないでね」


 アザーの指示を受け入れたミモレスは、青いサングラスを外した。


「これが、俺の〈妖精〉だ」


 認識阻害魔法が解除され、アザーの妖精が姿を現した。


 そこに現れたのは、人の影がそのまま起き上がったかのような真っ黒な姿をした、不気味で巨大な妖精であった。


 それは一見するとバーモのようにも見えた。


「そんなに大きな妖精、初めて見ました。

確か妖精の大きさは、体内に保有する魔力の多さを示すものだと聞いたことがあります。

それが本当なら、アザーさんの魔力は……。

でも、なんでそんなに強力な妖精を持つアザーさんが、落ちこぼれなんですか?」


「――アザーは、魔法が一切使えない魔人なんだ。

それに通常の魔法道具さえも使うことができない。

さらに子供の頃は、魔力を体の外に出すこともできなかった」


 スィンザの疑問に答えたのは、いつの間にか二人の側に近づいて来ていた、容姿が大きく変化したミモレスだった。


 ミモレスのぼさぼさの髪は、美しい青色の絹糸を思わせるような、ロングストレートヘアーに変貌していた。


 そして一番大きな変化は、空中に浮んでいた紐状の妖精が消失し、臀部から青い色の爬虫類の尾が伸びていたことである。


「ミモレスさん、爬人だったの⁉」


 ミモレスの隣を歩いていたテリルが一番驚いていた。


「そうだよ。青色のヤモリの爬人なんだ。

ソウル・ゲートを開くと壁に張り付いたりできるよ」


 ミモレスは、両手で壁を触るふりをしながら、テリルに微笑んだ。


 その笑顔は、同姓のテリルが思わずときめいてしまうほど美しく、絶世の美女と言っても過言ではなかった。


「――似ているだろう? 

俺とお前は。

俺も長い間、自分のソウル・ゲートを憎み、自分の運命を呪った」


 アザーは、スィンザにそう語りかけた。


「……さっき私に言ってくれた言葉は、アザーさんが通って来た道のことでもあったんですか?」


「それに関しては、そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるな。

俺は、お前ほど心が強くなかった。

俺が変われたのは、仲間たちと共に果てしない旅に出てからだ。

その旅でいろいろな出会いと別れをたくさん経験して、ようやく強くなれた。

お前は、俺が想像するに夢のあり方を歪められても、それを決して手放さなかった。

その心の強さは、尊敬に値するよ」


 柔らかく笑うアザーの言葉に嘘はなかった。


「ありがとうございます。

でも私、全然心強くないですよ。全然……

でも、アザーさんにそう言ってもらったら、なんだか、上手く言えないけど、感情がぐちゃぐちゃになっちゃいました……」


 スィンザは、嬉しさ多めな複雑な気持をそのまま口にして、顔を伏せた。


「そうか。なぁ、スィンザ。俺の〈魔刃武装〉を会得してみないか? 

俺の技が、お前の力になるのを見るのは、なんだか愉快な気がするんだ」


「教えて頂けるんですか⁉」


 アザーの意外な言葉に、スィンザは驚くように顔を上げた。


「ああ。俺の技も積み上げろ。そして、もっと強くなれ!」


「は……はい! 師匠! アザーさんのこと師匠と呼ばせて下さい!」


 アザーは、スィンザの申し出に複雑そうな表情を見せた。


「そんなに難しい技じゃないんだぞ? 大袈裟じゃないか?」


「いえ! そんなことはありません! 

というか、すでにめちゃめちゃ有難い指導をして頂いています。

師匠!」


「良かったね、アザー、スィンザ。ボクも嬉しいよ」


「そうそうホントに良かったね! スィンザ!」


 ミモレスとテリルは、嬉しそうにそう言った。


「はい! 嬉しい……です……。

ミモレスさん、別人みたい」


 スィンザは、ミモレスの劇的変化に改めて驚いた。


「そうだよね。

アザーは魔法が使えないから、ボクの認識阻害魔法と連鎖発動させているんだよ。

アザーの認識阻害を解除するためには、ボクも解除しなければならないんだ」


「で、でも爬人って、魔法が苦手な種族って聞いたことあるんですけど、ミモレスさんて、すごい魔導士ですよね⁉」


 スィンザは、ミモレスの外見の変化にも驚いたが、それ以上に爬人であることに驚きを隠せなかった。


 爬人は、ラゼラスのような物理戦闘に特化した者たちと、魂に宿った力(毒の牙や、鋭い爪など)を駆使して戦う者たちがほとんどである。


 種族によって、魔法の適正が存在し、爬人は魔法との相性が悪い種族なのである。


「そうだよ。ボクは魔導士としては天才だけど、ちょっと変なんだ。

元々住んでいた所にも、ボクと同じような爬人はいなかったし、爬人がたくさん住んでいる国に行っても、やっぱり同類は見つからなかった。

歴史的にもあまり例がなかったみたいで、魔人の魔法学者たちから、ボクの魔法はインチキだと思われていた時期もあったよ」


 ミモレスはそう話ながら、いつの間にか、手元で魔導器と思われる物を魔法で組み立てていた。


「……今までもそうやって、魔導器を作っていたんですか⁉」


 スィンザとテリルは、その行為に驚愕した。


 どうやら、今まで立体パズルを組み立てていたように見えていた行為は、認識阻害魔法によってカモフラージュされた魔導器作りだったようだ。


 本来、魔導器も、その下位互換である魔法道具も、こんなに簡単に作ることはできない代物である。


「そうだよ。緊張するときはこうして気を紛らせながら、依頼された魔法道具や、魔導器を作っていたんだ。

だけどこれをやっていると、逆に人が集まって来てしまって、もっと緊張するから、いつもは認識阻害魔法で隠しているんだ。

でも不思議だよね。これが立体パズルに変わるだけで、みんなボクを避けるようになったから、我ながら天才的発想だったと自負してるよ」


 スィンザとテリルは、ミモレスのことをマイペースで人目など気にしない人間だと誤解していたことに気がついた。


「ミモレスさんって、意外と繊細な人なんですか?」


「そうだよ。大切にしてね」


 スィンザの言葉に、ミモレスは冗談なのか、本音なのかわからない返しをした。


「ミモレスの正体を知ったからには、明日からヤモリ印の魔法道具屋のサポートも頼むぞ」


 アザーは、そう言って笑っていた。



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