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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
二章 ヤモリ印の魔法道具屋
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十一話 止むことのない追い風


(そうだ。アザーさんはソウル・ゲートを開いていない。

それなのに、あんなに強いんだ)


 スィンザは、アザーが放つ闘気に息をのんで、ソウル・ゲートを開いた。


「ソウル・ゲート! バード・オブ・スカイ!」


 スィンザの風切り羽のない翼が大きく広がり、瞳に灰色の輝きが宿った。


「そうだ。それでいい! お前の全力を見せてみろ!」


「はい!」


 スィンザは返事と共に、フレイムボールから巨大な火柱を作り出して、それを吸収した。


(あの木剣……可視化できるほどのすごい密度の魔力を纏っている。

接近戦は悪手)


「鳥人剣、風穿ち!」


 スィンザは、風の砲弾を放った。


 スィンザは、アザーが鋼鉄の外皮を持つと言われているフォースランクを一刀両断したのを思い出して、遠距離攻撃で様子をみることにしたのだ。


「鳥人剣術使いか。懐かしいな」


 アザーは風の砲弾に向かって走り出し、それを木刀で容易(たやす)く斬り裂いて見せた。


 風穿ちを斬り裂いた木刀からは、魔力の斬撃が放たれていた。


 スィンザは、アザーが放った斬撃を風そのものになったかのような軽やかさで(かわ)した。


「――アザーさんて、なんでソウル・ゲートを開いていないんですか? 

職人系の職業の人が魂の影響を受けないように、あえて完全に閉じてしまうのは聞いたことありますけど、元バーモハンターなんですよね? 

ただ不利なだけにしか思えないんですが……」


 テリルは、強力な力を得られるソウル・ゲートを、あえて開かずに戦う狩人がいるという事実が信じられなかった。


「ああ。アザーは、魔人だよ。

彼の妖精は目立つから、〈認識(にんしき)阻害(そがい)魔法〉で隠しているんだ。

でも、確かに今は、ソウル・ゲートを開いていない。

開いたところで、『魔人としては戦えないこと』が、彼の不幸であり、その強さの秘密なんだ」


「な、謎が深すぎる」


 テリルは、ミモレスの言葉の意味をこれから知ることとなった。


「――どうした、スィンザ! 

そんな魔力消耗の激しい遠距離攻撃ばかりじゃ、飛び回って逃げることもできなくなるぞ!」


 アザーは並みはずれた身体能力で、風を纏って飛び回るスィンザに迫った。


「それならぁっ!」


 スィンザは、今まで避けていた接近戦をあえて仕掛けた。


「鳥人剣、逆風刃」


 スィンザがアザーに向かって放った横薙ぎの斬撃は空振りしたが、その斬撃の軌道に逆らうように風の刃が発生した。


「おお! 初めて見る技だ。オリジナルか!」


 アザーは襲い来る風の刃を、魔力を纏わせた左手の手刀で破壊した。


 スィンザは止まることなくアザーの横を駆け抜けて、再び距離を取った。


「二連、回転風刃!」


 スィンザは、横回転する風の刃を二つ放った。


 その風刃は左右から弧を描くような軌道で、アザーを挟み撃ちにした。


「読みやすい軌道だな」


 アザーは、しゃがみ込んで回転風刃の挟撃(きょうげき)を回避した。


「その体勢では、これは避けられませんよね⁉」


 スィンザは、しゃがみ込んだアザーに向かって最大出力の風穿ちを放った。


「発想はいい。だが、せめてこれも回転風刃にしておくべきだったな」


 アザーはしゃがんだまま、木刀をかざして風穿ちを両断した。


「本当に優れた刃なら、向かって来る相手の力だけで、全てを斬れる」


「魔力の刃……」


(魔法じゃない。

武器や体に纏わせた魔力の力だけで、圧倒されている。

それにアザーさんが使っているは、明らかにただの木剣。

これが実力の差……)


 スィンザは、打つ手を失っていた。


「どうした? これで終わりか?」


「はい。正直もう打つ手がありません」


 スィンザは、すでに自身の魔力がもう尽きかけていることも自覚していた。


「……お前は、あの時もそうだったな」


 歩いて距離を詰めたアザーは、木刀に纏わせた魔力を解除した。


「あの時?」


 アザーは木刀で、スィンザの手を軽く打ってブリーズソードを叩き落とした。


「うっ!」


 不意に手を打たれた痛みで、スィンザは顔を歪めた。


「フォースランクに捕まっていた時だ。

お前はあの時、両手を拘束されてもいなかったし、両手の骨を折られているわけでもなかった」


 アザーはその冷酷な瞳でスィンザを見下ろし、その喉元に木刀を突き付けた。


「なぜ諦めた? 

なぜ持てる術を出し尽くそうとしなかった? 

だから俺は、お前に聞いたんだ。

『死にたかったのか?』と」


「そ、それは……諦めが悪いのは、みっともないって言われ続けていたから……」


 それは、スィンザにとっては負の呪縛のようなものだった。


「英雄に憧れているんだろう?」


「はい……強ければ、みっともないなんて言われないから……」


 夢を諦めないことだけが、スィンザにできた周囲への反発だった。


「俺が今まで出会って来た英雄や女傑たちは、戦うこと以外に能のないろくでなしばっかりだった。

ある者は、平気で人の家をぶっ壊し、またある者はためらいなく高ランクのバーモを粉砕して、遺骸を売って生活するハンターたちの顰蹙(ひんしゅく)を買った。

そんなバカな奴らだが……自分のためだけに戦う奴は一人もいなかった。

怪物と呼ばれて蔑まれても、街の中で恐れられ孤立していても、人々を守るために、自分が勝てるかどうかもわからないバーモに戦いを挑んだんだ。

そして、最後の一人になっても、勝利を得るまで戦い続けた!」


「…………」

 アザーの熱の籠った言葉に、スィンザは言葉を失った。


「お前、本当に他人を見返すために英雄になろうとしたのか? 

お前が英雄に憧れた理由は、もっと別の所にあるんじゃないのか? 

他人を見返すだけなら、風の力を引き出したお前は、もう十分に強い。

自分でもわかったはずだ。

それでもお前は、自分のためだけの戦いをこれからも続けて、自分の理想とは違う勝利を全て捨てるのか?」


 アザーの言葉を聞いて、スィンザは心に刻み込まれたダゼルの白い翼を再び思い出した。


(人々のために戦う英雄……)


「私は……ダゼル様みたいな英雄になりたかったんです。

でも、毎日神様にお願いしてまで欲した、あの白い翼は得られなかった。

それどころか私の翼は空を飛べない、灰色の惨めな翼だった」


 つらい過去を思い出し、胸が苦しくなった。


「……ダゼル様に憧れて、必死に練習していた魔弾銃は

……ソウル・ゲートを開いてから使えなくなった。

私の未来を暗示するみたいに、壊れて動かなくなった……。

それでも私だって……私だって! 

バーモに苦しめられている人たちを助けて、『平和を必ず、取り戻す』って言えるような、そんな英雄になりたかった!」


 その言葉は、スィンザが心の奥底に隠し続けていた本音だった。


 いつからか、他人に弱音を吐くこともできなくなっていたスィンザにとって、最後の砦のような願いだった。


「そうだ。それが聞きたかった。

今を見るんだ、スィンザ! 

お前が積み上げてきたものはみっともないのか⁉ 

お前が今持っている力では、今まで受けた屈辱を乗り越えることはできないのか⁉ 

もう、叶うことのない理想は捨てろ! 

お前が今まで必死に積み上げてきたものだけが、お前を英雄へと押し上げる唯一の追い風だと認めてみせろ!」


 アザーは、スィンザの魂に直接訴えかけるように言葉を放った。


「……私は、英雄になれますか?」


 スィンザは、首に突き付けられた木刀を無視して、叩き落とされたブリーズソードを拾い上げた。


「何度でも言おう。全てはお前次第だ」


 アザーは、「お前には無理だ」とは言わなかった。


「もう一度、稽古の続きをお願いします!」


 スィンザはいつの間にか頬を伝い流れていた涙を拭い、再び剣を構えた。


「……俺のような『落ちこぼれの魔人』でも、強くなれたんだ。

お前もきっと今以上に強くなれる。

お前はこれから、お前が得た力で強くなって行くんだ」



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