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灰の翼のスィンザ  作者: 見雨 冬一
一章 灰の翼のスィンザ
1/72

一話 英雄に憧れた少女と境界の街



「現在、第四種商業区画に〈バーモ〉が複数侵入……」


 その日、街に不安をあおる警報音と緊急放送が響き渡った。


「第四種商業区画は、ただいまより対バーモ戦闘区域に指定され、区画隔離が始まります。

速やかに、最寄りの区画へ退避して下さい。

繰り返します……」


 街が〈バーモ〉に破壊されていく音。


「ちくしょう! あいつら貨物(かもつ)(せん)に紛れ込んで来やがった!」


 人々の悲鳴や怒号。


「どうするんだ⁉ この区画に〈バーモハンター〉はいないぞ!」


「いいから早く逃げろ! 立ち止まるな!」


 その混乱の中で、幼い彼女はただ泣き叫ぶことしかできなかった。


「おとうさん! おとうさん!」


「スィンザ! 早く逃げろ! 逃げろ!」


 彼女の父親は、〈バーモ〉が破壊した家屋の一部に両足を挟まれていた。

 

 もはや逃げることも、娘を逃がすために戦うこともできなかった。


「やだ! やだよ!」


 スィンザは動けない父を見捨てて、逃げることができなかった。

 

 ここで逃げたら、大好きな父にもう二度と会えなくなることを理解していたのだ。


「ぐうぃでぃ、らああ」


 そんな二人の前に、その怪物は姿を見せた。


「きゃあああああぁ!」


 スィンザはその怪物の恐ろしい姿を見て、叫びながら父の腕に縋り付いた。


 それは獣のようで異なるモノ。

 暗闇が動き出したかのような黒い体色。

 人を丸飲みにしてしまいそうな大きな口と、頭。

 人々はその怪物を〈魔物(バーモ)〉と呼んだ。


「まばらら」


 バーモは奇妙な鳴き声を放ち、親子にゆっくりと近づいた。


「クソッ! うおおおぉ!」


 父親は瓦礫(がれき)に挟まった両足を引き千切ろうと、石畳にしがみついて踏ん張った。


 自分の体を怪物に差し出し、その間に娘を逃がそうとしたのだ。


「あ、ああぁ。たすけて……。だれか、たすけてー!」


 スィンザは泣きながら空に向かって助けを呼んだ。


 涙で(にじ)んだ視界に黒い影が映った。


 それと同時に、乾いた炸裂音(さくれつおん)が辺りに(ひび)いた。


「ぼあああー」


 空から放たれた何かに体を貫かれたバーモは、叫びながらその場に倒れ込んだ。


 倒れたバーモは死にかけの虫のように、ゆっくりと手足を動かした後、完全に動かなくなった。


「…………」

 その人は、動かなくなったバーモを見つめる親子の視線を(さえぎ)った。


 真っ白な翼を持つ〈鳥人(ちょうじん)〉の白髪男性が空から舞い降りてきた。


「──そうか。逃げることができなかったのか。

だが安心しろ。私が必ず、この街の平和を取り戻す」

 軍服姿の小柄な老紳士風の男性は、スィンザと父親にそう宣言(せんげん)した。

 

 そして、白い翼を広げて空に飛び上がった。


「……〈英雄 ダゼル・キットラン〉……来て、くれたのか……」

 スィンザは、涙を流しながらそう呟いた父の言葉と、遠ざかっていく白い翼のことを忘れることが出来なかった。


 ☆☆☆


 あの出来事から月日は流れ、スィンザは十六歳になった。


 比較的に高め身長と、灰色になった長い髪が印象的。

 あの日、動けない父に縋って泣いていた幼さはなくなり、口数の少ない落ち着いた女性へと成長した。


 腰には一本の剣を携え、全身を覆い隠すかのような灰色のマントを身につけていた。


 彼女は、家族と暮らしていた祖国から離れ、今から約二ヶ月前に、この〈境界(きょうかい)(まち)、ラパン〉へと移り住んでいた。


 スィンザは今、街の中を見渡せる、巨大な城壁(じょうへき)の屋上にいた。


「やっぱり、ここでもうまくいかないなぁ……」


 その場所で、スィンザは弱音を吐くように呟いた。


 境界の街の西端(せいたん)には、世界を区切るかのような、とてつもなく巨大な城壁が南北方向に果てしなく立ち並んでいる。


 この巨大城壁こそが、この〈境界の街〉の象徴なのだ。


 街の中を見下ろすスィンザの目線の先には、箱を積み上げたかのような簡素な造りの建造物が、林立している。


「何回みても、変な街」


 規則性がないように見える街の中は、迷路のように入り組んでいる。


 スィンザは何度も道に迷った。


 さらにその迷路(めいろ)の闇の中では、日常的に怪しげな取引が横行しているらしい。


 最近では〈人さらい〉まで現れるようになった。


「──あ、ここにいた! スィンザ~! お昼ご飯食べようよ!」


 スィンザにそう声をかけたのは、白髪で小柄な少女、テリルであった。


「テリル。私、今日はお仕事休みなのに誘いに来てくれたんだ」


「いやだった?」


「そうじゃないよ。嬉しかったの」


 スィンザは、城壁の長い階段を上がって来たテリルに体を向けて、笑顔を見せた。


 テリルの背中には、白い翼が折り畳まれている。


 彼女は〈鳥人(ちょうじん)〉である。


 そしてこの翼こそが、彼女たちが〈鳥人〉である証明なのである。


「ちなみにおれたちもいるぞ」


「そう。私もいる」


 テリルの後ろから階段を上がって来たのは、緑色のウェーブパーマヘアーの若い男性。

 

 もう一人は、長身で黒い翼を持つ鳥人の男性だった。


「ルモーンさん、バリゼさん」


 緑髪の男性ルモーンには翼はない。


 その代りに、緑色の人魂(ひとだま)のようなものが彼の周囲に浮いていた。


 ちなみに彼の髪型は、天然パーマである。


「おっ! 今日は天気がよくていい眺めだ! 

鳥人はやっぱり高い場所の方が好きなのか?」


 ルモーンは、城壁の頂上(ちょうじょう)からの景色(けしき)を眺めた。


「私は、特に好きじゃないです」


「わたしは苦手~」


 スィンザとテリルは、順番にそう答えた。


「へぇ。そうなのか。バリゼは?」


「私は、好きで空を飛んでいるぞ。

だが、同じ鳥人であっても、何が好きかは人それぞれだ。

ルモーンよ、お前たち〈魔人(まじん)〉も全員が魔法好きというわけではないはずだ」


 ルモーンは、自分の周囲を飛んでいた緑色の人魂、通称〈妖精(ようせい)〉を右手の人差し指に乗せた。


「それはそうだなぁ。

でもよ、この広い世界には、〈十一種族〉も力の使い方が違う人間がいるんだぜ? 

中には単純明快な種族がいてもいい気がするけどなぁ」


「私はまだ、

魔人と〈獣人(じゅうじん)〉と〈爬人(はじん)〉にしか会ったことがないです」


「スィンザってけっこう世間知らずだよねー」


「えっ⁉」

 スィンザは、テリルの言葉に思わず真顔になった。


「えっと、魔人、鳥人、獣人、爬人、〈蟲人(ちゅうじん)〉、〈水人(すいじん)〉と……

竜族って二種類だったけ?」


 ルモーンは頭を掻きながら、指を折り曲げていった。


「〈翼竜人(よくりゅうじん)〉と、〈()龍人(りゅうじん)〉だ」


 バリゼがフォローしたが、ルモーンはその他も曖昧なようだった。


「そうそう。え~あとは、蟲人と……」


「蟲人は二回目だぞ」


「……じゃ、あとはわからん! おれはこの手の勉強から目を背けて生きてきた」


「おい! 開き直るな。学ぶことを辞めたら人は終わりだぞ!」


 バリゼは、ルモーンの将来を心配して、彼の肩を揺すった。


「あとは、〈木人(もくじん)〉、〈闇魔人(やみまじん)〉、〈光魔人(ひかりまじん)〉ですよ! 

最低でも他種族の特徴と名前くらいは覚えておかないと、マズいんじゃないですか~? 

〈回復魔導士〉のルモーンさーん?」


 テリルは、ルモーンの脇腹を人差し指でつつきながら、からかうように笑った。


「だぁぁぁ! やかましい! 

だいたいお前ら鳥人ですらこの超ド田舎の街には、数十人しかいないレベルのレア種族なんだぞ⁉ 

あとは獣人と魔人ばっかりな、この街ならおれは、大丈夫なんだよ! 

ほら飯行こう! 食堂終わっちまうぞ!」


 ルモーンは、テリルたちを振り切って、階段を降り始めた。


「はい! 行きましょう。

……でもなんで、こんなに種族に偏りがあるんだろう? 

昔は、今みたいに気軽に移住できなかったから?」


「それもあるけど、重要なのは遺伝と生まれた土地だね。

この土地は、聞いた話だと、獣人になりやすいみたいだよ」


 ルモーンの後に続いて、階段を降りるスィンザの疑問に、テリルが答えた。


「テリルって頭いいよね」


「そんなことなさすぎだね。でも昔は、勉強頑張ってたよ。

頑張らなきゃいけなかったから。

でも今は自由でハッピーな毎日なんだ。スィンザのおかげだよ」


 テリルは、気分がいいのか鼻歌を歌い出した。


「……私もテリルに会えて本当に良かった。私も幸せ」


「アハハハ。お前ら仲良すぎだろ」


「いいことじゃないか」


 ルモーンとバリゼは、彼女たちの幸せを肯定するように笑った。


 一行は、退屈な長い階段を楽しそうに降りて行った。


 この話を読んでくださった皆様、見つけてくださった皆様、誠にありがとうございます。

「小説家になろう」初投稿でございます。

未熟な文章力ではございますが、頑張って生きていこうと思います。

もしよろしければ、ご感想や、至らない点などのご指摘をいただけると大変助かります。


ストーリーが一区切りつくまでは、できるだけ毎日投稿し続けられるように頑張りたいと思います。

スィンザたちの行く末を、見守っていただけたら幸いです。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

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