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トライ  作者: 静夏夜
渡来
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表裏一体


 海岸線に沿ってウネウネと走る田舎国道は切り立つ崖に陸側へと向きを変え、山だか丘だかを越えて森の中を突っ切る長い直線に入り前のバンもよく見える。

 だが見えているのは向こうも同じ、こちらが速度を増せば向こうも増すで距離が詰まる事は無い。


 平行線を辿るかに思えた直線での追走劇に、デコ広が窓を開けては飛び道具の何たるかを知らしめる。


――TAKAANN――


――TAKAANN――


 途端、前を走るブレーキランプの赤が片方消えて当たった事を理解させるが、撃っておいて当たった事に困りデコ広が一人勝手に悔しがる。


「ああクソッ! 当たっちまったよ……チッ!」


 そう言って窓を閉めたデコ広は、元の姿勢に戻りまだ熱い銃口に息を吹き掛けつつこちらに向けた。


 少し考えれば解る話、弾痕を残した事でバンを逃がせば手前勝手に撃った弾丸から足が付く。


 運転で冷静な思考を取り戻したか理解も早い、そお思い上がった自分を殴りたくなる程に、デコ広は異なる理由を愚痴に零す。


「また減給だ……」


 証拠を残して尚、捕まる事など考えてもいないその台詞には、推測するも恐ろしい話が見えて来る。


 減給、つまりは給与が支払われ証拠もその給金から抜かれ解決される事を示唆し、捕まる事を考えていないのではなく、考える必要が無いのなら、それは捕まる事が無い立場にあると言っているに等しい。


 これまでにも逃げた連中は殺されていたのだろうが、表立って報じられているのを観た事が無い。


 弾痕を残して尚も無惨に海ヘと放り捨てられ土左衛門となり、打ち上げられた所で露助や朝鮮人の関与が疑われれば、昨今の警察やメディアは内弁慶に黙認するのが関の山。


 けれど本土の中で弾痕を残した車が出ても問題ないと考えるのは黙認する側の思考であり、それは警察内部の思考に他ならない。


 詰まる話が今日を云われる闇バイトの組織図の頂点が誰かを判らせる。


 少し考えれば、家族を人質に取られ抜けられず、警察に言えばバレる等と言う話からも、何故に警察に相談して尚犯罪者として取り込まれるのかにも、警察内部それも上層部に親玉が居るのなら全ての話に合点がいく。



 そもそも襲う家をピンポイントで狙いを付けているが、襲う家を調べるにも正確な資産を知らなければ見知らぬ家を無作為に当たる事にもなる。


 膨大な情報量を中央集権にして尚その情報を精査する必要からも、匿名・流動型犯罪(トクリュウ)等と云われる常に人員が変わる組織体では成し得ない。


 小さな組織が正確に狙える家計を容易に集め知れる術など、国勢調査以外に思い当たるものはない。


 国勢調査員となって地域で集めた者が他人の情報を陰口のネタに話したり、新聞や宗教に絡みリフォーム詐欺から始まる不動産売買の勧誘にまで使われ、国勢調査情報が売られているとの報告は多くある。


 度々この問題を耳にもするが国は取り締まる姿勢すら見せず、敢えてその手の者に管理業務を委託しているようにも思えていたが、国の関与が無ければ出来得ない犯罪だという答えに気付けば、闇バイトの親玉が捕まらないのも当然に思える。



 国の関与が無ければ知り得ない家族構成や資産情報に加え、捕まらない状況を警察が敢えて創ったとしか思えない逃走経路に浮かび上がる犯人像。


 ネット等の一部で警察上層部や公安関係者の関与が疑われ出すと、次第に犯罪の質が変わり粗雑な犯行が増え出し、大衆の不満を汲むかにタイミングよく主犯格とされる者達が捕まる。


 だが、捕まるのは相手から取った使い勝手のいい将棋の駒の如くに、他の犯罪にも関与しているだろう者達ばかりだ。


 ワイドショーで何々に詳しい何ちゃらさんとして元刑事が語る見立て話は印象操作にも思え、後日警察発表として公表される出来過ぎた話の前置きのようで、全体を見ると幾分整い過ぎている感が否めない。



 むしろ警察の云う匿名・流動型犯罪(トクリュウ)とする名が示すのは、匿名で指示するが国や警察で、流動するのが指示役以下の人員と考えれば、初期の犯罪像にも合致する妙。


 更に乱雑な犯行が増えた今になって突然警察が“仮想身分捜査”なるものに着手すると言い出したが、これにより

さも捜査員が犯罪グループに入り込んでいるのは捜査の一環だとでも言いた気だが、元々中で犯罪の指示役や監視役をしていた警察官をバレずに救い出す方法を模索したようにも思えて来る。


 木を隠すなら森の中と言うが、これは木を隠す為に森を創ると言う話だ。


 大掛かりな植林に出される予算からも、捜査方法の対策を立てた者達を騙し欺き蠢く立法府内に潜む裏切り者の影がチラつく。



 今に関わる前の暇にテレビやネットで得た知識から事の厄介さを理解したデブだが、長い直線の運転にどれ程考えていたのか意識が飛んでいないかとハッとする。


 周囲の状況を確認するにもデコ広に悟られないようそれとなくに小さく動く。


 そんなデブの僅かな動きにもデコ広は、表情に少しの緊張が見える違和感からの勘繰りに、睨みを利かしデブのこめかみに銃口を定める素振りで問いかける。


「おまえ、意外と頭良いんだな」


 勘の鋭さにデブの理解に気付いたのだろう事を知らしめる答えようのない問いかけに、肝に銘じて返事を考え言葉に詰まるデブ。


 焦りに反して静かに迫る疑いの目は、獲物を囚えて尚も食さず動きを観察するような先を見据えた学びにも思え、次の手は疎かこの先の逃げ道が無い事を判らせる。


 弱者にとって学習能力を持つ狩人ほど厄介な者は居ない。無論、学習能力が高い者なら人が人を狩るが如何に情けない事かを理解も出来得、己の情けなさに虚しさを覚えて恥を知るが故、ここに居る時点でさした頭は無い。


 だからこそにミスを続けてこの惨状、何かしら動けばミスを誘えるかもしれないが、自分が被害者になる可能性も大いに有る。


「今は撃たれないと理解出来る程度には……」


 運転中に撃てば走行中のトラックがどうなるか位は解るだろうしドライバーを失う事にもなる、ましてや今はバンを追走中。


「ふん。チラホラ建物も見えて来たし、運の良い野郎だ」


 銃をポケットに入れ前を向くデコ広の台詞は、外の景色が視界に入っていた冷静さをも理解させるが、最初から撃つ気が無かったと分かれば安堵と共に遣りどころのない怒りが湧く。


 とは言え顔に出すまいと唾を飲むデブの動きにも一々目が向くデコ広の執拗さは、単に稚拙な不安から来るものだとは今のデブが知れる処にない。


 港町から随分と離れ次の町に入ったらしく、雪深い森の中にも工場なのか学校なのか時折何かしらの壁と門が現れるが、門の奥は暗く何が在るのかまでは分からない。


 学校らしき壁も広大な森の中に規定の広さで佇み郊外のそれと変わらないのが不思議にも思えて来る中、バンの右に残るブレーキランプの挙動が何かが起きた事を判らせる。


「何だアイツ! 急ブレーキ?」


 

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