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劇場型採餌(2)

「今か……」

横から仕の嫌そうな声が聞こえてきた、私としては嬉しい予想外だが。

「すぐに死んで帰るのも勿体ないですし探索していきませんか?運命ですよ運命、こういうのは」

私が行きたいだけだろう、というのは仕が言うまでもなくこちらも理解している。要するにこれは提案ではなくお願いなのだが、仕は私に優しいので問題はない。

「……まあ良い、行くか」

流石の割り切りの良さだ。

そういう訳で現状把握。まず地面は白タイル、純白で清潔で無機質な感じだ。そして周囲、所々に人間の一部が散らばっている。腕や足、生首に臓物と色々な断片があり、人身バイバイといった感じだ。建造物は特になし。

ちなみに異常に異常を上塗りしたような状況が『外出』の特徴だが、その断片らから流れている血液の色はちゃんと赤色だった。人体が散らばっている時点で既に精神衛生上好ましくないが、これが緑色や虹色だったり僅かに発光していたなら圧倒的な違和感というか、どうにも嫌な気持ち悪さがあるので良かった。

私も仕もスプラッタを見てキャーこわーいと気絶してしまうようなタイプではないので近づいて検分。飛んでいる部位もバラエティに富むが、それに負けず身につけている物も実に多様だ。白衣に甲冑に……文字通り断片的なので分かりづらいが、このミリタリーカラーの分厚い服は防弾ベストだろうか?

おそらく防弾ベストを着けているであろう、首と四肢の付いていない胴体をひっくり返してみる。死体を弄り回す行為には顔を顰めるのが人間として一般的な倫理観だが、ここには倫理観をあまり重要視していない私と元々顰めっ面の仕、面構えが存在しないため顔を顰める事も倫理を重要"視"する事も不可能な肉片しか無いのだからまあ良いだろう。

前の部分の損傷(この場合は損壊だろうか)に比べ、裏は4、5滴の小さな血飛沫があるだけでかなり綺麗な状態だった。

意匠を確認すると真ん中より少し上辺りにこのベストを所有している組織のロゴらしきものがある。3つの同じ大きさのバツ印が斜めに連結されているシンプルなデザインだった。そのロゴの下には組織名と思われる字が並んでいる、なんと漢字だ。

『交異界会』

これはなんと読むのだろうか、コウイカイエ?マコトサカイカイ?

造語を漢字で表されても読むのに困るな、と別にテストをされている訳でもないのに悪問認定をしようとしていた所でロゴを見て気付く。これはバツ印ではなくてエックス、つまりギリシア文字で表音する所のカイだ。交は交わすのカで異は異常のイ、界は世界のカイで会は機会のカイ。並べてカイカイカイと読み、従ってロゴもカイであるXの3連続となっている訳だ。

字面から判断するに異界を行き交いする会なのだろうが、読みが些かダサすぎやしないだろうか、言っているだけで体が痒くなりそうだ。遊び心という観点では高評価出来るかもしれない、遊びの会と見るには装備がガチガチすぎるが。それにしても私達意外に『外出』を行い、この空間を訪れる人間達が居るかもしれないと言うのは非常に興味深い。

しかしながら、ここでは人間の死体があるように見えてもそういうオブジェクトとして配置されているだけの可能性がある。右腕や左足がポンと置かれているだけで、これらが昔は生きていて、来歴も経歴も履歴書も持っていて、会話して運動して食事していたという保証はどこにも無い。とりあえずそういった考え出してもキリの無い話は置いておくとしよう。

これらが『交異界会』なる組織に所属している者の服装だとして、それならば明らかにジャンルの異なる甲冑はどういう事なのだろうか?というか、そもそも彼らは何故こうも体を断たれ生命を絶たれているのだろうか?

この装備はどう考えても交戦を想定している。たしかに『外出』で辿り着くこの空間では、好戦的な生物だとか生物らしきものだとか生物ではなさそうなものが出てくるのは珍しい事ではない。つまりこういった装備が必要な、そして装備していても尚殺されてしまうような何かがここにいる訳だ。

いや待て、人間が叡智を集結させて作った装備を打ち破る、人間に対して敵意を向ける存在といえば心当たりがある。何を隠そう、我ら人間だ。これらが人間同士の内で撃ち合った、同士討ちを繰り広げた結果というのは歴史の授業を聞いている者ならば想定する事が容易な結論だろう。装備が違うのも納得だ、そもそも所属している組織、あるいは軍が違うのだから。

ただこんなものは仮説の域を出ない。「詰まる所人と人は争うものなのだよ」などとしたり顔を浮かべ俯瞰気取りの露悪に徹するのは極めて愚かだ。人間とは軍隊を組み大群となり争い、しかしやはり人と人で寄り添い合いながら生きるものなのだから。四肢と服装がバラバラの彼らは、この空間に潜む共通の敵に立ち向かう為にいくつかの組織が寄り集まった連合軍である可能性だってあるのだ。

そこまで色々と考えた所で、やめた。ここでアレコレと考えて結論を出すよりも、もっと様々な死体から情報収集した方が、ここで何が起きているのか理解する事に繋がるだろう。死体漁りをするのは初めてだが、意外と楽しいものだなと自分の趣味に物騒なものを一つ追加した。

少し思考に耽りすぎてしまったが仕は暇をしていないだろうか、と後ろを見てみると、右腕だけの甲冑から中身を引き抜いている所だった。引き抜いた右腕を乱雑にごろんと転がし、慣れない手つきながらにガチャガチャと右腕に装着する。数十秒程の苦戦の末に仕は、右腕の肘までだけが中世チックな鎧に覆われている奇抜なファッションとなった。

「これ良いな、気に入った」

手を何度かグーパーと開閉させ甲冑をガチャガチャ鳴らした仕は、珍しく口角を35度ほど上昇させる。どうやら私同様に死体漁りの気があったらしい。

「確かにちょっとかっこいいですね」

「触ってみても良いぞ」

自慢気に右手を差し出してきて、すっかり所有者気取りだった。

「では失礼」

表面の金属光沢はやはり綺麗だ、インゴットといい金属貨幣といい、人間はどうもこの手の光に弱い。うろ覚えの知識だが表面に細かい溝が掘り込まれている甲冑はフリューテッドアーマーという種類らしく、重量軽減に役立つ構造だそうだ。

「おおー、高級感というか重厚感というか、そういったものがありますね」

しばらく堪能していたが、甲冑越しとはいえ腕をベタベタ撫で回すというのもなんだか妙な気分になる話だなと思い至り中断する。

「この辺りはもう特にめぼしい情報も無さそうなので進んでみましょう。この胴体の飛ばされ方を見るに、これらの元凶はあっち方面のはずです」

「分かった、行こう」

漁る時手に少し血が付いてしまっていたので、その辺の死体で拭かせてもらった。礼節を欠く行為かもしれないが、そこは死体らしく目を瞑ってもらおう。

不暮のビジュアルが自分の中で固まったのですが、仕の方がまだいまいち決まってなくてどうしようかなーと考えています。

とりあえず二人とも顔の良さは上の下から上の上の間のいずれか、という所だけは最初期から決めていました、その方が書く方も読む方も楽しいですからね。

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