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劇場型採餌(1)

道端に蝶の死骸を見つけて「これじゃ鱗翅目じゃなくて臨死目、はっはっは」とかくだらない事を考えながら登校していた。月曜日特有の怠さと絶望感が漂う通学路だが、学校に行くのがあまり苦ではなさそうな陽気少女グループは元気だ。

内容こそ

「でもあの俳優はよく見ると目元あんまりじゃん、わたしだったら付き合えなーい」

といった本当にどうでも良い上に傲岸不遜すぎるものなのだが、ひたすらに元気が良いのでこっちも吊られて多少元気になってくる。

人間というのは群体を、ひいては軍隊を組む生き物だ。そんな人間において存在しているだけでなんとなく周りも嬉しくなる、というのは凄まじい長所であるため、私はあの手の陽キャには好感を持っている。

そういった感じに人を上から評価していたら教室に着いた。

冬の乾燥した空気で喉がフリーズドライされそうになっていた私は、荷物を置いてすぐ冷水機へ向かう。学校に水筒は持ってこない主義だ、いや、主義というほど強固な意思ではない。荷物が重いとしんどいというだけだ。『外出』の時は遠足前の小学生ぐらいに張り切って準備するのだが、好きでも嫌いでもない学校生活にそのモチベーションを発揮する事は出来なかった。しかしもう冷水で喉を潤すのが辛い時期なので、そろそろ観念して暖かい飲み物を持ち歩くべきだろう。


冷水機には先客が居た、奇遇な事に仕だ。

「おや」

「おお」

仕は口元の水を袖で拭っている。ヤンキーじみた治安の悪い雰囲気を纏っている彼女がその仕草はをするのは、冷水じゃなくて生き血でも飲んだ後みたいだった。いや、ヤンキーは別に生き血を啜らないか、それは不良ではなくて死霊の類だ。

「奇遇ですね、奇しくも遭遇しましたね」

「そうだな、じゃあ」

「早いですよ行くのが、冷たいですねぇ、季節ですか」

「なんだよじゃあどうして欲しいんだよ、お前が水飲むとこを黙って見てればいいのか?」

確かにそれは飲みづらいかもしれない、喉越しが悪い。喉越しは良いに越した事はない。

「一理ありますね、ここはその一理に免じて一時的に見逃してあげましょう」

「私に罪があるみたいに言うなよ、濡れ衣にも程があるだろ」

「水だけにですか?」

「だけにではない」

私のダル絡みをそこそこに相手しつつ仕は自分のクラスに帰って行った。ちなみにここの冷水機は水の勢いがかなり強い個体なので、仕の制服には結構飛沫が飛んでいた。濡れ衣は着せるまでもなかった訳だ。

私はやんわり目にボタンを押してアーチを描く水に口を付ける。

やはりこの時期には冷水機じゃなくて温水機が欲しい、死ぬほど冷たかった。冷水機の水が冷たすぎて死んだ場合は、凍死と溺死のどちらなんだろうか?


8時間にも及ぶ学校生活を終え、帰路に着くべくカバンを持った。月曜日の放課後になると毎週、これがあと4回かあという気分になる。教室の扉を横に引くと、誰かの飛ばした消しカスがレールに入り込んでいて、途中でガッと引っかかった。

冬の夕方は早い。窓から差し込んだ日光が廊下にオレンジの四角い光を規則正しく並べていて、けっこう綺麗だ。なんともなしに光の差し込んでいる部分だけを踏んで歩いていった。

階段で決死のジャンプを決める訳にはいかないので、途中で断念して影も踏みつつ校門を抜ける。

その途中で仕とすれ違った。

すれ違った?なるほど、忘れ物でもしたのか。制服姿のままで鞄も持っているあたり、少し歩いた所で気付いたんだろう。しかし仕の顔立ちで一人だけ流れに逆らって歩いていると、なかなか様になるものがある。

私が気付いて首を向けた事で、仕の方もこちらに気付いた。

「お」

「やあ仕、今日は奇遇の日ですね、きぐ曜日ですね」

「嫌すぎるだろそんな語感の悪い曜日」

「じゃあ改名しましょう、語感の悪い曜日でごわ曜日です」

「より語感悪くなったな」

二者とも我ながらネーミングセンスが無い、ネーミングナンセンスだ。

「所で仕は……忘れ物か何かですか?」

「机に財布忘れた」

大分大事な物を忘れていた。

「めっちゃ貴重品じゃないですか、私も同行しましょう」

「その流れで言われると横から盗ろうとしてるみたいだな、まあ来たいなら来ていいぞ」

そういった感じで仕に引っ付いて、私も学校へと戻っていく事にした。

これから帰る人達と頻繁にすれ違うので、私は仕と縦一列となって歩く。背もたれで思いっきりだらけでもしたのか、後ろ襟が少し歪んでいたので歩きながら治してやる。背後からいきなり触られたのだから声を漏らすなり振り向くなりしても良さそうなものだが、全くのノーリアクションだった。凄まじく強靭なメンタリティだ。


他クラスの教室が妙に新鮮に感じるのは、普段居る教室に似ているからこそ違う部分が際立つからだろうか。机の木材の色の濃淡、足の高さ、タイルの汚れの位置、そういった瑣末な違いが大量に積もっており、見覚えがあるのに見覚えが無いという不思議な感覚だ。それに加え、自分の所属ではない教室に入るというあまり無い機会がほんのりとした興奮を生む。

黒板を見ると薄らと文字の跡が残っている、最後に行われた授業は仕の嫌いな数学だったらしい。道理で襟を歪めるような体勢になるわけだ。

「不暮ー、あったぞ」

「おー、良かったですね」

もし見つからなかったら探偵ごっこでもするかと思っていたが、どうやら必要なさそうだった。

「じゃあ帰りますか……ん?」

何かを踏んだ。白色だが所々黒く、軽い質感……なるほど、丸められたプリントか。広げてみると一ヶ月も前のものだった。ズボラな奴も居たものだ。

「ふむ……」

私はプリントを丸め直し、握り込んだ右手に左手を添える。脳内でゴミ箱への放物線をイメージして、どの球技とも判断がつかないような微妙なフォームで投げた。プリントはなんとも言語化し難い奇妙な軌道を描き、ゴミ箱の縁から6cm程手前でフォソ……と珍妙な擬音を伴い着地、というより不時着。

「ふむ…………」

やはり球技は苦手だ。

「ちょっと貸してみろ」

仕が手をクイクイ動かす。自信アリ、か。私はプリントを拾って仕に渡してやる。投げて渡すと外れるのでわざわざ歩いて渡しに行った。

球技には明るくないのでなんなのかは良く分からないが、なんだかそれらしいフォームの仕はフォン!と思い切りの良い音を立ててプリントを放った。(ほう)ったではなく、(はな)った。

イチローのレーザービームのような(といっても私はイチローの顔すら知らないが)速度で飛んだプリントは、ゴミ箱の奥にある壁でバウンドしてゴミ箱から12cm程手前へと落ちる。

「ふむ……」

「なるほどな……」


校門を出る頃には、陽は落ちてしまっていた。

我ながら随分馬鹿な時間の使い方をしたが、馬鹿な事というのは総じて楽しいので仕方がない。

時間的にも方向的にもすれ違う人は居ないので、今度は二人で並んで歩く。

「冬の陽は本当にすぐ落ちますね〜、寒いんだから日光ぐらい残してくれても良さそうなものですが」

そんなどうもしようがない事をぼやきながら、所々にヒビの散見される縁石の上を歩いた、歩こうとした。

しかしながら私が踏んだのはなんとも信じがたい程清潔な質感の、地球上に存在するどんな材質よりも真っ白な色をした、タイル張りの床だった。

薄々というより濃々に感じられると思うのだけれども、僕の文は西尾維新から過多に、過剰に、過度に影響を受けています

西尾維新に憧れて劣化版西尾維新な文を書きまくっていた〜みたいな黒歴史話はよく聞きますが、だからといって何も書かなかったら上達はしないよなという事でまあぼちぼち頑張っていこうと思います

ちなみに一番好きな西尾維新作品は世界シリーズです

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