プロローグ
人間は、存外頭の悪い生き物なのだろう。あるいは、そもそもどの生物も刷り込みと条件反射で行動していて、きっとそこに論理性や知性なんてものは無くて、その中でたまたま栄えた運の良い生き物を頭が良いと思っているだけなのだろう。なんせ私は、こんなにも何も理解出来ていない。
パキパキと音がする、私の足元にある骨が割れる音だ。この骨が何なのか、私は理解出来ない。
人骨ならまだ良かった、何故足元一面に人骨が転がっているのかという疑問が残るが、少しは理解出来る。
しかし私が屈んで検分した限りでは、この骨の生物は5枚の翼に手が1本あり、それらが繋がっている頭蓋骨は中央の膨らんだフリスビーのような形をしている。世界には未発見の生物がたくさんいるらしいが、少なくともこいつはその中に居ないだろう。
ふと頬に湿り気を感じて拭うと、稚魚のような何かが潰れて張り付いていた。空を見ると兎の前足が毛からその稚魚を産み落としていた。産まれた稚魚達は地に叩きつけられて死んでいく。私の帽子から、叩きつけられた稚魚達の血が垂れる。地面と帽子から漂う不快な生臭さに耐えられなくなった私は、近くにあった駅に入った。
駅の中では、改札の近くに1人の少女がうつ伏せに倒れている。
「助けて下さい」
少女は顔半分を血に染めてこちらに手を伸ばす。しかし少女の胴体は灰になって崩れ落ち、伸ばした手だけが落下する。灰の中で何かが蠢いた。私はよく見ようと顔を近づけたが、地面の中から突出してきたエクスクラメーションマークの標識に腹部を貫通されて死亡した。
「おい不暮」
名字を呼ばれた。
「なんです仕」
私も名字を呼び返す。
「スーパーに行こうと思ったらお前がベンチで寝ていたのが目に入った、なんでこんな所で寝てたんだ?」
「私に野外で寝る趣味はありませんよ、ちょうど『外出』から帰った所なんです」
「なるほど、今回は良いイリュージョンは得られたか?」
「インスピレーションですね、特に教訓や哲学的な物は得られませんでしたけど、刺激的ではありました」
見上げた雲一つない星空には、兎の前足は浮いてなかった。体を起こしてソフト帽を深く被り直す。どうやらここは近所の公園のベンチだったようだ。
「今回の体験を纏めなければ、家に帰ってコーヒーを淹れますが仕も飲みます?」
「苦い、健康に悪い、寝れなくなって目の隈が濃くなる、あんなの飲まない理由しか思いつかないが」
「それらを差し引いても飲みたくなる魅力があるんですよ、あとコーヒーの苦味は旨味です」
「苦味は苦味だ、私は自分の家でコーラを飲むから行かない」
疑問が解消された仕はさっさとスーパーの方角に歩いて行く。スマホを確認すると夜の九時丁度だった、私は今回のおでかけの記憶が鮮明な内にと、スマホのメモ帳アプリを操作しながらダラダラと家へ向かう。
メモタイトル【『外出』の現在判明してる法則について】
・日没後に野外を出歩くといつの間にか見知らぬ場所に迷い込む現象がランダムで発生する(以下、『外出』と呼称)
・迷い込む場所はこの世界とは何かが異なっている
・帰還するには死亡する必要がある
・帰還する場所はランダムだが外出の発生場所から500m程度
(不暮の多機能携帯電話 メモ帳アプリより抜粋)
ここが良いとかここが悪いとかここが間違ってるとか、そういった諸々を話しかけてくれると嬉しいです