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クロノカタナ   作者: とららん
クロノカタナ
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クロノカタナ プロローグ

なろう初心者で、テストも兼ね全7回に分けて連載します。

短編から中編小説として読んで頂けたら幸いです。

今後の掲載の仕方や読み方、構成などまだまだ勉強中ですがよろしくお願いします。

プロローグ


 遠い遠い東の地。


 遙かな大地に阻まれ、果てしない大海原を越えて辿り着いた伝説の彼方。


 金銀財宝、失われた秘術、神々の遺産。


 そんな浪漫と宝を求めしは、金色の髪、白い肌、水の色と同じ瞳を持つ、神の奇跡と悪魔の魔法を信ずる人々。


 奴隷と呼ばれる者達を引き連れ、彼らは神の教えを携え東の果ての島国へ、いつの頃からかやって来た。


 売られ、買われ、それを流転する欧州の奴隷の中に女はいた。


 白い肌、黄金色の長い髪、異国人から見ても、端正に整った顔立ちと一目で分かるほどの女。


 竹取物語や一寸法師のような、お伽噺の姫君とは一風変わった美貌の持ち主。


 並の男より背が高き、彫りの深いその貌、そこに納められし碧の瞳。くっきりとしたおうとつのある躰、しなやかな肢体にローブと呼ばれる真珠色をした絹の衣を纏う。


 それは魔性か鬼の類いかと、着いた早々島の者達が騒ぎ立てる。


 競りにかければ、財ある領主や商人がこぞって値を上げて行くだろう。


 だが、女は誰にも触れられぬまま、この国のある領主へと献上された。



「で、あるか・・・・・・」



 人を見透かしたような鋭い眼力、帝王の威圧感を備えた重く低い声。黒い上衣マントを翻した領主はその一言だけ告げると、黒き肌の男と共にこの白き肌の女をもらい受けた。


 この王は全てを食らう。女は直感した。この国にも人知を越えた魔があるのだと。


~※~


 その晩、女は格子窓から月を仰いだ。


 この異国にて終えるのだと、女は天より賜りし命運を受け入れようと目を閉じる。



「だぁ! たんまたんま!」



 突然の叫び声に目を見開き、女は月に出来た黒い点に気がつく。それが間近へ迫ると過ぎった時にはもう遅かった。



「先手必勝。三十六計逃げるに如かず! 行くよアオ!」


「ベニ姐さん! やってることと言ってることが矛盾してねーかよい!」



 格子から投げられた火の付いた球。女はそれが何であるのか瞬時に理解し、座敷の端へと飛び退いた。


 弾けるような爆音。鼻を突く火薬の臭いと白煙の中、二つの影がこちらに向いていた。


 その後ろには、ぽっかりと大きな穴が夜の闇を覗かせている。



「ちょ、何? 爆弾? アンタ達なに!?」



 思わず母国語で捲し立て、女はワタワタと騒ぎ出した。



「さすがに異人の言葉はとんと分からんな。アオ、通訳してみせよ」


「へいへい。ベニ姐さんは人使い荒いんだから」



 若い男女だ。女は赤、男は青の着衣を纏っている。



「えっと、じゅてーむ。ごーごー。なますて。ここ危ないで~す。きゃもぉんきゃもん!」


「日の本言葉が混じっているが、大丈夫なのか?」



 耳にかかる程度の短い髪と口元に真っ赤な紅を差した赤い服の女が、黒く長い髪を束ねた細面の青い服の男に尋ねる。



「まあ、挨拶程度しか分からないけど、後は身振り手振りで何とかするしか無いっしょうよ」



 なにやら自分の話している事は理解出来た。所々歯抜けではあるが、一か八か女は口にした。



「エ、エえっと・・・チョ、ちょっと、待って・・・・・・」



 呼吸を整え、思い切って二人を直視しする。



「ノープロブレム。あの、もしかして二人は噂の忍者って言うこの国の魔法使い?」



 女は初めてこの国の言葉を使ってみた。



「おやまぁ。日の本の言葉が分かるのかい?」



 赤い服の女、ベニがほーっと感心したように声を上げた。



「日の本語使っている人、何人かいたから・・・ニュアンスで少しだけ・・・・・・」



 何とか意思疎通が出来たことに安堵を覚えたのも束の間、二人は急かすように続けた。



「なら話が早い! 来て貰うぜ、どくたー」



 手を差し伸べたアオに、女は「へ?」っとすっとんきょうな声を上げる。



「ウチの元締(もとじ)めがヤバくてね。アンタが欧州で名医だったってのは情報に有ったのさ」


「私を連れに?」


「まあ、本命は南蛮の船を壊して積み荷を頂こうって話しさ。ついでに俺達もあんたらと似たようなもんでね。人間扱いされてない身さね。そっちが片づいたんでついでにアンタも頂こうって姐さんがね。あ、ちなみに俺達は忍者じゃないよ。忍者みたいな仕事させられている(かん)さ」


(かん)?」


「ややこしい話しは後にしろ。ここの城主はヤバすぎる。天守閣に大穴開けた以上、捕まったら即斬首だぞ。髑髏で杯を作られても文句は言えん」



 冗談か本気か、ベニの言葉にアオは心得たと裾のヒモを引くと、瞬時に背の衣が三角状に大きく広がった。



「んじゃ、行くぜ、ちょっとデカくて重そうなお嬢さん!」


「な!? コレでも故国ではグラマラスで羨ましいって、患者の娼婦達によく言われてたんだから!」


「ぐらまらすってのは分からんが、やっぱ異人さんと感性がちがうんかね。どうせならデコボコよりも、もっとふっくらしたほうが――って、いて!」



 ベニに頬をつねられ、アオは顔を歪ませた。



「馬鹿言ってないで行くよ!」


「あいよ!」


「ちょっと、一体どういうつもりよ!?」



 アオの手が腰に回され、女は驚き声を上げることも忘れた。


 二人の女を抱え、アオは足に力を込めると、爆発で出来た大穴から瞬時に飛び立った。



「きゃあああああ!」



 天守閣より風に乗って滑空する大凧。甲高い悲鳴と共に女はアオに力の限りしがみつく。



「と、飛んで、飛んでえええええ?」



 頬に触れる風が痛い。浮遊感で背筋に氷が当てられた感覚に不安が増す。



「安心しな。三角飛翔でコイツがしくじったことは一度も無い。あたしらは『シキサイ』。命を戦の道具として使われる間で構成された特務部隊の一つさ」


「奴隷・・・と言うこと?」


「さあ。どっちがマシなんだか分からんけど、あたしらにはここしか居場所がないさね」



 皮肉っぽく笑みをこぼすベニに、女はフッと視線を逸らした。何故そうしたのか自分でも理解出来ない。ただ、哀れみを感じてしまったと同時にそのことを恥じてしまった。



「そんな顔をするな。俺達は俺達で気ままに仕事をしているつもりさ。この戦国の世だからこそ、生きているだけでもマシって前向きに考えられるんだよ」



 アオは気を利かせたのか、軽い口調で女に伝えた。


 女もまた、彼らの言葉に医師として誠意を持って答えようと顔を上げた。



「元締めさんって人は、どんな具合なの? 言っとくけど、私は人に言われるほど名医じゃ無いわよ」



 ベニとアオがお互いしかめた顔を見合わせる。それは、不穏の二文字が相応しい様子だった。



「詳しいことは陣へ着いてから説明しよう。それよりも、女医よ、今更だが確認のためにお前の名を聞いておきたい」



 何を今更と呆れ気味に溜息を吐く。



「ベニ・・・だっけ? ここまで連れて来てそれを聞くの?」


「一応な。女医だのどくたーだのでは双方落ち着かんだろ?」


「まあ良いわ。私の名前は――」



 奇妙奇天烈な経緯で、女が二人の『シキサイ』に連れられ、『ハク』と言う名を与えられるのは、まだ少し先の話しである。

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