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003 色違い

 車道に引かれたセンターラインの上を歩きながら、琴乃は俺を見た。


「魔物ってゴブリンだけなのかな?」


「というと?」


 俺は足下に気をつけながら周囲を窺う。

 下り坂なので必要以上に速度が出る。


「ファンタジー映画だと他にも色々な魔物がいるじゃん。ドラゴンとか」


「どうなんだろうな」


 ポケットからスマホを取り出す。

 幸いにもネットは生きていて、SNSで他所の情報を知ることができた。


 この異常事態は世界規模で起きているらしい。

 高校生以外の人間が消え、魔物が襲ってくる。

 これはどこでも共通していた。


「高校生というのが不思議だよな」


「というとぉ?」


 ニヤニヤする琴乃。

 どうやら俺の口調を真似したようだ。

 まるで似ていなかった。


「高校生であれば年齢は関係ないんだ。例えばアメリカでは8歳の現役高校生がいるけど消えていない。同じく70を超えて高校生となった日本のお婆さんもだ」


「そっか、高校生って15~18歳だけじゃないんだ」


「最初は高3ないしは17~18歳の人間だけが残ったのかと思ったが、SNSを見る限り高校生だけが残ったと考えて間違いない」


「なんで高校生だけなんだろうね?」


「さぁな」


 俺たちの足が止まる。

 前方に5体の緑ゴブリンがいた。


「琴乃、俺の後ろにいろ。離れるなよ」


「うん……!」


 リュックのサイドポケットからペットボトルを取り出す。

 中に入っている水を一杯引っかけたら準備完了だ。


「行くぞ」


 迷うことことなくゴブリンに近づく。


「ゴブ!」


「ゴブブ!」


 ゴブリン共がこちらに気づいて飛びかかってきた。

 小学校低学年と同等ないしはそれ以下の速度だ。


「この程度の数ならコレを使うまでもないな」


 腰に付けている革のホルスターを撫でる。

 収めているのはレジャーナイフだ。


 これはホテルで琴乃が集めた物の一つ。

 俺の指示は「包丁」だったが、彼女はこのナイフも持ってきた。

 もちろん普通の包丁もあり、リュックの中で眠っている。

 包丁2本にレジャーナイフ2本、それが俺たちの武器だ。


「後ろは任せて! あたしも持ってるから、ナイフ!」


 琴乃が自身の装備しているホルスターを触る。


「後ろにいろというのは危ないから下がってろって意味だったんだが」


 俺は「まぁいい」と右ストレートを繰り出す。

 ゴブリンの顔面に拳がめり込んだ。


「ゴヴォ」


 吹き飛ばずにその場で消えるゴブリン。

 即死だった。


「俺を倒したかったら赤を1000体くらい連れてこい」


 サクッと残りのゴブリンも倒した。


「お見事!」


「リュックを背負ったままでも楽勝だったな」


 何事もなかったかのように移動を再開する。


「ふんふんふーん♪」


 琴乃は楽しそうに鼻歌を歌う。

 客観的に見ても学内でトップクラスの可愛さだ。

 俺と連むのがおかしなくらい彼女はモテモテだった。


 そんな彼女の横顔を眺めていてふと思う。


「琴乃はどうして俺についてきたんだ?」


「ほぇ?」


「俺も当たり前のようについてくる前提でいたけど、普通に考えたらおかしいだろ」


「なんで?」


「ホテルに籠もるほうが安全だ。シンセの奴らは腕が立つ」


「でもホテルには海斗がいないから」


「どういうことだ?」


 琴乃はニィと笑った。


「あたしは海斗と一緒ならそれで良かったの」


 思わず「ふっ」と笑ってしまう。

 よほど俺のことが好きなようだ。


「馬鹿だな、琴乃は」


「馬鹿だよー、知らなかった?」


「いや、知ってる」


「でしょー」


 えへへと笑う彼女を見ていて、改めて「馬鹿だな」と思った。


 琴乃とは高校に入ってからの付き合いだ。

 話すようになったのは初めて九頭竜をノックアウトした日。

 放課後に「イジメを止めるとかカッコイイね」と話しかけられた。

 それがきっかけで話すようになり、休みの日はよく遊んでいた。


「着いたぞ」


 道半ばのガードレールから見下ろす。


 眼下には古臭い民家が並んでいた。

 この島がリゾート地になる前から存在している住宅街だ。


 その先には綺麗で大きな道路。

 道路に沿って洒落っ気のある店が並んでいた。

 有名なパン屋の支店、大手のコンビニや居酒屋、エトセトラ……。

 新しい香りと古い香りの両方を味わえる不思議な場所。


 それらを抜けたところに漁港があった。

 近くにはフェリー港やマリーナも並んでいる。

 国策による急速かつ強引な開発の面影が残っていた。


「すごい数のゴブリン。それに魔方陣も本当だったんだ」


「だな」


 住宅街から港まで、地面が青白く光っている。

 その光は高所からだと魔方陣のように見えた。

 ロシアやカナダの学生がSNSで言っていた通りだ。

 魔物はこの魔方陣から出現する。


「どうする? どこも魔物でいっぱいだよ」


 琴乃が指示を仰いでくる。


 俺はしばらく無言で考えた。


 どこを見渡してもゴブリンでいっぱいだ。

 その数は数千に及ぶ。


(倒そうと思えば倒せそうではあるが……)


 脳内シミュレーションで検討する。


(琴乃の安全を考えると厳しいな)


 俺は大きく息を吐いた。


「仕方ない、引き返そう」


「了解」


 と、その時だった。


「なんだ? あいつは」


「どうしたの?」


「色違いがいるぞ」


 大通りを闊歩する魔物の群れの中に、1体だけ紫色の個体がいた。

 大きさも緑や赤に比べて一回り大きい。

 他のゴブリンは紫に向かってペコペコしている。


「アイツがリーダーだな」


「赤より強いのかな」


「そう思う」


 あの紫を倒せば何かが変わるかもしれない。


(やるか?)


 冷静になって考える。


(いや、今は分が悪いか)


 攻め込むのは時期尚早だ。

 まずは紫のことをもっと知る必要があった。


「ゴブリン共が気づく前に戻ろう」


 俺たちは踵を返して来た道を歩く。

 これまで下り坂だった道が上り坂へ変貌する。

 パンパンのリュックを背負った状態だときつい。

 徒歩での移動はスタミナを酷使する。


「海斗、今度はどこに向かうの?」


 琴乃がひぃひぃ言いながら尋ねてくる。


「ゴルフ場だ。まずは一休みしたい。それに足の調達が必要だ」


「足の調達って何?」


「徒歩じゃ辛いから車が欲しい。ゴルフ場なら観光客の乗っていたレンタカーがあるはず。ゴルフ中に車のキーを持ち歩くとは思えないし、ロッカールームを漁ればキーが見つかるだろう」


「それ天才! でも、窃盗は犯罪だよ!」


「この際いない人間の物を拝借してもセーフだ。法の番人たる裁判官も消えちまったしな」


「たしかに。それよか車の運転なんかできないよ、あたし。免許もないし」


「安心しろ、俺はできる。免許も持ってるぜ」


「免許あるの!?」


「何なら1級船舶の免許もあるぜ」


「すごっ! それで船に乗ろうとしていたんだ!」


「船を手に入れても操縦できなきゃ意味ないからな」


「おー」


「海斗って本当にすごいなー。強いし、なんか免許いっぱい持ってるし、誰よりも頼もしいよ! かっこいい!」


「強いかもしれないが免許はいっぱいってほど持ってないぞ」


「あたしからしたらいっぱいだよ!」


「そりゃ琴乃は何の免許も持ってないもんな。0に何を掛けても0だ」


「そーそー!」


 琴乃が嬉しそうに笑うが、その顔はすぐに真顔へ戻る。

 前方から二人の女子が近づいてきたからだ。


「あの制服はシンセだな」


 八校とシンセの制服はブレザーの色が違うから分かりやすい。

 八校は男女共に紺だが、シンセは男子が深緑で女子はキャメルだ。


「俺たちに用があるみたいだぞ」


「あの大きな坊主の人に命令されて来たのかな?」


「どうだろう。大堂が俺たちに女を派遣するとは思えんが」


「だったら何だろう?」


「さぁ?」


 分からないこそ緊張感が高まった。


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