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013 エピローグ

 次の日――。


 朝食を済ませた俺たちは、北魔窟町へ行くことにした。

 昨日と違って今回は全員で向かう。


「いよいよコイツの出番だぜ」


 今日の車はトゲトゲカー。

 フロントに大量の釘を付けたSUVだ。

 それに俺と女子3人、シェリーが乗っている。


 後ろから小太朗の運転するミニバンが続く。

 彼の車には大量の荷物が積んである。


「本当にあたしらは手ぶらでいいの?」


 助手席の琴乃が尋ねてきた。


「戦うのは俺だけだからな」


「ゴルフ場でクラブをパクった意味なかったじゃん!」


 俺の後ろに座っている由梨が頭をワシャワシャしてきた。


「備えあれば憂いなしさ。いずれ使うかもしれない」


 今回は本番だ。

 港を制圧して、船でこの島からの離脱を試みる。


「今日は安全運転だね」


 佳奈がルームミラーで俺の顔を見る。


「焦って事故るわけにもいかないからな」


「強盗犯も銀行を襲う時は安全運転するらしいよ」


「俺たちは犯罪者じゃな……いや、似たようなものか」


 カーナビの時間を確認する。

 11時30分。

 この調子なら12時には目的地に着く。

 予定通りだ。


「見えてきたぜ、あれが北魔窟町だ」


 女子たちが口をあんぐりし、シェリーも毛を逆立てた。


「ちょい待ち! とんでもない数じゃん! 何体いるの!?」


「ざっと2000か3000くらいだろう」


 北魔窟町の人口は約650人。

 そこに数千の魔物がいるのだから密度がすごい。

 町の至る所にゴブリンが溢れかえっていた。

 しかも俺たちに気づいて集まってくる。


「大丈夫、想定の範疇だ」


「どんな想定だよー!」


「行くぜ!」


 アクセルを踏み込む。

 トゲトゲカーがゴブリンの群れに突っ込んだ。


「「「ゴヴォ……!」」」


 轢かれたゴブリンが消えていく。

 一気に数十体は(れき)(さつ)したが、車内に入る衝撃は皆無に等しい。


 フロントにぶつかるより前に死んでいるからだ。

 釘が頭に刺さって。


「トゲトゲカーすげぇ!」


 先ほどと打って変わって盛り上がる由梨。


「これならいける! 全滅させられるよ!」


 琴乃の鼻息も荒い。


「いや、こいつで全滅させる気はないよ」


 俺は可能な限り原則しないで港に向かう。

 ゴブリンはとろくさい動きで追ってきた。


「あったぜ、山平さんの紅天狗号!」


 波止場に停泊している無数の漁船。

 その一つが山平というおっさんが所有する紅天狗号だ。

 山平家とは家族ぐるみの付き合いで、紅天狗号にはよく乗せてもらった。


 船の詳細は把握している。

 山平さんの性格上、燃料が満タンであることも。

 島を出るならこの船しかない。


「気をつけてよ海斗、ここ狭いから!」


 琴乃は窓の外を見てヒヤヒヤ。


 波止場の道幅は1.5車線分といったところ。

 操縦を誤ると海に落ちかねない。


「俺は大丈夫だが……」


 ミラーで後続車を一瞥する。

 小太朗は顔面を真っ青にしながらついてきていた。

 車内で何やら叫んでいるが聞こえない。


「よし、降りるぞ!」


 紅天狗号の前で車を止めて速やかに降りる。


「こんなに狭いって聞いていませんでしたよ! 死ぬかと思いましたよ!」


 ミニワゴンから出てきた小太朗が何やら喚いている。


「口より手を動かせ。船に荷物を移せ!」


「は、はい!」


 女子と小太朗が手分けして荷物の積み込みを始める。


 シェリーは紅天狗号の甲板に向かう。


「シェリー、合図だ」


「ワオーーーーーーーーン!」


 オオカミのように吠えるシェリー。

 全てのゴブリンがこちらへ向かって突っ込んでくる。

 あえて敵を集めるのは紫をおびき寄せる為だ。


 安全に島を出るには紫を倒す必要がある。

 紫を倒せば全てのゴブリンが消える……はずだから。


「ここなら注意するのは前だけでいい。楽勝だぜ」


 どれだけ敵が多くても、フィールドが狭ければ意味がない。

 同時に戦う相手は5体前後だった。

 昨日よりもよほど楽勝だ。


「本当に弱いな、お前らはよぉ!」


 仁王立ちして突っ込んでくるゴブリンを皆殺しにする。


「本当に軽々とゴブリンを倒してる……海斗すんごっ!」


「すごいです、夏野さん!」


 由梨と小太朗の声が背中に届く。


「興奮するのはいいがサボっていないだろうな?」


 チラリと確認したところ、しっかり作業を進めていた。


「海斗……カッコイイ……」


 今度は佳奈の声。


「頑張って! 海斗!」


 佳奈は胸の前に拳を作って大きな声で叫んだ。


「佳奈が叫んだ!?」


 驚く由梨。


「なんか、我慢できなくて……」


 叫んだ当人は恥ずかしそうに俯いている。


「いい応援だ、ますます頑張れる」


 やる気が高まり、体が軽くなる。

 我ながら獅子奮迅という他ない無双ぶりで紫を待つ。

 そして――。


「ゴッブブーン♪」


 いよいよ紫ゴブリンが現れた。

 他のゴブリンが突撃を止めて後退する。


「今日は勝たせてもらうぜ」


 腰のホルスターからレジャーナイフを抜く。

 昨日とは違って順手で持つ。


「さぁ来い!」


「ゴブッ!」


 今回は俺から仕掛けた。

 挨拶代わりの刺突攻撃。


「ゴッブブン♪」


 紫はスッと回避して反撃のクロー攻撃。

 左脇腹に目がけて分厚い爪が迫ってくる。


「思った通りの動きだ」


 後ろに跳んで躱し、その勢いで右のバックスピンキック。

 体格差から顔を捉えると思ったが、当たったのは胸元だった。

 ヒットの直前に垂直跳びで位置を調整されたようだ。


「ゴヴォハッ!」


 紫は胃液を逆流させながら吹き飛ぶ。

 しかし顔に当たっていないので実質的にはノーダメージだ。


「次は顔を捉えるぜ」


 ナイフを逆手にチェンジ。

 先ほどと同じパターンで攻める気はない。

 素早く脳内で次のパターンを組み立てる。


 その時だった。


「ほんまに孤軍奮闘しとるで!」


「なんちゅーやっちゃ!」


「やばすぎやろ!」


 ホテルを拠点とする生徒の集団が現れた。

 その数200人以上。

 今回はシンセの男子だけでなく八校の女子も一緒だ。


「なんであいつらが!」


 驚く琴乃。

 既に荷物を運び終えて船で待機していた。


「あいつらは俺が呼んだんだ」


「え? 援軍ってこと?」


「いや――」


「今の内や! 急げ急げ!」


 連中はコンテナ船へ駆け込んでいく。

 コンテナに積んである食料品の回収が奴等の目的だ。


「ホテルの食料はじきに底を突くからな。少しでも足しになればいいかと思って声をかけておいたんだ」


「なんでそんなことをするの? あいつら、あたしらを犯そうとしたんだよ?」


「それは九頭竜が計画したことだし、それに実行犯には制裁を下した。あとの奴等は関係ないさ」


「海斗は優しすぎるよ」


 雑談はこのくらいにしておこう。


「すぐに片付けるから待っていてくれ」


 俺は大きく息を吐き、紫ゴブリンに突っ込む。

 ナイフとクローの熱い鍔迫り合いを繰り広げる。

 互いに押し合う。


「ゴブッ」


 鍔迫り合いは俺の勝利だ。

 紫のバランスが後ろに崩れた。


「仕留める!」


 うおおおおおおおおお、とナイフを振り下ろす。

 ――これは失敗だった。


「ゴブブン♪」


 紫はニヤリと笑い、一瞬で体勢を立て直す。

 そして頭から腹部に突っ込んできた。


「ぐはっ……こいつ……狙ってやがったな……」


「「「海斗!」」」「海斗さん!」


 仲間たちの悲鳴が響く中、俺は紫と共に海へ落ちた。


(陸じゃ勝てないと睨んでフィールドを変えたのか……賢いな、こいつ)


 紫ゴブリンは魚の如き滑らかさで泳いでいる。

 人間には到底できない動きだ。


 これは絶体絶命のピンチだ。

 海中での戦いは想定していなかった。


「ゴヴォヴォー!」


 陸とさほど変わらないクロー攻撃が俺を襲う。

 こちらの動きが鈍っているので避けるのは不可能だ。


(グッ……!)


 回避が困難なのでナイフで防ぐ。

 しかしそれは相手の想定していた動きだった。


「ゴブー!」


 紫の両脚が俺の右腕に絡まる。

 下半身でしがみつき、肩や首を咬むつもりのようだ。


「ゴーブーン!」


 鋭い牙が俺の首へ迫ってくる。


 今からナイフを持ち替えて対処するのは不可能だ。

 かといってカウンターのパンチで仕留めるのも難しい。

 海の中だと人間の攻撃力は10分の1にも満たないから。

 冷静に考えれば考えるほどどうしようもならない。

 このままでは、死ぬ。


(終わりなのか? こんな所で)


 脳内に声が響く。

 自分の声なのに自分のセリフではない。

 第三者が語りかけているみたいだ。


(童貞のまま死ぬのか?)


 仕方ないだろ、どうにもならない。

 この攻撃を防ぐ術はない。


(本当にそれでいいのか?)


 そうは言っても……。


(佳奈に応援してもらっただろ?)


 そうだけど……。


(琴乃とキスしたか?)


 していない……。


(由梨の大きな胸に触れたか?)


 触っていない……。


(なのに諦めるのか? 諦めていいのか?)


 ……。


(おい海斗、お前、そんなの……)


 そんなの……。


「ありえねぇだろ!」(ありえねぇだろ!)


 脳内に響く声と俺の感情がシンクロした。

 その時、俺は限界を超えた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 気がつくと動いていた。

 俺を咬もうと迫り来る紫ゴブリンを、俺は――。


 噛んだ。


「こんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ!」


 全力で紫ゴブリンの顔面を食いちぎる。

 奴の牙が俺の首筋に当たった瞬間、右腕が軽くなった。

 咬まれるより先に噛み殺したのだ。


「ヴォエー! ゲホッ、ゲホッ!」


 慌てて海面に顔を出す。

 紫を倒しても酸素不足で死んでは意味がない。


「海斗! 捕まって!」


 琴乃がロープを投げてきた。

 それに捕まって波止場に上がる。


「見てたよ海斗! ゴブリンを噛み殺すなんてやばすぎだよ!」


 由梨は「やばい」を連呼して飛び跳ねる。

 いずれお触りさせてもらう予定の大きな胸が揺れまくっていた。


「気を抜くのはまだ早い。もしかしたらまだ魔物が……」


「見ての通り全部消えたよ」


 佳奈が言った。

 いつものクールな口調で。


 その言葉通り魔物の姿は消えていた。

 倒しても倒しても湧いていたゴブリンがどこにもいない。


「紫を倒したら消えるという情報は正しかったんだな」


 ようやく勝利の実感が湧いてきた。

 俺は大きく息を吐き、そして――。


「勝ったぞぉおおおおおおおお!」


 腹の底から叫んだ。

 仲間たちも「うおおおおおおおお!」と続いた。


 ◇


 濡れた体を乾かし、服を着替えたら出発だ。


「これだけ燃料があれば本土まで余裕だな。往復だって出来るぞ」


 燃料の確認を終えたら操縦席に着く。


「夏野、ほんまありがとなー!」


「いつかメシ奢らせてなー!」


「紫倒すとかほんまやべーよぉ!」


「船の操縦もできるとか天才すぎちゃうかー!」


 コンテナ船からシンセの男子が温かい言葉を掛けてくる。

 俺は笑顔で手を振った。

 そして、仲間たちに向かって言う。


「出港だ!」


 紅天狗号が轟音を奏でながら動き出す。

 次第に速度が上がっていく。


 燃料が満タンなだけでなく船の調子もいい。

 流石は山平さんの船だ。

 神経質で几帳面な性格の賜物といえる。


「海斗ー、もう少し優しい操縦を心がけて――ヴォエェ」


 四人は死にそうな顔で甲板にいた。

 船酔いだ。


「ワンッ!」


 シェリーは変わらず元気だ。

 俺の傍で伏せている。


「この程度の波で酔うとは軟弱な奴等だよな」


「ワンッ!」


「到着まで2~3時間はかかるし、今から酔うならちょうどいいかもしれないか」


 船の針路を定めたら腰を下ろしてシェリーを撫でる。

 モフモフの白い毛が気持ちいい。


「ほんと大変な世界だよなぁ」


「ワンッ!」


 シェリーが顔を舐めてくる。

 くすぐったさと嬉しさから頬が緩む。

 その時、お腹が鳴った。

 激闘を終えて腹が減ったのだ。


「浜松に着いたらとりあえずメシを食わないとな」


「ワンッ!」


 俺は立ち上がり、目の前に広がる大海原に目を向けた。


「まだ48時間しか経っていないんだよな、こんな世界になってから」


 インフラ各種は早くも絶望的。

 今後は食糧の確保も難しくなるだろう。

 先のことを考えると絶望しかない。


 だから目の前のことに集中する。

 ひとまずの成功を喜び、束の間の休息を満喫すとしよう。

これにて完結とします。


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既にそれらが済んでいるという方、応援ありがとうございました。

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それでは!

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