ノーミがリュック背負って異世界へ!HEY!
...しーん....。
静かになるとさ、ホントに『しーん』て聞こえるんだね。
これ最初に表現した人スゴいね。
まさしく『それな!』
......。
.........。
............。
うわあああぁ、どーしよー!!
ノミいますかって失礼すぎない?
私ひどすぎない?
でもでも、気になっちゃったんだもん!
野良猫抱っこしたらノミに刺されて掻きこわしてキスマークみたいになっちゃったんだもん!
ノミいないならもふりたいんだもん!
うええぇーーん!!
「あー...まぁ...ノミはいないな。これでも湯屋を経営してるんでな、一応気は使ってる。」
律儀ーーー!!!
答えてくれるなんて律儀ーーー!!
ん???
「タヌさんや、湯屋って?」
「おう。嬢ちゃんとこでは銭湯だったか。」
待て。
情報が多すぎる。
「喋るタヌキ。」
「うん?」
「異世界人。」
「ああ、今月で三人目だ。」
「異世界課。」
「手続きすればすぐ帰れるぞ。」
「はいそこーーーっ!!」
びしぃっ!と指を指す。
「帰れるの...?」
「おう。」
事も無げにのたまうタヌキは、その鋭い眼光を優しく細めた。
笑ったのだ。
「異世界人は、こっちじゃトラベラーって呼ばれていてな。旅行客と同じ扱いだ。旅が終わったなら帰るのが道理だろ。ま、詳しくは異世界課で聞くといい。連れってやるから。」
帰れるんだーーーー!!
そう思ったら力が抜けた。
異世界キターと思っていたら、自分が何のチートも無いのに気付き。
1人でお金もなくてどうしたらいいのか途方に暮れ。
そして喋るタヌキ。
上がったり下がったりだったわ。
そういや、先輩の結婚式で店長がドヤ顔で言ってたな。
『人生には3つの坂がある。上り坂、下り坂、そしてーーーーまさか。』ドヤァーん。
その時は親父ギャグやベエぇーって、周りもドン引きだったけど、わかる!
今ならわかるよ、店長!!
今がまさに『まさか』なのねっ!
ペタンと座り込んだ私に、丸が声をかけた。
「嬢ちゃん立てるか?」
ほさんっ。
スーツのジャケットに黒い前足が乗った。
それはもうちんまりと。
呆けて見つめてみる。
ちんまり。
ーーー想像してみたまえ。
丸くてもっふりした小動物の前足がっ。
わったっしの腕にっ。
そのちんまりした前足を乗せているのだっ。
ほさんっと。
「たぬうううううううぅーーーーーっ!!!」
「ぎゃああああああーーーーーー!!」
私が我を忘れて抱き潰しても仕方あるまい。
「かわいいねかわいいねっ、もふもふだね、あったかいね、かわいいねっ、足が短いねっ、お手々が太いねっ、かわいいね~っ!!」
ぶっといお手々をもみもみ。
あんよの先の固い肉球をすりすり。
それから脇の下を持って、ぷら~んとさせてみる。丸はジタバタともがくが、その様でさえ可愛らしい。
お腹の毛は白く、背毛よりずいぶんと柔らかい。その白い和毛に顔を埋めてグリグリと匂いを堪能した。
「たぬさんいい匂いだね~、お日様と石鹸の匂いだねっ、ちゃんと洗ってもらってるんだね、かっわいいね~!!」
「嬢、嬢ちゃん、離し...頼む...」
「かわいいかわいいっ、たぬさんかわいいね~っ、んーっまっ!」
頭のてっぺんの、丸いお耳の間にむちゅっと唇を押し付けすりすりし、むぎゅーっと抱き締めた所で、私の気は済んだ。
「はぁ...たぬさん最高だった...」
帰れるとわかった私は無敵だった。