胸騒ぎは億千万の出会いとか何とかか
「なっ、タッ……タヌキ……??」
焦げ茶色の固そうなモフは、肩口から前足にかけて黒く、さらに足の先っちょも黒い。
小さな丸耳がピコピコして可愛らしくはあるが、意外にも鋭い眼光の周りは黒い模様。その模様で愛嬌のあるタレ目に見せてるだけで、実際には恐ろしい野生動物だ。
とは言うものの………。
丸い。
冬毛なのだろうか、全体的に丸い。
マリモのような丸さだ。
なんだこの丸い生き物は。
丸すぎる。
丸いにも程があるだろう。
しかもその丸に、さらに丸々とした尻尾が付いているのだ。おのれ丸めっ…。どうしてくれようか。
「嬢ちゃん大丈夫か?」
しかもこの丸、小さな肩掛けカバンなんてかけてるっ。
ピーターなウサギの世界かよ。くそーっ、捕まえて、モフをモフり倒してもっきゅもっきゅしてもっちもちしてガブガブしてやるっ。
「嬢ちゃん?」
はっ。
おお、危ない危ない。理性を失うところだったわ。
ん?
見つめ合う。
視線のレーザービームはエキゾチックなジャパーン。
ママンのカラオケが流れた。
「嬢ちゃんだと?」
と、私は言った。
「嬢ちゃんじゃないのか?」
と、丸は答えた。
キョトンと、どこにあるのかわからない首を傾げつつ後ろ足で立つ姿は、あざといとしか言いようがない。
そして立っても丸い。
「嬢ちゃんだけど、今嬢ちゃんって言った?」
「異世界人は見た目じゃ良くわからんからな。」
しゃしゃ喋ったーーーーー!!!
しかも異世界人って言ったーーーー!!!
えっどうする?
しらを切る。
逃げる。
……狸汁にする。
無理だよおおぉー!!
だって丸いもん!
白滝切らずにしらを切ろう。切ろう切ろうそうしよう。
「ボク悪イ異世界人ナンカジャナイヨ、プルプ……」
「まったく、今月で3人目だぜ。」
「どっふうぅぅ?!」
この丸なんつーイケボしとるんじゃあぁーーー!!
テンパりすぎてて、イロイロ気が回らんかったわ、なにこのイケボ。
その愛くるしいビジュアルにそぐわない、ちょっとハスキーな渋いお声。
若いお兄ちゃんには出せないね、この年輪重ねたちょいダミな低音は。かといってダミダミし過ぎず、程よいカサついた感がダンディ・ダンディーってな。低くて太い、しゃがれ気味ハスキーの渋み極みだわ。アタイ、イケボにはちょっと拘りがありますの。
「心配すんなよ、嬢ちゃん。異世界課に連れてってやるから。すぐにお家に帰れるから安心しな。」
「どっふうぅぅ?!」
ハイ、2度目のどっふうぅ出しちゃいましたー!!
いや、そんな突っ込みしてる場合じゃない、我に返ればその前もさらにその前も!
「今とさっきとその前と他にも色々なんっつたーーー!!!」
三代目?
手を斜めに掲げて踊ってみる。
イヤ違うだろ、3人目だ。
異世界、か?かって何だ?
異世界化、異世界可、異世界課ーーー?
ヤバい、聞きたい事はめっちゃある。
私はおもむろに口を開いた。
「ノミはいますか?」