紙様ヘルプ
ーーーっんんっ、ふっ…まっ…まだ…まだダメっ…!
下腹部にギュッと力を込め、衝動をいなそうと試みる。
力を込めたまま、はっはっと短く息を吐き、大きな波が過ぎ行くのを待ちわびた。
けれどもそれを嘲笑うかの様に、衝動は容赦なく攻め苛み続ける。
擦り合わせる様に内股になった太ももが震え、膝は意思に反してカクカクと笑い、立っている事さえ難しい。
寒くなどないのに全身はゾワリと粟立ったまま、知らず握りしめた掌に自身の爪が刺さった。
ダメなのに、これ以上動いたら…!もう、もうっ…
ーーー限界なのだ。
足を動かす振動も、ホンのちょっとの刺激すらももう耐えられない。
早く解放されたい。
早く解き放ちたい。
それしかもう考えられない。
滲んだ視界に、自分が泣いてるのだと気付く。
ーーーいっそ何もかも捨てて、ここでぶちまけてしまえたらーーー。
しかし残された僅かな理性が、足を止める事を許さない。
そうよ、もう少しっ…
もどかしい思いでカチャカチャとベルトを外し、パンツスーツのジッパーを下ろそうとするが、震える手のせいで上手くつかめない。
お願い、お願い…!お願いだからっ…!もう我慢できないの!早く早く早く!!
引きちぎるようにジッパーを下げきり、そのままの勢いでスーツのパンツとストッキングと下着を同時に引き下ろした。
破けてもかまわなかった。
涙をこぼしながら、願ってやまなかった場所にペタリと腰を落とす。
ああ…ああ……っ……ああーーーッ!!
間に合った…………ぐすん
いつもなら便座にはペーパーを敷き、さらには中腰で用を足すが、そんな場合ではなかった。
大人として、いやさ人として、大事な何かを失う所だったのだ。
それはもう泣いちゃうくらいに。
ああ…良かった……本当に良かった…。
膀胱ありがとう…よくぞ耐えてくれた。
辛かったろう、苦しかったろう。私もだよ、私も辛かった…。
もうダメだと何度も思ったさ…。
諦めないで良かった、頑張って良かった。
ありがとう便器様、ありがとう紙様。ここにいてくれてホントにありがとう…。
ジャバーン、ゴボゴボボボ…!
クイッとレバーを押し、紙様が渦を巻きながら勢いよく流れて行く様を感慨深い思いで見送る。
辛かった日々も終わった。
あんなに苦しかったのにまるで無かった事のよう。
ああ、こんなにも身体が、気持ちが軽い。
さらば辛かった日々よ。日々じゃないけど。数時間だけど。
苦しかった過去はもう流した。ここからは新しい私。生まれ変わった私。
ーーーそう、生まれて初めてーーー
緑のドレスの、サンドイッチが好きな王女様の歌を鼻歌に、トイレのドアを開け一歩踏み出す。
油性マジックで《1F北W.C》と書いてあるピンクのトイレ用サンダルは、古ぼけて黒ずんだタイルではなく、瑞々しい草を踏んだ。
えっ?