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悠久な再会  作者: 天空瞳
9/16

9・友達と苦手

読んでいただいてありがとうございます。

あと1,2話で冒頭に続きます。説明長くてすみません(ーー;)


評価、ブクマありがとうございます!励みになります!


次の日、一人で馬車に乗って学院へ登校する。今日から授業が始まるので、ワクワクしながら窓の外の景色を眺める。

 しばらくして、馬車が学院へ着いた。御者の手を借りて馬車から降り、門を潜る。色とりどりの花や木々を眺めながら建物の入り口にたどり着いたとき、視界の奥の方で人だかりを見つけ思わず立ち止まった。


 女子生徒八割り、男子生徒二割。女子生徒は頬を赤く染め黄色い声でキャーキャー言っている。


(なんだ?)


 人だかりはゆっくりと移動していた。首を傾げて少し背伸びをして中心を見ると、紫がかった銀色の髪、黄金を思わせる金の瞳。その微笑みに何人かの女子生徒が嬉しそうに倒れていく。


(あー。あれが第二王子)


 人だかりの中心は、この国の第二王子、フラウス・フォン・アメリアス殿下だった。第二王子は私の四歳上だったはず。学院に通う前にお父様とお兄様が絶対に近寄るなと念押ししていた人物だ。


 普段は見られない王族にミーハー感覚で視線を向けると、一瞬背中に悪寒が走った。


(何!?)


 キョロキョロと辺りを見回しても異常は何も無い。悪意も感じない。だけど、慎重に目に魔力を通して、辺りをゆっくりと見回すと、第二王子のところで視線は止まった。


「うわぁ……」


 第二王子の周り、背後に取りまきのように付き従う女性達。ただし、その身体、足元は薄く透けている。

 鳥肌が全身に浮き出て、思わず自分の腕を抱きしめる。


「気持ち悪……」


 前世でも、お化けとか苦手だった。お化け屋敷は絶対に入らないし、心霊番組なんて絶対に見ない。

 それなのにこんなところで見ることになるなんて、目に通していた魔力を戻し吐きそうになる口元に手を当てて、コソコソとその場を後にした。後ろ姿を第二王子に見られているとは気づかずに……。

 なんとか教室までたどり着き、席に座って詰めていた息をゆっくり吐き出す。


(何あれ。気持ち悪いぃ。生き霊なのか死霊なのかわかんないけど、怖い!もう近づきたくない!)


 ガクガクと震える腕を抱きしめて俯いていると、隣の席に座っていた令嬢が声を掛けてきた。


「あの、大丈夫?ですか?」


「あ、えっと……」


 心配そうな声に、ゆるりと顔を上げて令嬢を見る。そして息を飲んだ。

 髪色はどこにでもいる茶色だけど、その瞳は漆黒。だけど夜の空のように暖かく澄んでいる。その容姿は、白い肌が輝いているように見え、大きな黒い瞳、小さな鼻、桜色の唇が黄金比のように配置されている。

 数秒見つめ合ったあと、令嬢が狼狽えた。


「あ、あの、ごめんなさい。急に声を掛けたりして。具合が悪そうだったから。私は、ファーミア・エリュ・リルリアと言います」


 鈴を転がしたような声に、華が開くような笑顔にさっきまでの悪寒が消えていく。

 しばし見つめ合い、私は自己紹介をしていないことに気づいて慌てた。


「あ、あ、あ、ご、ごめんなさい。私は、ディアナ・フォン・メリーセント、です」


「フォンって!す、すみません!侯爵位の方に失礼を!」


 勢いよく頭を下げるファーミア様に、慌てて頭を上げて貰う。


「ああ、いや、気にしないで下さい。エリュ、と言うことは伯爵位、ですよね」


「はい」


 私が気にしていないと言ったから、ファーミア様はホッと息を吐き出した。

 この世界では、爵位が下の者から上の者へは気軽に声を掛けられない。爵位が上の者が発言を許してからでないと話せない。王族相手では、言わずもがな、だ。

 だけど前世庶民の私は、そんなの面倒くさいと思ってしまう。公の場ではちゃんとするが。


(そんなのがあったら気軽に友達なんて作れない)


「私のことはディアナと呼んでください。お友達になって貰えると嬉しいのですが」


 はにかんで言うと、ファーミア様も微笑んでくれた。


「では、私のこともファーミア、と呼んでください。是非」


「ありがとう。じゃあ敬語もなしね!」


「いいのでしょうか?」


「いいよ!その方が楽だし!」


 元気に言うと、ファーミアは苦笑した。


「わかった。よろしく」


「うん!」


 この世界での初めてのお友達に、私は浮かれていた。そう、浮かれていたのだ。

 さっきまで。


 目の前の人物に、視界が回った。回転椅子でクルクル回されたときくらいに、回った。そして意識を失った。

 ただ、麗しの笑みを見たから倒れたのではないことを、ここに記しておく。


 なぜこんなことになったのか。それは昼休みに起こった。

 ファーミアと友達になり、一緒にお昼ご飯を食べようと、教室を出ようとしたところで、教室のドアを開くと、そこに、居た。


 向こうもドアを開こうとしていたらしく、手が中途半端なところで止まっていた。その手に沿って視線を上げると、第二王子の顔があった。目があった。後ろの霊と。


「~~~~~~~っ!!!」


 恐怖で声なき悲鳴を上げて、クルクル目を回して、私は意識を失ったのだ。


 意識を失っても夢って見るのかな、と思いながら目の前の光景を見つめる。


 そこは、前世で住んでいた家。子ども部屋に二人の子どもがいる。片方は私。もう片方は、一歳違いだった兄だ。


 幼い二人は仲が良く、一緒に遊んでいた時もある。その中で、学習机と一緒に買って貰った回転椅子で、遊んでいた時のこと。

 私はあまり三半規管が強くなかったのですぐに目が回った。それが面白かったのか、兄が必要以上に回し、私は目が回りすぎて倒れた。


 慌てた兄はすぐに母を呼んできて、私は病院に担ぎ込まれたそうだ。

 私が目覚めるまで、兄はずっと私の手を握りしめて傍にいたのだと、目が覚めたあと母に聞いた。こっぴどく叱っておいた、と笑顔で付け加えられたときは、兄に同情したが。


 目の前を流れていく映像をボンヤリと眺めていると、身体が上に引っ張られる感覚がした。恐らくもうすぐ目が覚めるのだろう。それまで、もう会えない母と兄の顔を忘れないようにジッと見つめていた。


 ゆっくりと目を開けると、真っ白な天井とクリーム色のカーテンが視界に入った。この世界でも前世の保健室と同じ配色なんだなぁと思っていると、茶色が視界に移り、そちらに視線を向けると、ファーミアが心配そうにこっちを見ていた。


「大丈夫?」


 コクリと頷くと、ホッと笑みを浮かべた。起き上がろうと身体を動かしたとき、ファーミアが座っている右側の手に温もりを感じて視線を向けると、ファーミアが私の手を握っていた。

 再度ファーミアを見ると、視線の意味に気づいたファーミアは頬を染め、心配だったから、と呟いた。それが可愛くて、起こそうとした身体はまたベッドに沈んだ。


「ディアナっ!?」


「大丈夫、ちょっと、めまいが」


「先生、呼んでくる!」


 慌てて椅子から立ち上がったファーミアを、繋いだ手に力を入れて引き留める。


「だ、大丈夫!大丈夫だから」


「本当に?」


 目尻を下げて見つめてくるファーミアに嘘はつけない。ニコリと笑みを向けた。


「本当に大丈夫だから。落ち着いて」


「うん」


 再び椅子に腰を下ろしたファーミアに頷いて、身体を起こして改めて周りを確認すると、保健室には私とファーミアしかいなかった。


「あの、殿下は?」


 恐る恐る聞くと、ファーミアは一瞬言いたくなさそうにしたが、ため息を吐いて口を動かす。


「あの後、ディアナをここまで運んで、しばらくいたけど授業が始まるからって、教室に戻っていった。また来るって言っていたけど」


 最後の言葉に、上った血がまた下がって行く感覚がした。


「ディアナ!顔、真っ青!大丈夫!?」


「大丈夫、じゃないかも……。ファーミア、私、殿下に会いたくないのだけど、どうすればいいかなぁ」


 途方に暮れた顔をしていたのか、ファーミアは私の手を両手で強く握った。


「わかった。私に任せて!」


 自信満々に言ったファーミアは、とてもいい笑顔だった。

 そして手のひらを私に向けて、魔力を練った。


「【反射】」


 ファーミアが言葉にすると、水色の魔力が私の周りに渦状にたゆたった。不思議にそれを眺めていると、手を下ろしたファーミアが十三歳にしては発育している胸を、誇らしげに反らした。


「これで大丈夫!」


「何をしたの?」


 クルクル渦を巻いている水色の魔力を見ながら、ファーミアに聞いた。


「これはね、光の反射を利用した術でね。今、ディアナの周りには水の膜が張ってある状態で、それが外から入る光を中で屈折させてそこにあるものを見えなくさせる魔法なの!」


「へー」


 その後もファーミアは光の屈折とは等、色々話していた。理科の授業を受けているような気分になって、うんうんと聞いていたが、そろそろ終わらせないといけない時間になった。


「ファーミア、それでこのままで居たらいいの?」


 話を遮る形になってしまったが、ファーミアは自分が熱中して話していたことに気づいて謝った。


「ごめんなさい。私いつも夢中になっちゃって、話が長いっていつも怒られるの。でもここまで聞いてくれたのはディアナが初めて!ありがとう。それで、えっと、そう。光の屈折で今ディアナは外からは見えないようになっているから、殿下が来たときはそのままでいいよ。ただ、ベッドに座っていると布団のへこみで気づかれる可能性があるから、私の横に居た方が良いよ」


 ニコニコと笑顔を向けるファーミアに、疑問を聞いてみた。


「ファーミアは、私のこと見えているの?」


「ううん。見えない。でも自分の魔力はわかるから大丈夫。殿下が部屋から出たら魔法も解除するし」


 なるほど。と頷いて、自分でも【隠蔽】の魔法を使えることを思い出して、自分に掛ける。ファーミアの魔力を邪魔しないように水色の魔力の間を埋める形で白い魔力が流れていく。


 そうやって対策をしていると、扉の外が騒がしくなってきた。


「来たかな」


 椅子から立ち上がり扉の近くまで行くファーミアに続いて、ベッドから降りた。


 ノックの音がしてファーミアが返事をする。背中を悪寒が走る。

 ゆっくりとドアが開いていくのを見つめる。女子生徒の騒がしい声が明確な音量として保健室に響く。その女子生徒たちを笑顔で交わして第二王子殿下は二人の男子生徒を連れて、部屋に入ってきた。

 扉を閉めたことで騒がしさはマシになったが、それでもキャアキャアと、黄色い声は聞こえてくる。


 ファーミアはカーテシーをして、殿下に頭を下げる。


「楽にしていい」


 殿下の言葉に、ファーミアは身体を起こした。


「君は、あのとき傍にいた子だね」


 爽やかな笑顔をファーミアに向ける殿下に、ファーミアはニコリと微笑んだ。


「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。リルリア伯爵家が娘、ファーミア・エリュ・リルリアと申します。殿下のご尊顔を拝謁できましたこと、恐悦至極に存じます」


 ファーミアの挨拶を、殿下は苦笑して頷いた。


「ここは学院だ。堅苦しい挨拶はなくていい。それより、あの時の女子生徒は目が覚めたかい?」


「ありがとうございます。女子生徒ですが、目が覚めたのち体調が回復しなかったので、帰宅いたしました。わたくしは、殿下への言付けのためこちらに残りました」


「言づて?」


「はい。ご迷惑をおかけしたことと、直接挨拶できないことの謝罪と、運んでいただいたことへの感謝を」


「……。そう」


 ニコリと微笑んだ殿下の顔を、改めて見ると、その目の奥は笑っていない。そして背後の令嬢達は初めて見たときと同じように、殿下の背後で、足元、身体が透けている。恋する乙女の顔をして殿下を見つめている。背中に寒気が襲い、一歩後ずさった。


(早く、帰って!)


 手を握りしめて目を瞑る。その願いが届いたのか、傍に控えていた男子生徒の一人が殿下に何か耳打ちをした。すると殿下は一つ頷いて、笑みをファーミアに向ける。


「それじゃあ、その女子生徒に謝罪と感謝を受け取ったと伝えてくれるかい?」


「承りました」


「じゃあ、またね」


 笑っていない目がこっちを向いた気がして、胃が縮んだ。

 殿下が部屋を出て行って、立ち去っていくのにつれて女子生徒も部屋の前から去って行く。全く何も聞こえなくなって、詰めていた息を吐き出した。

 ファーミアが指を鳴らして魔法を解除する。慌てて私も解除した。


「大丈夫?」


「うん、なんとか」


 フラフラする足で、ベッドまで行き腰を下ろす。心配そうに顔を覗き込むファーミアに苦笑を返した。


「顔色悪いし、本当に今日はもう帰った方がいいよ。先生には私から伝えておくから」


「ありがとう。そうする。今日はごめんね。色々」


「気にしないで。友達、でしょ?」


 頬を染めて笑みを浮かべるファーミアの顔は、とても綺麗だった。


 それから、家の馬車を門のところまで呼んでもらい、それに乗って学院を後にした。


 それを殿下と一緒に居た男子生徒に見られているとも、気づかずに。

 

ありがとうございました。


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よろしくおねがいします。

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