Welcome to BFCarnaval
ついにゲームの話が始まります…。
次の日、3人は時間通りに待ち合わせ場所の駅前・金色時計に集まった………訳はない。
5分前に着いた八都寧、丁度に着いた梵の2人しか待ち合わせ場所にはいなかった。
そう、生粋の遅刻魔〝南条 颯〟が時間通りに来るはずはないのだ!
寝坊、忘れ物、ゆっくりし過ぎ、人助け、エトセトラエトセトラ…全てのパターンの遅刻をする颯は勿論今日も遅刻をした。
ちなみに今日はただの寝坊だ。
「はぁ(ため息)、やっぱり今日も遅刻なのね。颯は…。」
「そんなに遅刻が多いのか?」
「うん。逆に時間通りに来たら天変地異が起こるんじゃないかって心配になるレベル。」
「そりゃヤバいな…。今日も間に合わなくてよかったのかもな。」
急に2階のデッキがざわつく。
「あぁ、颯が着いたみたいね。」
「なんで分かるんだ?」
「あの人移動の仕方が派手だがら近づいたらすぐ分かるのよ。」
2階デッキから2人がいる1階の金色時計までを繋ぐエスカレーター。その手すりを滑りながら降りてくる1人の男がいた。
颯だ。
2階に続き1階も騒然となるが当の本人は素知らぬ顔だ。
「月城さん!梵!お待たせー!」
「これが派手な移動か。漫画の主人公みたいな登場だな。」
「そうなの。毎回困るのよね〜。何度言ったら分かるの?南条くん?普通に来てよ。」
「ごめん、ごめん。でも、これが一番速いんだよ。」
平謝りする颯になんだかんだ許す八都寧、いつもの光景だ。
周りのざわつきが収まった頃、それじゃあ行こうかと歩きだす。
「どこに向かってるの?ゲーム屋さん?家電屋さん?」
「このビルの40階。」
「え?まじ?」
駅前は小規模な摩天楼だ。代表的なのはそれぞれ50階建てのツインタワービルと、その横に聳える駅直結の44階建てのビルなのだが、勿論高層階は高級レストランや賃料の高いオフィスが並ぶ。
その駅直結ビルのほぼ最上階に近い40階に今から行くというのだから八都寧の反応は正常なものだ。
そんな格式が高い所に行くならもっとマシな格好をしてきたのに…と自分の格好を悔いている。
後悔しても遅いと言わんばかりに梵はスタスタと歩を進め、エレベーターに乗る。40階のボタンを押すと、1分もしない内に到着しドアが開く。
『Welcome to Bombardeo Flash Carnaval』
目の前にはゲームかと錯覚するような非現実な空間が広がっていた。
そこら中で見かける銃と刀と爆弾、巨大なモニターに流れる銃撃戦、熱狂する人々、オシャレすぎるバー、ネオンが輝くお店、地下(実際は39階)へと通じる怪しげな道、何かのランキングを印すボード、そして何より西洋風の大広場!他にも触れるべき点は沢山あるが今は情報過多だ。とにかく、ゲームの中やテーマパークと言われても疑わない程の空間がそこにはあった。
「何ここ!!」
「ここは……ビルの40階だよな?」
「あぁ、一応3フロアぶち抜きで実際のBFカルナバルにある街並みを再現している場所だ。ここの施設名は『カルナバルベース』。世界中の主要の都市には大体あるし、小さな都市にも小規模のがある。逆に東京のはもっと凄いぞ。」
「ひぇー、ゲームの世界が現実にまで浸透してるのね。」
「ここはフルダイブVR機器及び周辺機器・公式グッズの販売、チーム募集、身体スキャン、大会の観戦など簡単に言えばBFカルナバルのプレイヤーを補助したり仲間達が集まる施設…それがカルナバルベースだ。」
八都寧はただただ圧倒され目を輝かし、颯は駅前高層ビルの3フロアぶち抜きした場合の賃料を試算する……捉え方はともかく目の前の世界に圧倒されていた。
するとスタッフらしき女性が近づいてきた。
「Welcome BFC〜♪BFカルナバルのIDかインディーカードはお持ちですか?」
「メジャーなら。」
そう言って梵は免許証程のカードを提示した。
「あぁ!これは失礼しました。ちなみにフロアはいくつです?」
「100です。」
その言葉にスタッフは慌ててカードをマジマジと見つめる。
「え!SharangAさんじゃないですか!この前の大会見てましたよ!サイン貰っていいですか?」
「いいですけど…、騒がないでもらっていいですか?目立ちたくないので。」
「あ、すいません。それで今日はなんの御用件で?」
颯と八都寧、そして読者を置いてけぼりにして話は進む。
「この2人がBFカルナバルを始めるので諸々揃えに…。」
「なるほど!でしたら上のVIPルームでお待ち下さい。色々とお持ちいたします!」
スタッフは素早くお店に去っていく。
「お待たせ、2人ともそれじゃあ行こうか。」
「ちょっと待って。さっきの話全然理解出来なかったんだけど。」
「後で説明する。」
「てか、梵ってめっちゃ凄い人なのか?」
「まぁ、強い部類には入ると思う。」
梵はまたもやスタスタと上の階へと進んでいく。
こいつ…自分発信の話以外はスーパードライだな!
◇ ◇ ◇ ◇
3人は2階(実際は41階)のVIPルームのフカフカのソファに腰掛ける。幸せそうな顔をしながら八都寧は梵に顔を近づける。
「そろそろ色々と説明して欲しいんだけど……。」
「お、おぉ。丁度ここにはホワイトボードもあるし説明を始めるか。」
「お願―い!」
梵は水性マジックのキャップを外し、ホワイトボードに書き込みながら説明を開始する。
「まずは概要からだ。BFカルナバルは5人対5人のフルダイブタクティカルシューターだ。」
「・・・、ごめん。もう単語が謎。」
「銃の腕前だけじゃなく頭脳戦も重要なFPSだと思ってくれ。」
「おっけい!」
「5人の内訳はGunnerが3人、Officerが1人、SPECIAL ONEが1人だ。ガンナーの中にスナイパー等も含まれる。」
もう無理…言ってる意味分からん。もう少し優しく説明してくれぇ…。颯比べて八都寧は要領よくメモをしている…この辺りが学業の成績の差にも繋がるのだろう。
「せんせー!さっぱりです!」
「ガンナーはその名の通りイメージ通りのライフル使いで実働部隊だ、武器は自由に選択できるからスナイパーライフルを選べば俺みたいにスナイパーの役割を担う。1チームに1人はスナイパーがいるのが主流だな。颯はガンナーをやってもらう。」
「銃ちゃんと撃てるかなぁ…。」
「ガンナーの構成も自由に決められるのね?」
「そうだ。なんでも自由にというわけではなくポイントの制約の中でやりくりするんだが、今はその辺は後回しにしよう。
次に、オフィサーは司令官の役割を果たすメンバーだ。索敵などの頭脳戦に必須の情報を管理・収集する重要な役だが、武器は弱い。凄い重要だけど、2人には関係ないから説明を省く。
そして最後に、スペシャルワンについてだ。」
颯も名前を聞いた時から気になっていたので、今まで以上に耳を傾ける。
「このBFカルナバルが他のゲームと一線を画した要因…スペシャルワン。スペシャルスキルという強力なスキルを持つのが特徴だ。複数のスペシャルワンの中から択一して選択する。八都寧の場合は剣士を採用だな。銃等の遠距離武器を持たない代わりに近距離戦に持ち込めば敵なしだ……一応まずこんな所かな。」
「なるほど…。剣士というスペシャルワンがあるから私を誘ったって訳ね。これまでなんで私なんだって疑問だったの。」
「逆に、この説明を聞かずに即決した行動力というか…決断にビックリしてたよ。それほどに龍造寺と戦いたいんだな。」
「ま、まぁね……。話を聞いてみれば師匠がこのゲームに熱中している理由も分かったかも。銃を主体とするゲームに刀で挑む…、剣道で敵なしだった師匠は勝ち負けがわからない緊迫した戦闘がしたかったのかもしれないわね。」
「颯も理解できたか?」
「フワッとはな〜。月城さん…、メモ書き見せてもらっていい?」
「勿論いいよ。どうぞ。」
颯は八都寧のメモ書きを写真に撮る。
以下メモ書き
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『Bombardeo Flash Carnaval』
5vs5のフルダイブタクティカルシューター
→銃撃戦かつ頭脳戦・情報戦。
味方は5人。
内訳
Gunner 3人(実働部隊)
銃は任意に選べる。SRは1人が主流。
※水篠梵がスナイパーライフル、南条颯はアサルトライフル。
Officer1人しかいない(司令官・情報戦担当)
索敵等の頭脳戦・情報戦に必要なスキルが使える。
その分武器は弱い。
SPECIAL ONE 1人(私が使う。)
強力なスペシャルスキルを使える。
複数の種類があるが、私が使うのは剣士。
剣士は銃を持たない代わりに近距離戦が強い。
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颯が一通り目を通し、少し理解度があがった所です部屋の扉はノックされた。
「どうぞー!」
「失礼します。身体スキャンの準備ができましたので呼びに参りました。」
先程のスタッフだ。
「身体スキャンって何だ?」
「大事なことを説明し忘れていた。BFカルナバルは電脳世界での銃撃戦なんだが…操作する肉体は現実世界の自分自身のものを使う。その為に自分の身体をスキャニングする必要があるんだ。」
「え、太ってたら太ったまま、痩せてたら痩せた身体のままプレイするって事か?」
「そう。だからプロeスポーツ選手も自身の肉体のトレーニングをする必要があるんだ。」
「たしかに…、ずっとゲームしかしていない身体にしては水篠くんって筋肉質だもんね。」
「あぁ、鍛えないと試合の途中でバテる。」
「わぁお〜!ほぼ現実世界との境界がないゲームだね。」
「逆に考えれば、八都寧は慣れ親しんだバランスの取れてる身体で剣を扱えるし、颯の驚異的な身体能力は武器になる。」
「やっと梵が俺たちを誘った理由が分かってきたよ…。」
何故に銃撃戦のゲームに俺たちを誘ったのか疑問だったがこれらの説明を聞いてやっと理解できた気がする。八都寧はスペシャルワンの剣士として、俺は身体能力の高さとパルクールという特殊技能でスカウトされたようだ。
「では、身体スキャンを行うので移動をお願いします。」
3人は階段を降る。
実際のプレイはもう少々お待ちを!!
【補足】
BFカルナバルは身体スキャンによって自分と同じ身体を使ってプレイする。その為、挙動は基本的に人間ができることに限られる。また、現実世界で足が不自由な人には特例で変更を認めるなどその辺は臨機応変に対応している。
○身体スキャンの頻度
一般プレイヤーは2年に一度やればゲームをプレイできる。
オンライン大会出場の際には基本的に1ヶ月以内のスキャンデータが必要。
オフライン大会の場合は大会当日にスキャンする。格闘技の体重測定的な雰囲気で行われます。
世界大会までになるとゲームにログインする際に毎回スキャニングされます。
※身体スキャンの様な現実世界でのサポートが必要な為、今回で3人が訪れた様な施設が各都市に存在します。
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