Abnormal Professor
世界大会もしーあーるも良かった。
大学教授 院瀬見零のもう一つの顔は…。
世界最先端ゲーム〝BFカルナバル〟が去年末に追加した新機能V-Phone。現実世界でV-Phoneを購入すれば、仮想世界…つまりゲーム内にいる人間と通話できる最先端機器。これまでメールで現実との連絡は取れていたが、声で会話できるようになった事で仮想世界と現実世界の境界がまた少し薄くなったと実感できる。
ただ、V-Phoneは高価という問題により2か月経った今でも世間には浸透はしていなかった。それでも一部の富裕層やビジネスで活用している会社などが購入し徐々に販売数を伸ばしている。
古都大学教授の院瀬見零はそんな高価なV-Phoneのユーザーの1人。大学教授が富裕層なのは言葉にするまでもないが、彼女にはもう一つの収入源がある。
それはプロのe-Sports選手。院瀬見零=プレイヤーネーム〝NF_Zero〟は誰もが認める日本No1チームNineFoxのオフィサーであり、彼女の頭脳によって集積された情報はチームを王座に君臨させ続けている。
様々な分野に知り合いが多い彼女が今回通話をかけているのは水瀬奈加だ。一週間前にコーチを依頼した手前、その動向把握が必要である。
「おはよーう、奈加。先週にいきなりお願いした颯くんの進捗はどう?」
今日の日付は2050年の2月21日。南条颯と水瀬奈加の最悪の出会いから一週間が経ち、2人は高い目標を達成する為に地獄の様なスケジュールで特訓中だ。
『おはようございます。ヴォルトが無茶な事に挑戦したいって頑固やから、寝る間を惜しんで指導ですよ。おかげさまで今日も睡眠不足なんですから!お肌が荒れたらどう責任取ってくれるんですか?』
「安心しなさい。奈可は肌荒れなんか気にしなくていい風貌よ。」
『見た目が幼くても中身は成人ですよ!一日ぐらいコーチを変わってください。』
「無理無理。NineFox杯を主催チームの私が仙ヶ谷にだけ露骨に贔屓したら批判殺到しちゃう。だからあと1週間頑張ってちょうだい。」
『引き受けたので今回はやり遂げますけど、次は無いですからね!』
「私の生徒の中で一番の才能を頼りたくなるのよ。奈加は心理学もBFカルナバルも私に次ぐ実力者なんだから。自分が優秀なのは理解してるでしょう。そんな貴方が指導している颯くんはどう?」
『基本的には教授に貰った資料通りの性格ですね。他にもこれまでの試合やMeTuberとしての姿も考慮して細かかい部分を変えながら指導中です。』
「資料といっても、梵ちゃんに貰った情報が大半だけどね。いい感じに進んでる?」
『そうですね…、プレイスタイル面では銃をサブマシンガンに変えた事で着弾率は上がってます。でも、煙幕やフラッシュの使い方にはまだ改善の余地があるので彼独自の成長を邪魔しない範囲内で教えてます。あと一週間あればある程度までは成長するでしょう』
「それは何より。コーチとして100点の働きね。メンタルトレーナーとしてはどう?」
『そっちはもう諦めました。2週間で不安を感じやすい精神構造を自然に改善するのは無理です。なので強硬手段…外的に強力な方法で心理に訴えかけようかなと…。』
「あらら、余りオススメは出来ない方法ね。彼の精神崩壊の可能性もありそうだけど。」
『無理難題を課したのはヴォルト本人なのでどうなっても文句は受け付けません。ですが、根拠はない自信があります。才能豊かな彼ならどんな試練も乗り越えるだろうって。』
「リスクを説明しても彼には無意味そうだものね。」
『間違いないです…、一週間で嫌というほど実感しました。成長率が異常に高いのでやりがいはありますけどね。』
「それは何より。彼の週末のレポートもちゃんと届いてたし、言うことなしね。」
『ありがとうございます。では、残り一週間最後の追い込みを施します。』
「了解。成功を祈るわ、私の可愛い一番弟子。」
『念を押しますけど、今回で最後ですから!』
「ふふっ…勿論よ。では、頑張って。」
院瀬見零は満足げに微笑みながら通話を切った。奈加が意外にも本気の指導をしている事に驚きながらも、ヴォルトがランク90になったと報告を事前に受けていた事を思い返せば、やり甲斐のある弟子なのだと予想できる。週末レポートが精神崩壊判定の一歩手前だった事を加味すれば想像を絶する特訓内容なのだろう。颯の胆力と奈加の調整力に期待して待つしかない。
「南条颯くん、君は奈加の本気の指導に耐えられるかな…。」
零は学者という職業病ゆえに気になった事を徹底的に調べ上げる性格である。今回のモルモットの南条颯…VAULTに関する情報もあらかた収集し終えていた。元々は梵のチームメイトが苦しんでいると聞き、被観察者の母数を増やす為に有象無象の1人として声をかけただけだった。だが、南条颯という人間は有象無象に収まるらないのは明らかだ……、彼は私の興味を向けるに値する今後が楽しみな期待の新人だ。そんな発芽前の才能に優秀な一番弟子が携わる状況には自然と心が躍る。
1週間後のNF杯が非常に楽しみだ。
ただでさえプロeスポーツ選手・心理学者の両面において重要なイベントであるが、そこに才能の花が開くと思うと今から待ちきれない。
笑顔がこぼれ落ちたまま院瀬見零は研究室を出た。




