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130㎝の天才

時は少しだけ遡り、颯が退出した後の古都大学・院瀬見(いせみ)教授の研究室にて。


「教授!にゃかは只の学生だって何度言ったら分かるんですか?便利な部下ではありません。」


所属学科の主である教授に対し強く抗議しているのは水瀬奈加(なか)。130㎝の身長に可愛いモノ好きの性格が影響した服装により彼女を初見で成人済みの大学生だと判断するのは不可能だ。


「奈加も4月から3年生、そろそろ卒論の準備の為にも色々と研究しなきゃでしょ?そのついでに今回のコーチの件引き受けてよ〜。」


「イヤです。今年度に入って5人目ですよ!もう十分に研究材料は揃ってますし、何より面倒です。」


高校三年生の春、学業が非常に優秀だった彼女は国内文系大学の最高峰・古都大学でさえ難なく合格するだろうとまで言われていた。そんな折に、テレビで院瀬見教授の特集を見て、心理学部に行こうと即決した。それ程に院瀬見零という女性は魅力的に映り、掲げる思想・学問にも先進性を感じた。そして、下馬評通り難なく翌年に憧れの人の元で学ぶ権利を得た。

そこが彼女の運の尽き。教授本人は365日研究に没頭しているし、学部生という立場の彼女にも負担の大きい仕事(研究)をハイペースで割り振ってくる。普通の人であれば、逃げ出したり教授の手足になる事を許容するのだが、水瀬奈加は違った。この2年間で要求以上の成果を出し続け、生徒として唯一教授との対等な関係を築いた。だからこそ、今回の件を引き受けたくないと拒否しているのだ。


「そこを何とか、ね?今回は梵ちゃんのチームメイトだし、颯くんも非凡だから特殊なデータが得れると思うのよ。」


「水篠梵、プレイヤーネームSharangA(シャランガ)が教授にとって非常に重要な情報提供者である事は理解していますが、それは()()()には関係ないです。」


(れい)は悩む。梵という重要なサンプルの安定の為にも、特殊なデータが得れそうな颯をコーチする事は一石二鳥の案件なのだ。しかし、彼らがNF杯に出場している以上、直接指導する事はできない。私の代役として数年後には学者としてもプレイヤーとしても大成するであろう水瀬奈加ほどの適任者はいないが、彼女には手元に残り続けて貰う為に対等な関係を認めている。ギブアンドテイクで協力して貰うしかない。


「分かったわ。じゃあ、こうしましょう。今回の件を引き受けてくれたら、奈加の要求を何でも1つ叶えてあげるわ。」


やりたくないという決意に満ちていた顔に綻びが生まれた様に見えた。


「何でもですか……。それは本当ですね?」


「ええ。勿論、私にできる範囲なら何でもするわ。」


「分かりました。貸しですからね。私からの要求はしかるべき時まで保持しておきます。」


「ありがとう〜、奈加!貴方は私の生徒史上最高よ!!」


「お世辞はいいから、今回の件について教えて下さい。」


散々嫌がっていたが、いざ引き受けたら100%遂行しようとする。それが彼女のモットーだ。


「はいはい。今回、奈加に受け持って貰うのは南条颯くん、プレイヤーネームはVAULT(ヴォルト) ね。仙ヶ谷高校からNF杯に出場している梵ちゃんのチームメイト。梵ちゃんは彼に対して、前校での教訓からか殆ど何も教えてないみたいなの。実際、()()()()すら知らなかったみたいだし。」


「え、BFカルナバルをプレイしていて教授の事を知らないのは相当ですね。それ程に、水篠梵は前校の()()()()()()()がトラウマなんでしょうか。」


「その可能性が高いわ。花丘高校では梵ちゃんが満足するだけの逸材達が集まっていたにも関わらず、彼が教え過ぎた為にSharangA が居なければ何もできない彼の()()()()()()()()()()に成り下がったのよ。だからこそ、仙ヶ谷では結果的に南条颯・月城八都寧という個人主義の強い仲間を誘って自分からは多くを教えていないのかもね。」


「つまり、私のミッションは水篠梵の理想を考慮しながら南条颯の個人的な強さを強化していき、それを通じてフルダイブVRゲーム初心者である彼の心理的変化のデータを集めればいいんですね。」


「Perfect!奈加との会話はストレスが無くて助かるわ。梵ちゃんの理想は把握してる?」


「彼の研究データ集積の結果なら把握しています。自身では世界で唯一のチームを目指していますが、()()()()世界No.1チームへの憧れが強いみたいですね。」


「潜在的な目標を把握している分、奈加も指導しやすいでしょう。宜しくね。」


「分かりました。では、明日にでもコンタクトを取りますね。」


「あ、ごめ〜ん。今日の21時からって颯くんに伝えちゃったぁ〜♡」


奈加は見るからに嫌な顔をしている。零がわざとらしく発言している事を油に火を注ぐ形だ。


「今日はバレンタインデーですよ!急用を強要するなんて、非常識です!!」


「あら、何か男の子との約束でもあるの?」


「な、ないですけど…。」


「なら今日から宜しく〜。」


言い逃げをするかの如く院瀬見零は立ち去った。

タイムマシンがあれば、こんな人に憧れたウブな高校三年生の私に忠告をしに行きたいと強く思う。



◇ ◇ ◇ ◇



21時。

集合時間ぴったりにnyakaはランクタワー50階で今日から指導するVAULT を待っているが来ない。()()を強いたくせに待たせるなんていい度胸だ。

22時46分

やっとフレンド申請とメッセージが来た。彼には何か大事用事があったのだと自身の気持ちを宥めていたが、どうやら只の()()らしい。23時までに来なかったら破門にしてやろう。

23時

やっと見つけたと思ったら私の見た目で()()()()してきた。一瞬我慢しようかと微笑んだが、遅刻してきた奴に寛容にならなくていいかと思いドロップキックをかましてやった。


「急用、遅刻、子供扱い。貴方は歴代にゃかの弟子史上最低ね!」


こいつへの指導はスパルタにしてやろうと決心した。


拝読ありがとうございます。

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