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Next Psychology

ピーンポーン♪

「次は〜、新京都〜、新京都。お降りのお客様はお忘れ物なさいませんよう、お気をつけ下さい。」


高層ビルの地下から発車したリニアモーターカーは約30分で京都へと到着した。

超電動の次世代交通手段が開業してから数十年、それ以前と比べればフランクな気持ちで大都市間を移動できる様になっていた。ネズミの王国で午前を過ごして、午後に恐竜の世界の滝を落下する事だって可能だ。だが、金銭的な問題がある。他交通手段と比べれば割高なのは否めないのだ。ましてや高校生が自分で気軽に選択できる手段ではない。

しかし、彼らは普通の高校生ではない。人気MeTuberと世界で活躍するeスポーツ選手、懐具合は良い方だ。特に世界で急激に人気を広げるBFカルナバルの大会で複数の賞金を獲得しているであろう梵はアマチュアとはいえ侮れない。

上記の様に金銭的問題はクリアだ。しかし、いつものように梵の説明は少なく、急に京都に行くのは若干の不安はある。だが彼の行動には深い意味があると知ったが故に黙って着いていくしかない。


ピーンポーン♪

「ドアが閉まります。駆け込み乗車はご遠慮下さい。」


新京都駅に到着した2人はバスに乗り換えて文系大学の頂点〝古都大学〟へと向かう。ちなみに理系なら東京の〝首都大学〟が代表的だか、文系選択の2人には無縁な場所だ。バスの中で周りを見渡すと顔つきからして頭が良さそうな大学生がちらほら。不得意な勉強強者たちに囲まれて自然と姿勢を正した颯をよそに、梵はカフェオレを飲みながらスマホをイジっている。コイツはブレないな…、いや自分の興味以外への関心がなさすぎるだけだ。


バスは到着し、人の波に流されながらバスを降りた。名物でもある独創的な絵や主義主張の書かれた張り紙を横目に古都大学の構内へと入っていく。目的地は心理学部棟みたいだ。梵は慣れた足並み歩いているので何度か来ているのだろう。心理学部棟に入り、階段を駆け上っていくと、

【古都大学心理学部次世代心理学科 院瀬見(いせみ) 零 教授】

と毛筆で書かれた看板を掲げる部屋の前で立ち止まった。


「ここが目的地?」


「そう。院瀬見(いせみ)教授にコーチを引き受けてもらった。今の颯が強くなるには彼女以上の適任はいない。けど、それ以外の依頼をされても断るのを勧めるよ。厄介なオバサンだから面倒くさい事に巻き込まれる。」


ガチャッ…。


『誰が厄介おばさんだってー?』


扉を開く音と共に3~40代ほどの女性が葉巻を吸いながら出てきた。眉間に皺が寄っているのは梵のせいだろう。普通なら美しい顔立ちに目を奪われるのだが、それ以上に彼女の独特な風貌が印象付けられた。丈の長い奇抜な白色のコートに赤のパーカー、フランクなズボンに機能重視の分厚い靴…、そして白っぽい水色の髪にスノーボードで着用するようなゴーグルをかけている。支離滅裂なファッションながらも何故だが彼女が身に着ければ違和感を失う程フィットしている。想像していた大学教授像とは全く異なる人物が目の前にいた。

あっ、首元にタトゥーも見えた…。


「面倒くさいのは事実じゃないですか。」


「オバサンの部分を訂正して頂戴?私まだアラサーなんだから。(ボン)ちゃんも偉くなったわね。5年前はあんなに…、いや貴方は昔からこうね。」


「俺の名前は(そよぎ)です。いい加減覚えてくれませんか?」


「知っているけど、ワザと言ってるの。ボンちゃんのほうが可愛い響きだわ。」


「これ以上言っても無駄な気がするので辞めておきます。それでは、本題に入りましょうか。横にいるのが南条颯…仙ヶ谷高校のVAULT です。残りの話は2人でして下さい。では失礼します。」


梵は紹介を終えると颯爽と部屋を去った。照れ隠しなどではなく本心から教授の事が苦手なのだろう。急に初対面の年上の女性との1on1 (話し合い)の状況となり、きちんと目を見て挨拶をする。視線を合わせると目の下のクマを発見した。研究に没頭して寝る時間も無いのだろうか。


「初めまして!仙ヶ谷高校1年、南条颯です。特技はパルクール、趣味は動画制作です。何も知らされて無いですが、宜しくお願いします。」


「あら、丁寧にありがとう。私は院瀬見(いせみ)(れい)、この大学で()()()()()()を研究しているの。」


「次世代心理学って初耳なので、あまりイメージがなくて…。」


()()()()()()()だから知らないのも無理はないわ。簡単に言うと、VRが社会に浸透しきった未来の世界を心理学の面から研究していこうっていう学問ね。一度死んだらお陀仏の現実世界と、何度でも死ねる仮想世界を比べたら人間の心理や思考に違いが出ると思わない?世界の技術は加速度的に進んでいる。現実世界が人口過多や環境問題、エネルギー問題で苦しむ今、社会機能が仮想世界に移される日も近いと思うの。人間の原初の恐怖である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()できるとは思わない。だからこそ、今から仮想世界での人間心理を研究しておくべきなのよ。」


勉強嫌いの脳が言葉をフルオートで拒絶しているが、目の前にいるファンキーな女性の脳内が自分とはスケールが違いすぎる事だけ理解した。簡潔に、未来のためにVRゲームをしている人達の心理を調べているという事だと記憶に留める。


「それで…、コーチをしてくれるって話だと思うんですが。」


「そうね。旧知の(ボン)ちゃんのチームメイトが()()苦しんでいる様に見えたから声をかけたの。私なら彼の理想のチームも把握しているし、君のエゴを常識で削ることはしない。その辺のさじ加減は心理のプロに任せてちょうだい。」


「なるほど。(そよぎ)の前言撤回に戸惑いを感じてたんですが、あながち方針は変わってないんですね。」


「あの子が自分の思考を変える事なんて滅多にないわ。唯一去年の夏に仲間に興味を無くして、BFカルナバルに飽きたって言いだした時には驚いたけど、剣道少女のお陰でやる気を取り戻したみたい。彼は自己中心的で、興味本位、端的な話法に、負けず嫌い…、10歳の頃から死のない世界で戦いに明け暮れた青年として()()()()()()()なのよ。彼は私の学問に必要不可欠。私が君に協力するのも、(ボン)ちゃんが再度BFカルナバルに飽きて私の研究を妨げないようにする為…、Win-Winな関係でいきましょう。」


「随分と冷たい言い方ですね。」


「知への探求者の頭の中なんてこんなもん。私がオープン過ぎるのは反省しなきゃだけどね。」


俺は強くなりたい、教授は梵の為に俺を強くしたい。言い方に気に入らない部分はあるが、Win-Winな関係なのは確かだ。俺と教授は握手を交わした。


「これからコーチとしてよろしくお願いします。」


「勿論よ。でも、問題があるの。君たちが出場しているNineFox杯は()()()()()直接プレイヤーと関わることを禁止されている。だからー、私の部下を挟んで間接的にコーチをさせてもらうけど…いいかしら?」


「??。よく理解できませんが禁止されているならそれでOKです。お世話になります。」


「それと…………、毎週末に自分の精神状態とか考え方とかをレポートにまとめて送ってもらえる?」


「えーと、それにはどんな意図が…??」


「せっかくだから君も研究したいっていう私の学術的興味よ。改めてよろしくね、新しいモルモットちゃん♡」


欲求を満たした顔で教授は部下であるコーチの詳細が書かれているという封筒を渡して、颯を見送った。パワフルさに押されて毎週末の宿題まで引き受けてしまった。未来の自分に恨まれそうだ、いや既に数分前の自分を恨んでいる。

帰り道の導線に梵は座って待っていた。顔を見て察したのか道場顔で近づいてきた。


「厄介なオバサンだったでしょ?」


「う、うん。パワフルなお姉さまだったよ。」


「そのレポート死ぬほど面倒だから今から心の準備しておきな。」


「まじかー、勉強系だけはしたくないのにーー。」


「面倒くさい事に巻き込まれるって忠告もしたじゃんか。」


「想像以上の負担だったよ…。」


院瀬見教授の次世代心理学を分かりやすく言うと、

普段は大人しいのにゲームをすると人格変わる人いますよね?ゲームでの振る舞いと現実世界での振る舞いが等符号で結ばれる人は少ないと思います。原因としては匿名性が高い・不死・非現実の世界だから別人格を曝け出せるのかもしれません。しかし、これらは仮想世界にも当てはまります。

近未来、仮想世界が誕生し人々が仮想世界で生きていく時に新たな心理学が必要。だから今のうちからVRゲームを生活の中心に据えている人達の心理を学ぼう。

という観点の学問です。


勿論、フィクションです。

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