120度
ギリ日曜
正に水を得た魚。
BFカルナバルへの情熱は燃えに燃えた。本音を言えば、今すぐ家に帰ってログインしたいほどだ。向上心が高まっている颯は自身のウィークポイント“エイム力”UPの為に、目の前にいる梵に指導してもらうのが最適だと考えた。
「梵!BFカルナバルを一から教えてくれないか?思い返せばちゃんと教えてもらった事なかったと思うんだ。」
「あ、それは無理。」
間違いなく答えはYesだと予想していただけに、驚きの声が思わず漏れた。
「え!?いや、俺はもっと強くなりたくて、その為にはエイム力を上げないと…。」
「うーん、颯には俺の後を追ってほしくないから教えたくないな。颯の強みはパルクールを応用した三次元機動に、卓越した運動神経、そして意識外からの奇襲だ。逆に俺の強みはなんだと思う?」
「まずはスナイパーの精度だろ?後は…、必ず優位を作り出す気がするな。」
「そう!俺の強みは正確な狙撃に、局所での粘り強さ、危険を回避する立ちまわりだ。颯がハイリスクハイリターンの動きだとすれば、俺はローリスクローリターンの動きなんだ。相反する考えがチームに上手く働くのが理想。青山田高校戦で敵に突っ込んだのは非常に俺らしくない決断だ、結果を出せばそれでいい。逆に、俺が教えた結果プレイスタイルが俺みたいな安全志向な思考になるのを避けたい。だから、これまでも特に教えてこなかったし、これからも自分自身で成長してほしい。そもそもスナイパーライフルとアサルトライフルじゃ撃ち方も違うし。」
梵の言うことは一理ある。大会前のチーム練習が始まるまで、ニト先輩やテレス先輩にはしっかり梵が練習をしていたのに対し、俺ら二人はほったらかしだった。それによって、梵の考え方を深く知らずに自由に成長できた。だが、弊害もある。今回の様に真相が分からず颯が深く悩んだり、そもそもの基礎知識すら足りていない所があるだろう。ランクマッチで通用していた行き当たりばったりの戦術では、今後は上手くいかない。猛者が在籍する青山田高校には返り討ちにあったのがいい例だ。
微妙な顔をしていたのを見透かされたのか梵が口を開く。
「正直なところ、正確なエイムで確実に敵をキルすることは期待してない。颯が生きているだけで、意識外を意識させることでプレッシャーを与えたり、全ての場所が警戒すべき場所となる。敵に印象付ければ印象付けるほど脅威になる。存在そのものに価値があるんだよ。だが、俺の思考に似れば似るほどその価値は薄まる。だから、何も教えたくないし、教えるにしても俺じゃない。俺は銃を立ち止まって撃つけど、颯のプレイスタイルなら動きながら撃った方がいいだろうし。」
自分の価値を自身が認識できていない事はよくあることだ。マップのどこにでもいるかもしれないという恐怖は存在だけで敵に悪影響らしい。
「それなら、俺が黒仮面であることを隠さない方が良いんじゃないか?」
「難しい事を言うけど、“印象”は与えたいけど“情報”は極力与えたくない。VAULT=黒仮面が結び付けられると、強い印象を与えることは出来るけどそれ以上に情報を与えすぎる。わかりやすく言うと〝理由はわからないけど、VAULTは危険な奴だ。〟という状態にしたい。各高のアナリストは優秀、情報戦では確実に負けるから情報は出来る限り守りたいんだ。それでもいつかはバレるけどね。」
テレス先輩からの受け売りだが、海外のプロゲーマーの言葉に『僕たちの試合の半分は試合前に終わっている。』という言葉があるらしい。俺の情報の秘匿はその一環なのだろう。
「わかった。つまり独学で強くなれって事だな?精一杯頑張る、、、」
「うん。独学が故の独自性は強みになると……………………」
梵のスマホが鳴った。電話がかかってきたみたいだ。
画面を確認するとゲッっという顔をしているので嬉しい相手ではないようだ。
「電話出てもいいよ?」
「無視すると面倒くさい相手だから出てくるわ…。」
梵は席を立ち、店の外で電話を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
数分して、意外にも悪くない表情で席に戻ってきた。
「颯!先までの話、なし!最強のコーチ見つかったから紹介するわ。」
「ん?数分前と言ってること違い過ぎね?180度方針転換してるじゃん。」
「俺が教える訳じゃないから、120度ぐらいってことで。提案されないと気づけない良策もあるんだなって思った。」
自分の思考に囚われ過ぎない事も成功者のコツだと聞いたことがあるが…、それにしても急すぎる。
「とりあえず、教えてくれる人ができるなら嬉しいから良しとするよ。」
「コーチと言っても撃ち方とかではなくて、メンタル面のコーチだからね。今から挨拶しに古都大学心理学部に行こうか。」
ん?心理学部?もしかしてメンタルケアでもされに行くのか?ここ数日は悩み事があったが…それはお前のせいだぞ?
「今から京都に行くってこと!?」
「リニアなら30分で着くでしょ。善は急いだ方が良い。」
急遽、京都。
梵の考えを覆した電話先の相手とは?
シャランガが世界レベルなので分りにくいとは思いますがローリスクローリターンの動きです。
古都大学のモデルは京大。つまり最高峰。




